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「まぁ!ご覧になって!お二人ともお可愛らしいわ!」


「そうですわね!お二人のために作られた衣装がとてもお似合いですわね。」


「さすがユリウス様だな。あの年で魔法の威力も制御も素晴らしいと聞いたぞ。」


「いやいや、ユリウス様は剣の腕もなかなかのものでしたぞ。」


「その上とても頭脳明晰でいらっしゃるとか…。将来この国は安泰ですな!」


「それに比べてレティシア様は…。いや、失礼。将来は王妃陛下に似てお美しくなるでしょうなぁ。」


「お二人ともまだ婚約者はお決めになってないというお話ですぞ。」


「うちの娘は今年5歳でな。ユリウス様の将来の伴侶にと国王陛下にお話をしたのだ。」


「いやいや、私の娘はこの間8歳になりまして、ユリウス様と年の釣り合いも取れていましてな。この間ご挨拶させていただいたのですが、それはそれは仲良くしていただけましたぞ。」


ユリウスとレティシアは自分達の誕生会に集まった上位貴族や交流のある者達が次々と挨拶に来る中で、ほかの貴族達の好き勝手な話は聞こえてはいたが、聞こえないフリをしていた。

二人とも10歳になったばかりとはいえ、王族としての教育も受けているので周りの話に反応を示したり、感情を動かしたりはしない。二人の父であるこの国の王は、王妃以外に妻を持たない。なので王の子供は二人だけである。なので自分の娘を将来の王妃にと、ユリウスの妻にと望む者は多いし、息子をレティシアの降嫁先にと名乗り出る者も多かった。それに加えてこの容姿だ。自分達が注目されるのには慣れていたのだった。そして、今日の二人の服装は、二人の瞳の色に合わせたグリーンの色のリボンをあしらったドレスと、グリーンの色のタイをした正装。もともと妖精のようだと称される二人の美貌が一番引き立つような色合いであった。そしてその二人が並んでいるのだ、注目を集めないわけがなかった。


二人の誕生日会は、王宮のパーティーなどに使われる会場で行われている。二人の年齢があるので、パーティーは昼過ぎに行われている。お茶会のような形式だ。


「ユリウス殿下、レティシア殿下、お久しぶりです。」


そういって挨拶をしたのはロザベルト公爵だ。この国の三公爵家の一つ、ロザベルト公爵家の現当主でありながら、宮廷騎士団の管理も任されている人物だ。貫禄と落ち着きのある人物だが、同時にレティシア達より年上の子供が何人かいるとは思えないほどの麗しい美貌を兼ね備えた人でもある。


「お久しぶりです。ロザベルト公爵。」


「ごきげんよう。ロザベルト公爵。」


ユリウスとレティシアは順番に挨拶をした。二人とも王族とはいえ、まだ子供であるため、公爵という国内の貴族のなかでも最上位に位置するロザベルトに対して、きちんと礼をとった。もっとも、二人は身分の上下関係なくきちんとした対応をいつでもとってはいるが。


「お二人とも、お誕生日おめでとうございます。お二人が揃ってこの日を迎えられる事を、心よりお祝い申し上げます。」


「ありがとうございます。僕もレティシアと揃って10歳になれた事が何よりも嬉しいです。」


ユリウスがロザベルト公爵にお礼を言っている横で、レティシアは公爵に微笑んでいた。最近、露骨な態度をとる者が増えてきた中で、公爵は以前と変わらぬ態度をとっている人間であった。本来、ユリウスがいかに優秀であろうと、次期王であろうと、レティシアがこの国の第一王女である事に変わりはない。

そして、わかりやすく子供を時期伴侶にと売り込んでくる者にもうんざりしていた。

なので、レティシアは、普通に優しく接してくれる公爵には好感を持っていた。


「お二人の今日の儀式に私の息子が付添人として参加させていただけることは、我が公爵家にとって、とても名誉な事でございます。ジル、挨拶を。」


そう公爵に促されて、公爵の一歩後ろで控えていた少年が、前に進み出てきた。


「お久しぶりです。ユリウス殿下。レティシア殿下。この度はお誕生日おめでとうございます。そして、お二人の儀式の付添人という名誉な役を賜りました事を、心より感謝致します。」


