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嫌い!キライ?のその後は

作者: 桜ありま

 


 私には好きな人が居る。


 築島榮つきしま さかえ君。

 でもいつも話そうとすると邪魔をしてくるお邪魔虫が居る。

 それは……。


常磐ときわくん、ひどい……なんでいつも邪魔するんだろう」


 勇気を出して、築島くんに声をかけたのに、今日も常磐くんに邪魔された。

 へこへこにへこんでいたら、友達の知里ちゃんが苦笑してる。


「だってりこ、からかいやすいじゃん」

「ひどい、知里ちゃん!」

「えー。私も常磐とっしょなの?」

「え、ち、違うよっ! 知里ちゃんの事は好きだもん。常磐くん、キライ」

「……だから、からかい甲斐があるんだって」

「やっぱり、ひどい」


 常磐くんは大学に入って、一番初めの授業で偶然にも同じ授業を取っていた。

 初めて彼を見た時。まだこの場所に慣れない、初対面同士独特の雑然とした教室の中で、一人だけ違った落ち着いた雰囲気を持った男子だった。

 サラサラな黒髪に、黒縁眼鏡の奥は切れ長の目、はっきり言ってイケメンで。

 服装は今風のおしゃれさんだけど、理系男子って感じでちゃらい感じは全くしない。

 時間潰しに文庫本を涼やかに読んでいる彼の周りの席は、皆遠巻きにして近づかない。


 知里ちゃんはそんなの気にせずに「ラッキーあそこ空いてるよ!」とずかずかと進んで座り、そこに誰でも気さくに話しかける築島くんやその他の男子がやって来て、その流れで話すようになった。




 私は常磐くんとは対照的な築島くんに恋をした。

 そして常磐くんは苦手だった。




 初めから近寄りがたい雰囲気を持った彼だったけど、近くにいるならと話しかけると話が弾まない。

 気まずい。

 弾まないのに話しかけるのも……と思いながらも特に嫌がっているそぶりは見せないから。

 頭をフル回転して話題をムリヤリひねり出し常磐くんに構わず話しかけた結果。

 彼が他の男子に、私のこと「ウザイ」し「嫌い」と言っているのを聞いた。

 それからは必要以上に話し掛けないようにしてたけど。


 でも二人っきりになるとやっぱり間をもたせようとして話し掛けてしまう。

 そして、ビミョーな空気になる。


 好きな音楽をiPodに入れて聞いていた時なんか。

 私は上機嫌で、常磐くんが近くにいるのも、全く気付かなかった。


「……」


 ふと気がつくと、常磐くんが目の前にいて、口をパクパクさせている。ノイズキャンセラー付きのイヤホンで聞いているので、何を言っているのか分からない。はずしながら、聞き返してみる。


「アボカド?」

「アホ顔」


「だ、だって、いい曲なんだよ。元気でるっていうかじんわりするって言うか……あ、常磐くんにもおすそ分け」


 そういってイヤホン片方を差し出すと「単純だな」といって鼻で笑われた。


 嫌われてると分かっているのに、常磐くんの側にいるのはかなりつらい。

 なにか些細な事でうんざりされるんじゃないかとびくびくする。


 でもなぜか常磐くんは築島くんの親友で、二人とも気が会うらしくよく一緒にいた。

 知里ちゃんに「アンタ達できてるんじゃない?」と冗談で言われてたけど、もちろんそんな事は無く。

 二人は幼なじみらしかった。

 築島くんに話し掛けたかったら、常磐くんもオマケでついてきちゃうのだ。



 知里ちゃんか、築島くんかが中心になっているグループの輪を乱したくない。



 初めの頃は常磐くんも私を無視というか放置だったのに。

 ここ最近私が築島くんのことが好きだって分かったのか……彼の態度はさり気なく、お邪魔虫にシフトチェンジしてきた。

 そんなに私の事が嫌いだったら……段々と私も常磐くんの事嫌いになってくる。



 最近は常磐くんに言い返すほどになれてきたけど、肝心な築島くんには段々と話し掛けられなくなった。

 常磐くんとは違う意味で。


 「好き」って意識しちゃうと、なんで話し掛けられなくなっちゃうんだろう?


