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よろしくお願いいたします!
(ユリウス視点)
過去編はあと一話で終わる予定です。
「誰だ。ここは許可なく立ち入っていい場所ではないぞ。」
ユリウスは臆することなくまっすぐに黒いローブの男を見据えながら、落ち着きながらもはっきりとした声を発した。
幼いながらも直系の王族としての教育を受けてきた彼は、守るべき妹の存在と王族としての矜持だけで、丸腰で身を守るための剣もなく、儀式後の反動で魔法も使えない状態にもかかわらず毅然とした態度を取った。
驚きと恐怖で固まってしまいそうだったレティシアも、落ち着いたユリウスの声を聴き冷静さをすぐに取り戻し、ユリウスの手を取ったまま立ち上がった。
慌てた様子を見せて、こちらに反撃の手がないと悟らせるのは悪手だ。
結界を破壊し、暗殺か何かの目的で忍び込んできたということはこちらのことは調べているだろうし、ユリウスやレティシアが魔法を使い反撃してくる可能性があることを念頭に入れているはずだ。
「レティ、結界の様子は?」
目の前の男から目を離すことなく問いかけたユリウスに、レティシアは答える。
「先ほどと変わらないわ。まだすべて壊れてはいなくて、いくつかの結界が残っていて外界とは隔離されているようね。」
(儀式の夜は結界の中に入れるのは王族の血を持ち、身を清めて儀式の衣装を身に纏っていないといけないのではなかったか、、。伝承であって事実とは異なる部分があったのか?)
レティシアからの返答を聞き、少し思案したユリウスは、すぐに目の前のローブの男に意識を切り替える。
今ここで儀式に関する情報の真偽を考えたところで、目の前の明らかな危険から逃れることにはつながらなさそうだったからだ。
(この男が暗殺の目的で来ているのであれば武器か魔法で攻撃してくる。この結界の中で攻撃や相手を害する魔法はつかえないようになっているはず。背を向けて扉に向かって走っても子供の足では追いつかれるか、暗器で攻撃される可能性が高い。武器で攻撃を受けたらどうにかして反撃して、隙を作って扉から結界の外に逃げる。結界の作用を知らないで魔法を打とうとしてきたら、その隙をみて扉まで向かう、か…。)
思考を最大速度で行い、打開策を考える。
ユリウス達の入ってきた扉とは異なる結界の歪みから侵入してきたため、その男をの横を通らずとも扉にたどりつける。幸いにも位置関係は最悪ではない。
すると、思わぬところから声が聞こえた。
「無礼ではないですか?どのような目的でここにいらっしゃったのかは存じませんが、名も名乗らず顔も見せないというのは、わたくしたちがいくら子供とはいえ、いささか礼儀にかけるのではないかと思ってしまうのですけれど。」
レティシアがいつものような優しく可愛らしい声ではなく、透き通った、けれどもしっかりと圧のある声で男に語りかけていた。
繋いだままの手からは、いつもの温かい体温ではなくひんやりとした体温が伝わってきた。
(こちらの余裕を見せ、時間稼ぎとともに相手から情報を引き出そうとしているのか。)
男は答えることなく、ゆっくりとした足取りでこちらにまっすぐ向かってくる。
(それにしても、ゆっくりと向かってくるのは何故だ?子供だから逃げられることは無いと高を括っている?それとも暗殺が目的ではない?…もしくはすぐには動けない理由がある?)
ユリウスが男に警戒しつつ思考をしていると、男はユリウス達まであと十メトル弱といったところで止まった。
少し腰を落として身構えるユリウスの反応を感じ、レティシアも同様に緊張しつつも手をつないだまま身構えた。
(これより近づくと速攻魔法で僕たちに反撃するされると考えたのか?)
ユリウス達が魔法に秀でているのは有名な話だ。攻撃魔法だと得意な属性であれば速攻魔法から広域魔法まで熟練度が高いということはそこまで調べなくてもわかるはずだ。
神殿内のような室内で、しかもこの距離で広域の攻撃魔法など使ったら、こちらも被害が出かねない。だからあえて少し距離を詰めて速攻魔法と広域魔法の間合いを図ったのだろう、とユリウスは踏んだ。
こちらの魔法を警戒しているのであれば、安易に間合いを詰めてこない可能性がある、とユリウスが考え始めたときだった。
男が突然身を引くし、駆けてこちらに向かってきたのだ。
ローブから覗く右手には、キラリと剣先が光る短剣が見えた。
(こちらの魔法は警戒していないのか!?)
そしてあと数歩の距離まで瞬間で距離を詰めた男はユリウスに向かってくるのではなく、半歩後ろにいるレティシアに向かって”左手”で攻撃するように態勢を変えようと身体を使うのが見えた。
(右手は釣り…!思ったより遅い!?)
この男の身のこなしや体裁きから想定していたよりは遅い動きに驚きつつも、繋いでいたレティシアの左手を力いっぱい引っ張り自分の後ろに回して手を放す。
男は軌道の先からレティシアがそらされたことに驚いた様子も見せず、そのまま流れるような動作で、右手をユリウスに向かって振り下ろした。
読んでいただいてる方、本当にありがとうございます。
間がとても空いてしまい申し訳ございません。
また頑張って更新してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。