そう言って礼を取ったのは、レティシア達より少し年上の、黒い髪に深い青色の目をした、真面目そうな少年だった。


「ジル、お久しぶりです。僕たちにとって節目となる儀式に、ジルが付き添ってくれるなんて、とても心強いです。」


そう言って笑ったユリウスに続いて、レティシアもお礼を言った。


王族に生まれたものは、10歳になると儀式を受ける。それは、王族だけが持てる固有魔法を授かる儀式だ。固有魔法と言っても、人によって違うので、どういったものを授かるかはわからないのだ。しかし、その魔法がある事によって王族は自分の身を自分で守れる術が増えるということもあり、とても大事な儀式なのだ。そして、後に王族として成人するにはこの儀式を受けていることが条件になる。王族として成人していないと王位にはつけないので、その儀式というのは、特別な儀式や式典の時にしか開かれない神殿で、儀式を受ける王族だけで行われる。

なので、他の人間は神殿には立ち入れないのが決まりなのだ。しかし、儀式には参加しないものの、護衛と世話係として、一人だけ儀式の部屋の前まで連れていける。そしてその護衛役は年のあまり離れていない、子供から選ばれる。儀式自体危険のあるものでもないし、神殿までの道のりには多くの兵が警備をしているので、形式上の護衛であり、王族とはいえ10歳の子供の緊張を和ませるという役割の方が大きいのではないかと思われる。だが、一応護衛という名目もあるので、基本的に優秀な者が付添人として選ばれるのだ。

ジルは14歳と、二人と年もそんなに離れてはいないし、同年代の中では抜きん出て優秀だ。そして真面目な性格と公爵家という家柄も相まって、ユリウスやレティシアの将来の側近として期待されている。なので、日頃から二人と交流もあり、今回の付添人にうってつけだと言われて、選ばれたのであった。


「お二人の儀式が無事に行われるよう、微力ながら、精一杯頂いたお役目を努めます。」


「よろしくお願いします。そろそろ時間なので、公爵、失礼します。ジル、ではまた後ほど。」



そう言ってユリウスはレティシアのエスコートの為に手を差し出した。レティシアは二人に向かって美しいお辞儀をしてからユリウスの手をとった。

その二人の動きはとても優雅で流れるように自然なものであった。レティシアは、王族として、人の上に立つものとして、恥ずかしくないだけの教養は身につけなければならないと、普段からマナーのレッスンに取り組んでいた。そしてなにより、ユリウスの隣に立つのにふさわしくありたいと思っていたのだ。たしかに、魔法や勉学などユリウスは同年代の中では比べる相手がいないくらい優秀だ。しかし、ユリウスと比べて卑屈になるような真似はしたくないと、磨けるものは何でも磨こうと、王女として特に重要視されるであろうマナーやダンスのレッスンは講師が注意する隙がないほど完璧に仕上げていた。

そんな10歳とは思えないような堂々として気品あるれるレティシアの振る舞いに、目を奪われる者が少なからずいたのであった。


そんな周りの視線に気づいてはいたが、何故自分に視線が向けられているのか正しく理解していないレティシアは、見当違いのことを考えていた。


(わたしのことを見ている人たちがいるわ。何か変なところがあったのかしら?確かに、指先は少し気が抜けていて美しく見えなかったかもしれないわ。もっときちんとしなければダメね。明日からマナーやダンスのレッスンが増えるのだし、もっと頑張らなければ!)


