温泉かい?
「わっ、おっき~い!」
「こんなおっきなお風呂初めてなのだ」
浴場につくなり歓喜の声を挙げたのはアナとウルだ。
もうもうと立ち込める湯気と石造りの大きな露天風呂が目の前に広がり、興奮を隠せない。早速飛び込もうとする二人を制止するパイの声が響く。
「ちょっと待つアル。湯船に浸かる前に身体を洗うアルよ」
「……」
きょとんとした顔の二人をみてやれやれといった顔をする。
「仕方ないアルな、こういうお風呂ってのは……」
「汗かいた身体のまま入ったら、お湯が汚れちゃうでしょ? だから入る前にはちゃんと身体を洗うのがマナーなのよ」
「おおー、さすがおっきいだけはあって物知りだな」
割って入り説明を加えたのはユノだ。
頼れるお姉さん的な雰囲気をかもし出すユノを見て目を輝かせる若年の二人。その目線の先は豊か過ぎる胸元に注がれていた。
「お前たちどこ見てるカ!最初に止めたのはわたしアルよ。わたしも少しは敬えアル!」
「ちょっと触っていい?温泉もだけど、こっちもこんなに大きいのはじめて見た」
「ウルも触りたいのだ、ウルよりもおっきいのだー」
「もぅ、しょうがないわねぇ……少しだけですよぉ」
キャッキャッする三人を見て、パイは眉を吊り上げ頬を膨らませていたのだった。
「へぇ、外ってのがちょっと恥ずかしいですけど開放的でいい気分ですね」
「これが温泉かい?気持ちよさそうだよねぇ、それはそうとなんで身体を隠すんだ?」
続いて入ってきたはルルティアとガルシアだ。
長いタオルを身体に巻き、その細い身体を隠しているルルティアに対し、ガルシアは堂々とそのひきしまった身体をさらしている。
その身体にちらちらと視線を送るが、顔を真っ赤にしてすぐに目を背ける。見たい想いと、いけないという想い、自分の凹凸の少ない身体と比較してと、様々な感情が渦巻いているらしい。
「わ、わたしのはその……とても人様には見せられるようなものではないですし……」
「そんなことはないよ。こんなにきめ細かくて真っ白な肌なんて羨ましい、ルルちゃんはとってもきれいだよ」
「き、きれ……」
ガルシアがルルティアの頬のラインを指でなでると、まだ湯にも浸かってないのに真っ赤にのぼせてしまうルルティアだった。
「ふぅ」
「君の髪きれいなストレートだね、ボクなんてこんなだよ」
エマは白く長い髪を洗い、湯船につかないように頭の上にまとめていると、となりで身体を洗っていたヨハンナに声をかけられた。
確かにヨハンナの髪は濡れているにもかかわらず、まだはねているほどの剛毛である。
「そう? くせっ毛もかわいいと思うけど?」
「無駄毛の処理とかも大変なんだよ、じゃあ交換してよー」
「それは嫌」
笑いながら冗談を返すと間髪容れず返ってきた拒絶の言葉に、後ろに「ガーン」という擬音が見えるくらいヨハンナが凹む。
「剛毛、良いではないですか、我等ドワーフにとっては誇るべきことですぞ」
後ろから声がかけられ、二人が振り返るとそこにいたのはコリンだった。
「ドワーフは髪や髭をどうアレンジするかがおしゃれのポイントですからな。剛毛の方がいろいろとアレンジしやすいし美徳なのですぞ。わたしから見たらヨハンナ殿が羨ましい」
「あー、うん……どーもありがと……」
鎧に身を包んでいたためわかりにくかったが、コリンの髪の毛は細くきらびやかで軽くウェーブがかかっていてとても美しい。そして幼子かと勘違いしてしまいそうなほど凹凸のない小さな身体には無駄毛などなくツルツルとしてきれいなものであった。
その身体を見て、ヨハンナの傷が更に深まったのであった。
ベルトーシカとオウルはサウナの中にいた。
お互い何を話すわけでもなく、じっと汗を流しているがお互い意識してるのかちらちらと見合う。
「ここはなんなのだー?」
勢いよく扉を開けて入ってきたのはウルとアナだ。
「開けたらすぐに閉めなさい。熱い空気が逃げちゃうわ」
「あっごめんねー」
ベルトーシカが注意を促すとアナがすぐに扉を閉めた。
新しく入ってきた二人はしばらく物珍しそうに中を眺めたり、座って脚をプラプラさせていたがやがて「あっつーい」「もう出よ」とすぐに出て行く。それと入れ違いに、今度はコリンが入ってきた。
「おおっオウルではないか。見当たらないと思ったらこんなところにいたのか」
「やれやれ、うるさいのがきたな……」
オウルが憎まれ口をたたくと、ベルトーシカの存在にも気づき挨拶を交わし、たわいのない話をする。その話の中でベルトーシカに尋ねた。
「お二人はどのくらいサウナに入っているのですかな?」
「大体三十分くらいじゃないかしら、わたしの国ではお風呂に入るよりもこっちで汗流す方が主流だから慣れているのよ」
