初参加②
ちょうど良さそうな一団がいた。
6人で談笑している。
僕は近づいていき、マスクを顎まで下げてから、彼らを全員を見渡し挨拶をした。
数人から一応の挨拶がと返ってきた。
どうも、と言いながら軽く頭を下げてくれた人もいた。
見た感じでは30代半ばから40代といったところの人たちに見える。
しかし表情や雰囲気どこか幼い。
大学時代にやけに老けて見える学生がいたが、それに近い印象だった。
彼らはあまり目を合わせてくれない。
目が合ったので話しかけようとすると目を反らして俯いた。
僕は優しい口調で「警察ではありませんよ。紛らわしい恰好をしていますが。」と
彼らの懸念を和らげようと先に答えておいた。
そして、デモに初めて参加する事を告げ、皆はどうなのかと訊ねてみた。
―僕は4度目、ですかね―
―3ヶ月前から毎週参加してますよ―
―自分は初めて―
まちまちのようだった。
別の一人が僕に向けピースサインを出している。
2回目という事だろう。
6人うちの数人がよくデモで顔を合わしていたので親しくなり、うち一人がこの日に友人を誘い参加させ、
皆に紹介していたところだという。
初めて参加すると言っていた人がその友人なのだろう。
ピースサインの男は独特の雰囲気を醸し出していた。
妙な服装している。
白いカッターシャツに下はスウェット、それにサンダル。
髪はストレートのロング。
やけにつやつや感がある。
金縁のメガネ。
スーツケース。
―スーツケース?―
90リットルの容量はあろうかというLサイズのものだ。
中身が気になる。
デモ中はどうするつもりだろうか。
楽しみな存在だった。
さらに別の一人が答えてくれた。
「自分はもう長いですね。この運動が起こり始めた当初から参加してます。主催者の事も数年前から知っていて顔なじみなんですよ。それで付き合いもあって、ほぼ毎週でています。」
感じのいい人だった。
業界の事情にうとい僕は、内情に詳しい人物と知り合いたかった。
だけど主催者や弁士、団体の幹部などと直接関わるつもりはない。
誰の下にも付く気はなかった。
できれば面倒なしがらみを避けつつ、情報収集はしたいと望んだいた。
それには経験が豊富な参加者と親しくなるのがよさそうだった。
この人はうってつけの相手のように思えた。
人当たりも良さそうだし、見た感じも好印象だ。
服装も常識的。
主催者とも繋がりのあるようなので、内情にも詳しいのだろう。
それにこの人は説明が丁寧のようで、よく喋るタイプかも知れない。
質問した以上の答えが返ってくる。
教え上手な教師のように。
僕は頭の中で彼にミーム1と名付けた。
相手の本名や職業といったものには興味がなかった。
情報だけ得られればそれでいい。
1が逆に質問してきた。
僕は大学生という事にしておいた。
名前は偽名。
参加の動機は、市民運動に興味があるので試しに参加してみたのだと、
とりあえず当たり障りのない答え方をしておいた。
あくまでも好奇心で参加してみただけで、まだ自分なりの主義主張をもたない無垢な存在を匂わせておいた。
「最初はそれでもいいんですよ。
その方が意外と続くもんなんです。
この手の運動には、思想がガチガチに固まっているベテランの運動家も参加してきますけど、
そういう人は逆に長くは続くかないんですよ。
必ず方針の食い違いが出てきて離脱していきます。
もっとも、そういうベテランは自分で団体を運営していたり、別の運動に関わっていたりするので、
運動自体を辞めるわけではありませんけどね。」
この1はやはり口数が多い。
好都合だった。
僕はデモ進行中、彼らに同行することにした。