レティシア自身は気づいていないが、彼女はかなりの努力家で負けず嫌いのようだ。いくらユリウスがすごくても、それで周りの者の態度の差に傷つくことがあっても、それでいて諦めることや、投げ出すことはしたくなかった。それはやはり、ユリウスと共にありたいという一心からであろう。


そしてオーケストラの曲が変わり、それを合図にそれまで歓談していた貴族たちが、ゆっくりと会場の中央をあけた。

毎年二人の誕生日会では、パーティーの終わりの方にダンスを一曲披露するのが恒例行事となっている。

一般的なパーティーだと主催者や高貴な身分の者が最初のダンスを踊るのが通例だろうが、レティシア達はまだ幼いので昼間とは言え、最初から最後までパーティーに出続けるのではなく、最後にダンスを披露してパーティーの最後を飾り、退出するという流れになっている。



「レティ、行こうか!」


ユリウスが笑いかけてそう言うと、レティシアは少しいたずらな笑みを浮かべた。


「えぇ、ユリウス。今年も負けなくってよ??」


少し気取った風にレティシアは笑みを浮かべて同じ目線の高さの自分にそっくりな色の瞳を挑戦的に見た。

ダンスに勝ち負けがあるわけではないが、二人は毎年勝負事のようなものをしている。どれだけミスがなく踊れるかとか、美しく踊れるかとか、採点するものがいる訳ではないが、勝敗は踊っている自分達が一番よくわかるので、自分達で決めている。ちなみに5歳から始めたこの勝負だが、最初の二年はユリウスが勝ち、その次の年は引き分け、そのあとはレティシアの連勝である。


「今年こそは僕が勝つよ。」


ユリウスは不敵な笑みを浮かべて言った。ユリウスもなかなかの負けず嫌いであるので、この日のために相当練習してきたようだ。


二人は会場の中央に進んでいき、お互いに向き合い、ユリウスがレティシアに傅いた。


「お手をどうぞ。僕の綺麗なお姫様。」


「ありがとう。わたしの大好きなお兄様。」


レティシアは輝くような笑顔でユリウスの手を取った。勝負をしているなんて周りにはわからないほど二人の動きは、優雅で洗練されたものであった。


それを合図に、オーケストラの曲が、ダンスのための曲にかわる。


「あら?お二人はこの曲を踊るのね!」


「このような難曲を選ばれるなんて、さすがですな。ユリウス様。」


二人が今年の誕生日会のダンスのために選んだ曲は、難曲と言えるものだった。なので期待の目と、面白いものが見れそうだという好奇の目が二人に集まっている。


そんな周りの視線を気にすることなく、二人は踊り始めた。


最初は滑らかに、緩やかなステップから始まり、徐々に難易度が上がっていく。周りは二人のステップ、姿勢、表情に注目している。

二人は難しくなっていくステップに、涼しい顔をしてこなしている。


(さすがはユリウス。かなり仕上げてきてるわ。…でも、これはどうかしらね?)


レティシアは、曲のテンポが上がる、難易度がさらに高くなる箇所でさりげなくアレンジを加えてみせた。そこにユリウスは自然についていく。


(さすがだわユリウス!)


笑顔のままじっとユリウスを見つめると、ユリウスがニコッと笑いながら言った。


「レティなら、このタイミングで仕掛けてくると思ったよ。」


「もぅ、なんでわかるのよ…。」


「わかるよ。双子だしね。」


レティシアはユリウスにだけわかるくらいに、頰を膨らませて、少し拗ねて見せた。

二人が小声で周りに聞こえないように話している中、ご婦人たちは口々に賞賛を並べていた。


「まぁ!おふたりとも息がぴったりだわ!」


「お二人で練習されたのかしら…?」


「ユリウス様のリードは素晴らしいわ!将来エスコートされるご令嬢が羨ましいですわね〜。」



光り輝く精巧なシャンデリア。豪華なケーキにクッキー。妖精や天使を思わせるような美しい双子の王子と王女。優雅なダンス。動くたびにふわりと揺れるドレス。


まるで物語の一幕のように、欠けるものなど何一つなかった。


そんな二人の誕生日会は、二人のダンスが終わり、招待客に挨拶のお辞儀を二人がしたことで、無事に幕を閉じた。



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