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英雄譚はいつも紅に染まる  作者: パン定食
カシシュミナ学園、入試試験
11/92

一体のゴーレムにも魂

 一体のゴーレムの前に少女がいた。


 瓶底のような眼鏡をかけ、頭の上の大きな帽子からはひどいくせっ毛がのぞき、後ろで結んだ三つ編みはまるでエビフライのように見える。


 受験者を前にしてなぜかゴーレムは全く微動だにせず人形のように動かない。少女はそのゴーレムの模様を書き変え「ふんふん、なるほどなぁ……ここの魔術回路で効率化を図っているのか……」などとぶつぶつ独り言を呟いている。


「よし、完成! これでこのゴーレムはわたしの(しもべ)だ」


 そう言うとゴーレムに手を当て、一息ついてから言葉を発した。


「我の名はヨハンナ・ヴァンデル。汝のマスターなり! さぁ我の命に従え、ゴーレム」


 ヨハンナがゴーレムに魔力を込めるとがらんどうだった眼に光が宿る。そして同じくがらんどうの口から声が聞こえる。


「ゴシュジンサマ、ゴメイレイヲクダ、サイ」

「おっ、しゃべった、言語機能もまあまあ上手く機能したみたいだね。それじゃあ、えーと……」


 ヨハンナはあごに手を当てしばらく考え込む。


「もちもち。うん、お前の名前はもちもちに決めた」

「ナマエ?」


 ゴーレムが少し身体を傾け聞き返す。


「そう、名前。呼び名がないと不便だろ」

「ナマエ、モチモチ……」


 心なしかゴーレムの表情が緩んだように見える。


「モチモチ、ナニシタライイ、デスカ?」

「それじゃあ他のゴーレムを見つけて倒せ!」


 ビシッと指をさし命令するとゴーレムは早速行動に移す。


「モチモチ、ガンバ、リマス」


 そういうや否やダッシュで駆け出していった。


「えっ?まって、もちもち~! ボクを置いてくなー!」


 一人残されるヨナンナはあわてて追いかけながら叫んだ。




 それから数分後、もちもちの頭の上に乗ったヨハンナは他のゴーレムを見つけていた。


「いたぞ、もちもちお前の実力見せてみろ」

「リョ、カイ」


 ヨハンナはもちもちの頭から降りる。

 発見したゴーレムはおよそ二メートル、腕にボウガンが仕込んである遠距離タイプだ。対するもちもちは三メートルほどの近接攻撃タイプ、早速距離をつめるために走った。


 ゴーレムはヨハンナに気づきボウガンを構えるが、もちもちが間に塞がると構えを解いた。その隙に攻撃範囲まで近づいたもちもちがゴーレムを殴る・殴る・殴る。


「あちゃー、ゴーレム同士だと戦わないかぁ、せっかくもちもちとどっちが強いか競わせたかったのになぁ……」


 ヨハンナがいつでも魔石を取り出せる状況のゴーレムを僕にしたのは自身の書き変えた魔術回路(プログラム)とシンシアの設定した魔術回路ではどちらが優秀なのかを実験してみたかった、という意図があったらしい。