 築島くんの側にいると可愛い女の子になれると思う。

 築島くんの「好き」っていう物は自然にチェックしちゃうし、「おーそれ似合うね」とかお世辞かも知れないけど褒められた時は、もっとオシャレ頑張ろうと雑誌チェックしたりする。

 その努力のかいあってか、知里ちゃんにもほめられた。


 築島くんはすごく優しくていつも明るくてにこやかだ。

 本当に常磐くんとは大違い。


 男友達も女友達も一杯いて。でもよく行動をするから、知里ちゃんの次には近い存在だったらいいなと思っている。

 ちなみに知里ちゃんは年上好みだから、目下狙っているのはよく行く居酒屋の店長さんだ。

 それで、ずるくもほっとしてる。

 だって、知里ちゃんが相手なら……勝ち目ないもん。


 とにかく皆で行動するから脱出して、二人でデートとはいかないまでも一緒に遊びに行きたいと思って、前に築島くんが見たいって言っているのを聞いた映画の舞台挨拶チケットを、手にいれたのだ。


 でもうまく話せなくて、常磐くんに今日も邪魔された。


 築島くんと会話できないのに反比例して常磐くんとは会話してるような気がする。

 会話といっても厭味の応酬。

 精一杯対抗してみせるけど、常磐くんの一方的勝ちだ。


 常磐くんの側にいると、どんどんいやな女の子になって行くような気がする。


 チケット今週末なのに……財布の中に一週間以上もチケットが眠ってる。

 それはそれだけ常磐くんに邪魔されてるって証拠。



 そして私は週末まで常磐くんに負け続けた。




 常磐くん嫌いだ。

 常磐くんのせいでチケット渡し損ねた……。


 土曜日は最悪だった。

 私はひたすら常磐くんを呪ってたけど。

 でも、それはやつあたりだってわかってた。

 なりふり構わずに誰がいようと、正々堂々と映画に誘うチャンスはあったはずだ。

 築島くんに話し掛けられない勇気のない自分。築島くんの答えを聞けないのは、常磐くんのせいにして、答えを聞くのを先送りしてる。



 そうだ、映画見てこよう。



 映画が元気をもらえそうな、ラブストーリーだったという事を思い出し。

 見てから築島くんに、勇気を出して電話してみようと思った。


 築島くんと一緒に行くなら、このお気に入りのワンピースで……とか考えてたコーデで私は出かけることにした。








 な、なんでっ常磐くんもいるの!!



 シネコンで、席に着く前に飲み物を買いに売店に行ったら、そこで常磐くんにばったりでくわした。驚きのあまり固まっていると、常磐くんが何か言う前に、常磐くんの背後から声が聞こえる。


「あれ、ひーの友達?」


 しかも、彼女連れ?

 後ろから出てきたのは、可愛い女の子。

 たしか常磐くんの名前は比呂人ひろと……だからひーくん?

 自分にはこんなに可愛い彼女がいるのに、人の恋路を邪魔してたのかと思うとますます、ひどい。


「絢、先行ってて」

 そう言って、もってる飲み物を、彼女さんに渡す常磐くん。


「誤解してるようだけど……別に俺の彼女じゃないから」


 私に言い訳されても、別に言いふらしたりはしないのに。

 と、思っても黙っていたら、彼女さんが言った。


「そうそう私、榮の彼女だから誤解しないでね!」


 私は固まった。


「あ、榮って言っても知らない?」

「絢……」

「ゴメンゴメン、おじゃま虫は退散しまーっす!」


 


 突然の失恋。

 それがこんなあっさりとした形で来るなんて思っても見なかった。


 私はそうなんですかと、笑顔で返して。

 映画始まるので席戻りますね……と、丁寧に言えていただろうか?


