プロローグ-1
「ねえお兄ちゃん?こんな日も暮れちゃう時間にどこ行くつもり?」
日本のどこにでもありそうな平凡なマンションの玄関先。そこで俺はまるで犯罪者を呼び止めるような口調で妹に話しかけられた。なんだよ、俺が何したっていうんだ。まあ、この会話がある事は知ってたんだけどさ。
「なあ花音、俺はいつまで外に出る前に行き先を妹に尋問されなきゃいけないんだ?」
俺は反抗的にそう返しながら振り向く。視界には腕を組み、俺より視線が低いながらも、大きな態度で俺を睨みつける花音の姿が映った。相変わらず容姿だけはいい奴だ。長々と伸ばした黒髪を両サイドで纏めた髪の毛、生気に満ちた目、からの綺麗な姿勢で崩すことのない大きな態度。そんな俺の妹は、俺に向かって長い溜め息をついた。失礼な奴だな。
「お兄ちゃんは本来外に出るような人種じゃないんだから、不審に思うのも当たり前でしょ?」
似たような会話をここ1年半程繰り返しているのは気のせいだと信じたい。だが今その事について花音と議論している暇はない、俺は花音の方を向いたままドアに手を掛けた。そのままゆっくりとドアを開く。
「友達の家で遊んでくんだよ。ああ、場合によっては今日帰らないかもしれないから、母さんに伝えといてくれよ。」
最後の一文字を言い終えた瞬間、俺は速攻でドアを開き、花音の返事を聞く事なく、家を出ることに成功した。
ーーー
「全く……お兄ちゃんの癖に。友達の家に泊まるとか、どんな一般人よ。」
兄が出て行った後のドアを見つめ、花音はそう一言呟いた。