 目論見が外れ残念がってると遠距離タイプのゴーレムはただの土くれに戻っていた。


「ゴシュジン、サマ、ゴ、レムタオシタ」

「……よくやったよ。ありがとう」


 そう言うとヨハンナはもちもちの頬あたりをなでた。


「ご苦労さん、じゃあもう戻っていいからな」


 そう言うと「ゥ」と声を上げもちもちの眼から光が消え動かなくなった。そしてヨハンナは崩れたゴーレムから魔石を拾い上げ、もちもちの方を見て呟く。


「魔石はこいつ一つで十分だし、まぁもちもちの分は誰かもってくだろう……」


 そう呟くと短い時間だが僕として従えたゴーレムを残し、その場を去っていった。




 それからしばらくすると細目で青いゆったりとした服を身にまとった女性が通りかかった。

 彼女の名前はユノ・バレンティア。口元にほくろがあり、シンシアに勝るとも劣らない巨乳の持ち主だった。


「あらぁ、ゴーレムさんがいるわね」


 おっとりした口調と動作で動かないもちもちに近づく。


「全然動かないわ、壊れちゃったのかしら? わたしって機械とか弱いのよねぇ……」


 もちもちを触りながら独り言を口にしてるその時、意思を失った土人形が倒れ崩れてしまった。


「あら、あらら~。どうしましょう、壊してしまいました……あら?」


 ユノがあわあわと動揺していると崩れた土の中に魔石があるのを発見したのだった。





 森を抜け学園に戻ってきたリズとモモはそれぞれ持っていた魔石をシンシアに手渡した。


「はい、もってきました」

「はい、確かに受け取ったわ、合格おめでとうね。あっここに名前記入してね」


 そう言って「一次試験合格者リスト」と書かれてる紙とペンを渡される。二人が名前を書いているとシンシアに声をかけられる。


「そうそう、あなたたち二人よね。おっきいゴーレムちゃん倒したの」

「ええ、そうですけど……なんで知ってるんですか?」

「ふふふ、そりゃあ管理しないといけない立場だからね、あのゴーレムちゃん達の目を通して誰が何してたのか全部見てたのよ」


 えっ、と二人が驚きの表情を浮かべると、それ見てシンシアがいたずらっぽく笑った。


「くすくす、あのゴーレムちゃんは一体だけの特別製でね、いろんなタイプの性質を持ち合わせてる上に能力も向上させてるの。そうそう倒せる子じゃないはずだけど、二人とも優秀だったわよぉ。特にあなた、魔法剣なんてすごいわね。少しその剣見せてくれないかしら?」


 そう尋ねられたモモは少しうつむき考えた。


「でも、重いですよ……」

「そんなおっきいの無理よぉ、見るだけでいいの」


 シンシアは両手をひらひらさせ無理だという仕草をすると、モモはあきらめたように剣を地面に突き立てた。


「ふふ、ありがと。珍しい剣だからつい、ね」


 自らゴーレムを作るくらいだからセクシーな見た目とは裏腹に研究熱心な面も持ち合わせているのだろう。ほぼむき出しの胸の谷間から眼鏡を取り出すと、突き立てられた巨大な剣をまじまじと眺める。


〈谷間から眼鏡だと!〉


 リズとモモは谷間から眼鏡を取り出したことに驚き、その谷間をまじまじと眺めていた。


「……あのシンシアさん、この剣や魔法剣のこと秘密にしてもらえませんか?」

「ん? それは構わないけど……まぁいいわ、事情も言いたくないんでしょう?」


 大人の女性だからか、察しがよく気がきく余裕を持ち合わせている。

 モモが黙ってうなずくと、リズのほうにも同じお願いをした。


「うん、わたしも黙っておくよ」

「二人ともありがとう、この剣は特別なものだから……」


 モモが礼を述べるとシンシアを呼ぶ声が聞こえる。どうやら魔石を持ってきた受験者がやってきたらしい。


「行かなくちゃね。剣、見せてくれてありがと」


 そう言いウインクをするとシンシアは呼ばれた方に向かっていった。


 試験終了まではまだしばらく時間がある。リズは少し離れたところにあるベンチを指差し、座ろっかと提案した。

 そしてベンチに腰掛けるなり棄権しすでに帰宅したイノリについて会話を切り出した。


「イノリちゃんは残念だったね。あのおっきいのが特別製だったら他のゴーレムなら倒せてたかもしれないのにね」

「そう? わたしはあの子は棄権してよかったとおもってるけど」


 予想外の答えが返ってきたことにリズは面食らってしまう


「わたしたちが目指してるのは戦場だから……ああいう弱い子はここで普通の生活に戻った方が彼女のためだと思うな」

「へぇ、モモってそんなはっきり物言うタイプだったんだ。ちょっと意外……」

「……うん、よく言われるかも……キライになった?」


 そう言うとモモはチラッと横目でリズのほうを伺った。


「……ううん、むしろ嬉しい……じゃないな、楽しいかな」

「楽しい?」

「うん、もっとボーっとした子なのかなって思ってたらちゃんといろいろ考えてるんだなぁって」

「えーなにそれ、ひどーい。もうリズなんか嫌い」


 そう言うとぷいっと横を向く。

 そして二人は笑いあう。


「うそうそ、冗談。わたしね、リズのことは一目見て好きになっちゃったんだ」


 『好き』と唐突に言われ思わず赤面してしまうリズ。そんな心情などお構いなしにモモは話を続けた。


「この子は強い子だなって……何があっても折れない、自分の目標を追い求め続ける。そんな強さを持ってるって感じたの……だから君に声をかけたんだよ」

「……ん~、ありがとぅ」


 突然褒められ言葉にならない声を上げ小さくお礼を言ったリズの顔は更に赤くなっていた。

 その表情を見ていたずらっぽくにかっと笑うモモはリズの頬に指を当てながら言った。


「さっきのし・か・え・し」

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