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からちゃん  作者: 井上青南
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からちゃん

第二話

土曜日の昼下がり。

今にも雨が降り出しそうな曇り空。

からちゃんは地下鉄の階段を上がると、先週見つけたカフェ、LUFUに向かって歩き出した。

人通りの少ない通りの、小さなカフェ。

先週は、マスターが、雨をめぐる考察についてあれこれお話ししてくれた。

あれから、からちゃんも、からちゃんなりに、雨について考えてみた。


いやしかし。

雨って雨でしょ。

雨が降ったら傘をさす。

雨といえば、えっ、雨といえば。

雨雲レーダー?


考えれば考えるほど、頭の中がこんがらがってくる。

なんとかして、雨についてのからちゃんなりの意見のひとつも話してみたいところだから、

マスターのお話を思い出してみたり、雨が降ればじっと眺めてみたり。


雨、アマガエル?あめんぼ。

えっ、生き物しか出てこないの。


そんなこんなで、一週間はあっという間に過ぎてしまった。


出来るだけのことは、してみたから。

そんな言い訳ともつかない言い訳を心の中でつぶやきながら、カフェに入った。


「あ、いらっしゃいませ。」


マスターの笑顔は先週よりなんだか親しみが感じられる、と、からちゃんは勝手に受け取った。

カフェの中には、女性が一人、テーブル席で読書をしていた。


35歳くらいかな、おしゃれだし、きれいな人だな。


からちゃんは、宿題を忘れた小学生のような、少しきまりのわるい思いもあったけれど、それでもカウンター席に座ってカプチーノを注文した。


な、何、これはおまんじゅう?それとも肉まん?


今日のラテアートは肉まんを半分に切ったような形。

からちゃんの困惑を見透かしたように、マスターは微笑んで教えてくれた。


「これはね、雨粒の形です。」

「あま、つぶ、雨粒って涙みたいな形じゃないの?」

「雨粒って、よくしずく型のイラストになっているけど、実際はどうでしょうか。」


そんなこと、理科でならったっけ。


からちゃんはちょっと目を丸くして、高速で脳内を検索してみたけど、しずくの形が次々に出てくるばかり。


「水だから、表面張力があって、まず、丸くなり、

そして、空気抵抗があるから、降ってくるときは、下のほうが押されて、ちょうどこんな形になるんです。」

「そうなんですか。」


雨なんて、すごく身近なものなのに、そんなことも知らなかったなんて。

それより、雨粒の形なんて、考えたこともなかった。


「考えたこともなかった、ですか。」


からちゃんは、心を読まれたような気がして、小さくうなづくのが精いっぱい。


「ふわっと思い込んでいたり、気にも留めなかったり、そういうことってたくさんあるけど、

調べてみると、新しい発見があったりして面白いと思いますよ。」


そう言われて、からちゃんは少しどきりとした。

いつだったか、友達に、からちゃんって思い込みが強いよね、って言われたことがあった。

そのときは、なんだか自分でもよくわからなかったけど。

それでも、その一言を忘れないでいるっていうのは、図星だったのか、気になったのか、何かひっかかるものがあるんだと思う。

そうか、ここはひとつ、ひと手間かけて、調べてみるのも悪くないな、という気がしてきた。


「雨のお話は退屈でしたか。」


「いえ、退屈じゃないです。

ずっと、雨の日なんてつまらないって、いやなもの、って思いこんでいたの。

雨だね、いやだね、っていわれたら、そうそう、うんざりだねって言ってた。

でも、あれから、雨について考えていたら、雨の日っていいものだって思えてきたの。」


「それは良かったです。」


雨といえば、アマガエルとアメンボですよ、とは言えなかった。


もっと考えてみなくっちゃね。

もう少し、気の利いた事が言えないのかな。


また、来ますね、と言って、からちゃんはカフェを出た。

雨についてももっと考えを深めたいし、それから、わかった気になっていることも調べてみなくっちゃ。

気にしていなかったものも、気にして、調べてみたら、「思い込みが強いからちゃん」から脱却できるかもしれない。


宿題をもらったような、でも、気分はちょっと明るくなった、そんな気がした。

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