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どうぞよろしくお願いいたします!


「ユリウス!わたしたちに弟か妹ができるのですって!」


「そうだね、レティシア。お母様、僕たちの弟か妹はいつ生まれるのですか?」


今にも飛び跳ねそうな喜びを全身で表現しているレティシアと、普段はとても大人びて見えるユリウスの年相応なキラキラとした表情を見て、王妃はとてもやさしい瞳で嬉しそうに眺めていた。


「そうねぇ…、この子が生まれてくる頃にはきっと、二人の大好きなカスターニャが美味しい時期になっているのではないかしら。」


カスターニャとは、硬い棘のある殻に覆われた、秋の深まる頃に食べられるようになる、二人の大好物である。蒸して食べたり、つぶしてケーキの生地に練りこんだりと、様々な方法で味を楽しむことができる。


「その子が生まれたら、一緒にカスターニャを使ったケーキを食べたいわ!あとは、お揃いのドレスを着たり、刺繡をしたり、、ピクニックもいいわね!」


「レティ、気が早すぎるよ。それになんで妹が生まれる前提なの?」


興奮冷めやらぬ様子のレティシアに、少し押され気味のユリウスというほほえましい構図だ。

レティシアはかねてより妹か弟が欲しいなと、ユリウスに言っていた。いくら王族としてマナーや教養を身に着けていようとも、まだ子供で、お姉さんぶりたい年頃なのだ。


「だって、わたし妹が欲しいんですもの!いえ、本当を言うとどちらでもいいのだけど、、ただ、一緒にドレスを選んだり、お花を摘んだりするのも素敵だなと思っただけよ! そういうユリウスは、どちらがいいの?」


「そうだね、、僕もどちらでも構わないけど、弟ができたら嬉しいなと思うよ。乗馬を教えたり一緒に魔法の練習をしたり、大きくなったら剣の稽古を一緒にするのもいいかな。それに、かわいい妹ならもう既にいるしね。」


「なによ!乗馬も魔法も剣のお稽古もわたしと一緒にしてるじゃない!それはわたしが付き合ってあげるから、やっぱり妹ね。わたしにはかわいい妹はまだいないのだし。」


クスクスと笑いながらまだ生まれてもいない妹か弟と何をするかを言いあっている二人は、よく手入れされたプラチナブロンドに宝石のようなエメラルドグリーンの瞳、幼さを残すピンク色の頬、どれを取っても愛らしく、母親である王妃だけでなく、控えているメイド達も口元を緩ませていた。


ふと、愛らしい2人のエメラルドグリーンの瞳が、お互いではなく、様子を見守っていた王妃に向いた。


「「ねえ。お母様?お母様は女の子と男の子どちらがいいの?」」


ぴったりと声を揃えて期待に満ちた目をした2人に、クスリと笑みをこぼした。


(あらあら、先ほどのパーティーでの様子を見て、ずいぶんと大人になってしまったのねと、少し寂しくも感じていたのだけど、(わたくし)の可愛い天使たちはまだまだ子供のようね…。)


「そうねぇ…、(わたくし)にはすでに可愛い息子と娘がいるのだし…、どちらでもいいかしらね。ユリウスとレティの弟か妹なら、天使のような可愛さに違いないもの。」


そういって、10歳の子供が2人もいるとは思えないような若さと美しさを持つ王妃は、周りに薔薇でも咲いて見えてしまいそうなくらいの、麗しい笑みを浮かべた。


控えているメイド達が頬を染めているくらいなのだから、免疫のない年頃の青年などが見たらどうなってしまうのだろうかと、ユリウスは密かに心の中で心配していた。


(隣国の王家の姫として、教養だけでなくその美しさで数多の王侯貴族から求婚されたという話を聞いたことがあったけれど、本当にお母様は表情の作り方一つからして完璧だ。社交や外交のことを考えると、僕も見習はなくては、、。それにしても、レティシアも大きくなったらお母様のように美しくなるのだろうし、将来きっと縁談がたくさん持ち上がって大変になるのだろうな…。)