 でも私は、自分の席に行かないで、人波とは反対側の出口に歩く。


 外は、秋とはいえかなり暑い。

 そのうだるような暑さで、ますますボーっとする。

 現実感がなかった。


 でも。



「なんでついて来るの?」


 私は後ろを振り向くと、常磐くんに言った。

 ギスギスした声だって分かってるけど、今は余裕がない。


「映画始まっちゃうよ? チケット勿体ないよ? もしかしてそれでも私を虐めに来たの?!」

「まぁ映画なんて。アイツ等の付き合いだったし……」


 確かに常磐くんのイメージとは掛け離れた映画。


 その言葉で、あの場所に築島くんもいたんだとわかる。

 もしかして、この映画を見たかったのは築島君じゃなくって、絢さんだったのかもしれない。


 私、本当に……一人で舞い上がっちゃってバカだ。



「あーアイツ等と、小学生からの付き合いだから」

「……」

「……絢は、一人女子大で」

「……」


「泣くなよ、俺が泣かしてるみたいだろ」


 ここが道だってわかってるけど、私は泣いていた。

 常磐くんはハンカチをさしだす。

 私はそれを受け取らずに、自分のバッグからハンカチを出した。拒否された常磐くんは、特に気にした様子も見せずに、ハンカチをしまう。


「知ってて、私の邪魔してたんだ」

「まぁそれもあるけど」


 それもあるけど……って常磐くん根っからのいじめっこ!?

 私がますます不機嫌な顔をすると。


「別の男にアタックする女を、邪魔するなんて理由ひとつしかないだろ」

「私が嫌いだから?」

「違う」

「えーとじゃあやっぱり常磐くんは築島くんのこと……?」


 あれ? 常磐くん私の事嫌いだったんじゃ?

