プロローグ-2
「合言葉は?」
太陽の勤務時間も終わりを迎える頃、俺は何事もなく友人の家に着いた。これもまた一般的な一軒家だ。
そして、ごく普通にインターフォンを押したのだが、返ってきた返事はこれ以上ない程ふざけきったものだった。
「死ね。茶葉はどーでもいいからさっさと入れろよ」
俺はそんなに口が悪い訳ではないと思っているが、今回は少しばかり辛辣な言葉で反応させてもらった。
「ああなんだ相馬か、悪いがお前は俺の家に入ることなどできない。」
どうやら俺の友人は調子に乗っているようである。俺はこのバカの考えている事を理解するために少し頭を回転させた。
「鍵くらい早く開けてくれよ」
「なっ…!」
わかりやすい驚愕の声が聞こえた。どうやら正解だったようだ。
「ちっ…しょうがねえなあ、今回だけだぞ?」
似たような台詞を前回来たときにも聞いた気がするのは、本気で気のせいだと思いたい。
ーーガチャリ
と、鍵のあく音がした。それとほぼ同じにドアも開き、その隙間から金髪眼鏡のイケメンが顔を覗かせていた。神谷綾人という、俺の数少ない友人だ。
「ほい、入れよ」
「はいはいお邪魔しますっと」
友人の家に入るときに言う決まりの挨拶を口にし、俺は家に入った。
「なあ神谷、結城はもう来てんのか?」
靴を脱ぎ、神谷の自室に行く途中、俺は雑談でもしようと適当な話題を神谷に振った。
「ああ来てるよ、お前と違って時間通りに来た。」
聞き捨てならない台詞を聞き、俺はポケットからスマホを取り出し、現在時刻を見た。画面に表示されている時間は5時35分。約束してた時間は5時30分。
「おい、たった5分の遅れじゃねーかよ。」
「5分を馬鹿にしてると痛い目みるぞ。たったの5分だって出来る事はたくさんあるんじゃないのか?」
と、神谷はいい笑顔でそう言った。上手いこと言ったつもりかよ。うぜえ。
なんて事を考えている間に神谷の部屋に着いた。
ーガチャリ。と神谷が部屋のドアを開ける。そしてその扉の奥には、何度来ても見慣れることの無い異空間が広がっている。
ーあらゆる本、ゲーム、それ関連のグッズなどが部屋の体積を支配している。
その中で、この部屋に存在する極小さなスペースに、一人の少女がちょこんと座ってゲームをしている。
短く切り揃えられた髪に、シンプルなデザインの服、身長は平均よりも少しばかり低く、顔は実年齢よりも少し幼め。この少女が俺のもう一人の友人、結城綾だ。
「結城ー、相馬きたぞー。」
ーーー返事がない、ゲームに集中してるようだ。
ーーー
「んー?相馬くん来たの?遅かったねー?」
約1分半の無言空間の後、ゲームを終えた結城はそう言った。
「二人共5分の遅れに厳しいな…。」
この場合遅れた俺が悪いんだろうが。そんな大遅刻という訳ではないし、なんとも言えないい気分になる。
「相馬?早く始めるぞ、座れよ。」
そう言って小さいスペースを指差す神谷、明らかに俺たち二人が座れる広さではなかった。呆れるなあ。何度遊びに来てもこの空間酷さは言葉にならない。
「…なあ、神谷。」
「どしたよ、深刻そうな顔して。」
「もう少し、この部屋の物、どうにかできないのか?」
異空間とも呼べるその部屋に向かって、俺は懇願するように、そう言い放った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
それは唐突に起こった。
視界が歪み意識が途切れて行く。同時に強烈な頭痛が襲いかかる。歪みきった視界の中では、神谷と結城が、俺と同じように頭を抱えている。
ー頭痛、視界の歪み。頭はうまく回らず、痛みだけが神経を支配している。
一体何が起こっている??だが、何かを考え始める前に、俺の意識は完全に途切れた。