王妃は子供の性別について何も言わないが、実際、男児を周りから期待されているのはもちろん分かっていた。

ユリウスという優秀な第一王子がいるにせよ、第二王子という"保険"を多くの者が望んでいるのは知っているし、仮に第一王子が立太子して王位に就いたとしても、第二王子に自身の娘を娶らせ、直系の王族とつながりを持ちたいという者は山ほどいる。

そんないろんな者の思惑が絡まる中で、純粋に自分の妊娠を喜んでくれる幼い子供達は、王妃にとってはとても得難い存在であった。


「2人とも、そろそろ着替えの時間ではないのか?」


そう言いながら扉を侍従に開けられて入ってきたのは、ユリウスとレティシアの父親であり、この国の王であるアレクシスであった。

声を聴き留め、アレクシスが部屋に入ってくるのを見ると、レティシアは駆けてその胸に飛び込んだ。


「お父様!!」


飛び込んできたレティシアを仏頂面で抱き上げながら、アレクシスはあまり大きくはないがはっきりとした声で


「レティシア、おめでとう。」


と言い、気づけば足元まで近寄ってきていたユリウスと目を合わせた。


「ユリウス、おめでとう。」


普段より少し緊張した面持ちのユリウスは、それでも嬉しそうに、胸に手をあてて略式の礼の形をとった。


「ありがとうございます。お父様。」


「うむ。お前ももう10歳か。 早いものだな。妹や母、民を守れるように、しっかりとやりなさい。」


「はい。力の限りを尽くします。」


そんな2人のやり取りを、アレクシスの腕の中から眺めていたレティシアは、不思議な気持ちになった。


(ユリウスは、わたしと同じ年だけど、お父様からとても信頼されているのだわ。わたしももっと頑張らないといけない。いつまでもユリウスに手を引いてもらっているだけではいけないもの。)


レティシアが胸の内で決意を固めていると、アレクシスはレティシアを腕の中からそっとユリウスの横に下すと、一見すると無表情に見えるが、感慨深く並んだ二人を見つめ、口をひらいた。


「2人とも大きくなったな…。儀式も王族として、恙なく済ませるように。では。」


そう言って踵を返し、アレクシスは入ってきたドアからまた出て行った。


「陛下はまだ公務が終わらず、儀式のお見送りもできそうにないので2人の姿だけ見に来たようね。」


いつの間にか、アレクシスの側近が王妃付きのメイドに伝え、そこから報告を王妃は受けたようだった。

レティシアはアレクシスがいなくなったドアの方を見ていたが、隣に立っていた王妃の顔を見上げた。


「お母様は来てくださるのですか?」


そう聞いたレティシアは、明るく笑顔で振る舞うことを努めているようだが、落胆している事を隠しきれてはいなかった。


「もちろんよ。レティとユリウスの大事な儀式だもの。(わたくし)がきちんと、陛下の分まで二人をお見送りするわ。」


「レティ、僕も一緒にいるから、心配しないで。」


王妃は2人の頭を撫でながら、ユリウスはレティシアの手を握りながらそう言った。


(2人ともわたしが寂しそうにしていたから、気を使ってくれたのだわ。先ほど、お父様にもっと信頼してもらえるように頑張ると決めたばかりなのに、、これではいつまでたってもユリウスには追い付けないわね。わたしもお姉さまになるのだし、もう子供ではないのだから、しっかりしなくては。)


10歳は一般的に見て歴とした子供で、まだまだ甘えたい盛りなのだが、王女としての振舞を普段から求められるレティシアを()()()という言葉の枠に当てはめて考えるのは難しい。

もっとも、ユリウスが王族という特殊な枠の中でも際立って優秀で大人びているので、それと比較されることに慣れているレティシアが一般的という枠の中に納まるのはそもそも無理な話なのかもしれない。


「さあ2人とも、儀式用の装いに着替えていらっしゃい。(わたくし)はこちらでお茶をしながら待っているわ」


「はい、お母様。レティ、行こう。」


「そうねユリウス。お母様、無理をなさらずにお部屋で休んでらしてもいいのですからね!」


そう言って二人は身を清めて着替えるために部屋を後にした。

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