 よく分からないという表情をうかべて言う私に、呆れた顔してる。


「なんで俺がここまで言ってて、分からないかな」


 じゃあどういう理由が? と頭の中でぐるぐるしてる。

 まったく思い当たらない。


「邪魔するのは、好きだからにきまってるだろ」

「人の恋をジャマするのが好きなの?」

「いや、あんたが」


 私は驚きのあまりに涙が止まった。

 普通なら一番思い当たりそうでいて、今までの私たちの関係ではそれは一番無しな理由。


「あれ? もしやこの効果を狙って……た、しゃっくりじゃないんだから!」

「聞かなかったふりしようとしてるのか?」

「ち、違うよ。だって私の事嫌いなんでしょ? 初めの頃、常磐くん他の男子に話してたじゃない」

「確かに、初めはあんたの事嫌いだったな。それは認める」


 それ認めちゃうんだ……。

 前に聞いたことは聞き間違いじゃ無かったんだ。

 でもだったらなんで? と分けがわからない顔を、私はしていたと思う。

 それぐらい常磐くんからの告白は、うれしいというよりびっくりだ。


 キライだと思われてたとずっと思ってたから。


「初めはさ、なんかあんたいい人ぶってんのかと思ってて。築島狙いだっていうのもすぐわかったし」

 そんなにわかりやすかったと驚いた顔をするだけで、常磐くんには私の心配がお見通しで「築島は知らないと思うよ」と、フォローが入る。


「でも、アンタは覚えてるか知らないけど。凄く楽しそうに音楽聴いてて、苦手な俺にも笑顔で半分こ。って……しかも変な聞き間違いするし」


 それは覚えてる。

 常磐くんは、すごくイジワルな顔で思い出し笑い。


「あーこの子、本当に人に幸せ分けるのが自然なんだって思った」

「そ、そんなに深く考えてないよ!」

「それに、意外と強いって言うか。あと、あーアンタからかいやすいからね。いちいち大袈裟なのがいい」


 そんないつもどおりの常磐くん。

 でも、内容は告白。


「私は、常磐くんの事、好きじゃない」


 常磐くんの今までのイジワルの理由が分かったけど。

 そう返事するしか出来ない。


「嫌いでもないって事だろ?」


 少し前までは嫌いだった。

 でもイジワルの理由をきいちゃうと、嫌いというか……ものすごく苦手って気持ちだけが残って。

 「好きじゃない」と答えるしかない。


「え、で、でもこれ以上、常磐くんのこと好きになるのはちょっと無理……」

「大丈夫、俺も初めは苦手なタイプで、こうなっちゃったんだったから」


 ……だから、覚悟しててね。


 そう極悪な台詞を極上での笑顔で言われたら、心臓が飛び跳ねるくらい驚くのは当たり前で、これは常磐くんにときめいてるんじゃない。



 ときめいてるんじゃないんだから。



 私は、胸の動悸にそう、言い訳した。










――――Epilogue。




 アレから数週間。



 やっぱり築島くんを見ているのは辛く。

 でも絢さんを見ていると、どうやっても二人の間には入り込めないものがあるって、降参するしかなかった。


 しかも、絢さんに会って気がついた。

 築島くんが今までほめてくれたのは……絢さんに似合いそうな雰囲気のものばかりで。



 ホント、私バカだ。



 でも、だからって築島くんのいいところはいっぱいあって。

 なかなか「好き」を卒業できない。


 そんな風に勝手に傷ついて……そんな時、気がつけばさりげなく常磐くんは隣にいる。

 知里ちゃんだけは、常磐くんの気持ちを見抜いていたみたいで、告白された事を話すと「やっぱりね」と言い、困惑している私に向かって「小学生並みの愛情表現なのよ、ガキね」とだけアドバイスした。


 告白されたといっても、口調はやっぱり前と変わらず。

 でもなんか行動は、前より親切だ。


 口うるさいけど、優しいってまるで……。


「常磐くんって、お母さんみたいだね」


 学食でご飯を食べてると、常磐くんが相席してきた。

 常磐くんはすでに食べ終わってるのに、本を読み始めてる。

 そのつぶやきは聞こえていたらしく、思い切り鼻をつままれた。


「アンタのお母さんになるつもりなんて、ないんだけど」

「でも、本当に無理だから……常磐くんなら、私じゃなくていい子いっぱいいるじゃない」

「それ本気で言ってんの?」

「うん」


「…………」


 絶句する常磐くん。


「それ本気で言ってるって分かるから、更にムカつく」

「ご、ゴメン、でも」

「あーはいはい、迷惑って言うんだろう」

「そうじゃなくて……だって、辛いじゃない」


 だって、こんなに苦しいのに。


「私、好きな人に好きになってもらえない辛さ知ってるから、だから常磐くんにも辛くなって欲しくないよ」


 常磐くんは黒縁眼鏡の奥の瞳を少し見開くと、イジワルそうに笑った。 


「これだから、天然は……」


 ぐしゃぐしゃと、頭を撫でられる。

 せっかくの前髪が……と文句を言い掛けて、止まった。


「だったら、そんな簡単に諦められない辛さも知ってるだろ」


 はじめて見る常磐くんの、少し辛そうな表情。

 何で世の中上手くいかないんだろう。


 今度また誰かを好きになるなら、それは常磐くんだったらいいな。

 そう思ってしまうズルイ女になってしまいそうで。

 でもそれを常磐くんに言ったら、ダメだと思う。


 これ以上は、常磐くんに甘えちゃいけない。


 いけないのに……否定されない、居心地が良すぎて常磐くんに甘えっぱなしだから。


「これ以上は、無理だよ」


 私は、常磐くんにそう繰り返す。

 早く、私なんか諦めてくれればいいのに、という気持ちをこめて。



 その言葉を口に出す理由が、段々と変化してる事なんて気付かずに。






2010年度恋愛遊牧民新作短編企画「お題:これ以上は無理」での参加作品です。2010/09/19自サイトにて掲載。

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