「ほぉ、すごいですな。わたしはもう限界ですぞ、そろそろお暇しますが、お二人もほどほどに……」
そう言うとコリンは出て行った。
しばらく沈黙が続いたがその空気を破ったのはベルトーシカだ。
「あなた、まだ出なくて大丈夫なの? 真っ赤よ」
「オレは大丈夫、そっちこそまだ出ないのか?」
「さっきも言ったでしょ、わたしは慣れているのよ」
そう言ったベルトーシカの口には何かが含まれ、コロコロと転がしていた。
「……何を食べてるんだ?」
「ん、これ?」
ベルトーシカは自分の口から透明な玉を取り出して見せると目を細め、にやりと笑った。
「なっ、氷!おまえだけズルイぞ!」
「んー、何がずるいのかなぁ? ほしいならあなたにも作ってあげようか?」
「ぐぬぬ」と唸ると、ただでさえ真っ赤な顔を更に赤らめ出て行ってしまった。
それを見送るベルトーシカは氷をまた口の中に入れた。
「だから言ったでしょ、慣れてるって……」
リズとモモは温泉に浸かって身を休めていた。
「はぁ~極楽極楽」
「ね、こんなに大勢で入るなんて滅多にないからなんだか楽しいしね」
周りを見回すと対戦した相手や観戦しててすごいとおもった人たちが同じ湯船に浸かっているのだ。そしてこれらのメンバーとこれから学園を過ごしていくのかという考えに思いを馳せていた。
「ホント楽しみだよねぇ、強そうな人も多いし闘ってみたいなぁ」
「えーなにそれ。モモって戦闘狂なの?」
「いんやー強くなりたいだけだよー。わたしにも目標みたいなこととかあるからねー」
「へー、なになに?」
「うーん……だめ。ないしょー」
「ケチ―」
疲れた体で湯につかっていると頭も体も一緒に湯にとろけ混ざり合って溶けていく様な感覚をおぼえ、口元を湯につけぶくぶくしていると黒いワカメのようなものが浮かんでいるのに気づく。
「何あれ?」
声をかけると、モモがあからさまに嫌そうな表情になった。
その黒い物体がこちらに近づいてくる。二人の前で止まると、それは徐々に盛り上がっていく。黒い物体はワカメなどではなく人の髪の毛だ。真っ黒な髪は顔の前面に張り付き、隙間から黒目が異様に大きい目がのぞいていた。
「ひぃっ」とリズが軽く悲鳴を上げる程、それは熱い湯に浸かっていても身の凍るような姿だった。
「神様ぁ~、わたしもそばにいていいですかぁ~?」
その正体はクロエだった。
モモはふぅと鼻でため息をつく。
「……いいよ、でも神様って呼ばないで、わたしの名前はモモだから」
「モ、モモ様ぁ~」
クロエの表情がぱっと明るくなる。見た目はまだ怖いままだが……
そのまま嬉しそうにモモのとなりへと居座り、じっとしている。
「……なんでなつかれちゃったんだろうね?」
「さぁ、なんか光がどうたらとか言ってたよね?」
「は、はい……モ、モモ様の光には、わわわわ、わたしの中の悪魔を滅ぼせるき、希望をををを見出したのです」
「なんだ、ちゃんと話そうと思えば話せる人なんだね?もっと怖い人なのかと思ってたよ」
ほっとしたリズがクロエに話しかけた途端クロエの表情が固まった。そしてすーっとまた湯のなかに沈むと静かに去っていくのだった。
「……なんだったの? あの子?」
「わたしなにか悪いこと聞いちゃったかな?」
「うーん……」
岩場の影まで来たクロエは身をもだえさせていた。
〈ああああー逃げちゃったー! もう、なんで自分はこうなんだろう? 初めての人と上手くしゃべれないし、すぐにどもるし、固まっちゃうし、逃げちゃうし。頭の中で何度もシュミレーションしてても上手く話せないどころかぼーとしてておかしい子って思われちゃうし! もっと社交性身につけなきゃ!〉
そう、クロエは好きでボーとしていたり、人と話さないわけではなかった。
本当は人と仲良くしたいし、上手に話せるようになりたいと願っているただのコミュ症なのである。だがスピリチュアルな見た目や死霊魔術師という職業から勘違いされやすいのであった。
どうやったら人と上手く話せるのだろうと考え、頭をゴンゴンと岩に打ち付けてる姿をルルティアが発見すると、「キャー」と驚き悲鳴を上げるのだった。
シンシアとミコトが浴場の扉を開く。
「もう少しで三次試験の説明があるわよー。そろそろ上がりなさーい」
「はーい」とぞろぞろと裸の少女たちが湯から上がり、出て行こうとする。
教師二人が裸なのに気がつき、リズが声をかけた。
「あれ、先生たちはこれからですか?」
「ああ、わたしも汗かいたし、三次試験はエルザさんが受け持つからな」
「ふーん、じゃあお先しまーす」
「身体ちゃんと拭いてからいきなさいねー」
更衣室に出て行った少女たちにシンシアが声をかける。その様子を見ていたミコトが尋ねた。
「シンシア、お前また胸大きくなったんじゃないのか?」




