九十六話 同じ臭い
”吸血公”は、習得するのに少々特殊な方法を取る職業だ。
確か『PKをしている事』、『人族』、『一定のクエストをクリアしている』とかだった筈だ。
なんかもう少し細かい条件があった筈だが、そんな職業とっていないので忘れた。
だって俺暗殺者のロールプレイでやってたから、”暗殺者”系統以外全く取らなかったし、メインキャラも斥候系だったから”吸血公”とは縁が無かったんだよ。
しっかし、”吸血公”って実際に見ると相当厄介だな。
血を操る事も出来るみたいだし、魔物で出てきた吸血鬼とかと似た様なスキルが使えるんだな。
それに地中から急に槍を出すのはズルいな。察知系のスキルを取っていなければ確実に不意を突かれるだろうし。
……そう言えば、『ザ・ワールド・オブ・エタニティ―』に”吸血公”を習得していた有名なPKがいた覚えが……あったりなかったり。
何分数年も前の事だし、この世界に来てからアホみたいに濃密な日々だったし、こっちの世界で覚えなきゃいけない事も多かったしで、前の世界の事――それも壮大だし覚えるのも大変な位多かった職業の事だとか、そのゲーム内で有名だったPKとかなんて辛うじて覚えているかどうか位なのだ。
確か名前は…………うーむ、思い出せない。
にしても……だ。
「――ハハ、ハハハ! ヒャハハハハハハ!!」
随分とテンプレな。
力を貰って調子に乗ってらっしゃるらしい。
あーあー典型的な悪役の……というか噛ませ犬みたいな笑い方を。
んー……どれくらいの強さなのかはいまいちわからないが、少なくとも最強ツートップの暁とフランチェスカには勝てないんじゃないか?
ハルキは無理、ゼイやコウリンは……微妙なところだな。
狼の獣人であるゼイは気配察知能力が高くなっているらしいので、不意打ちも避けられるだろうが、”吸血公”の圧倒的な手数の遠距離攻撃に対抗できるかどうかはわからない。
「――次はァ……王だなァ! ヒ、ヒヒ、ヒャハハハハハハ!!」
……次の狙いは王ね。
あ、勿論見つからない様に遠くにいるが、声は呟いていても聞こえる。
この身体様様である。
とはいえ、狙いは王都なら、他の貴族達も狙いになる可能性はある。
というか、状況的に殆ど皆殺しに近い状態だから、『殺せるなら殺す』みたいなスタンスなのだろう。
ならこの国にいる時点で危ない。部下達にはある程度のところで逃げる事を命令しておこう。
貴族や軍人として普段過ごさせてはいるが、結局のところ貴族や軍人を演じているとはいえ、結局はウチの暗殺者やスパイ達だ。
貴族や軍人の誇りなんて俺や組織からの命令の前には塵みたいなもの……なのだそうだ。
いや、俺は命じている側だし、教育は部下に一任しているので知らないが、そう言う事になっているようだ。
ま、良いや。
兎に角、情報は手に入った。
相手が転生者なら、互助会で協議しないといけなくなる。
特に今回転生してきたのはどうやら問題のある人間みたいだから、扱いがどうなるか……。
今までそういう連中がいなかった訳ではないが、コイツの場合雰囲気もそうだが、ちょっと嫌な『臭い』がするのだ。
……俺と同じ、殺人に興奮し、それを当たり前の様に成せる『狂人の臭い』が。
俺の場合、転生を司る神によってそうある様に精神を弄られたが、アイツがそうなのかはわからない。
生前からそうなら、厄介というか面倒臭くなる。
……まぁ”吸血公”について詳しい奴がもっといるだろうし、最悪の場合暁とフランチェスカのコンビでパワーでゴリ押してしまえば良いだろう。
とっとと帰るに限る。
俺はカラスに上空から見張らせ、その場を後にした。
「……やはり転生者か」
俺からの情報を聞いて、暁が唸る。
数日後、互助会本部では、俺の持ち帰った情報を共有しようと、互助会メンバーが集められていた。
いつも通りに暁にフランチェスカ、コウリンにゼイ、ヴァイスにべリオス、ハルキにヴァネッサ、ローガン等の他にも普段は冒険者として各地を巡っていたり、商人をしていたり、普通に一般人やってたり、娼婦していたりと、普段互助会本部には来ないメンバーも集まっていた。
「……とはいえ、夜ちゃんの情報だと、そいつ、相当あれなんでしょ?」
そう訊ねてきたメンバーの一人――ダークエルフの女性で、俺の事を『ちゃん』付けで呼ぶ数少ないメンバーで、名前はセプテンと言う――に対して俺は頷く。
「……多分、狂人の類……だと……思う」
「そっかぁ~……今までなら多少強引にでも懲らしめて改心させるって方法も取っただろうが」
コウリンもどうするべきかと腕を組む。
今迄に何人か、特に若い年齢で来た者達の中にはそういうモノもいた。
転生した者達の中には小学生の低学年の少年少女もいたのだ。
そういった者達は転生を司る神の配慮で、ゲームキャラを転生前の年齢相当の外見に変えられたが、そういった者であっても力はその儘だった。
その年齢の人間が、圧倒的な力を現実で使えるとなったのならばどうなるかは想像出来るだろう。
そう言った人間は少~し強引な手段を使って大人しくさせてから保護し、子供好きが高じて孤児院を立てたメンバーの元へと送るのだが、今回の場合年齢が年齢なのでそうはいかないし、殺し屋から見て同類だと感じ取れたのだ。
そう言った奴は今迄転生してきた奴の中にはいなかったので、メンバー達も頭を抱える。
それを鶴の一声で解決してくれそうなフランチェスカは、
「……」
相変わらず我関せずといった様子で煙草を吹かしている。
こんなんでもエルフや人間達からは現人神が如く敬愛されているエルフの女王なのだ。
エルフ達や聖教徒達にとっては最も神に近い存在らしいので、そんな存在が娼婦の様な艶やかさで煙草を吹かしている様子を見たら卒倒ものだろう。
互助会メンバーからしてみればこの光景がいつもなのだが……まぁ知らぬが仏だ。
と言う事でフランチェスカはこの様子なので、いつも通りに副リーダーである暁に皆が視線を向ける。
だが、暁は腕組をし、眼を瞑って黙った儘だ。
「……どうするの? 暁」
ハルキが心配そうな顔で黙っている暁に問いかける。
ほら、我等がアイドルハルキが心配そうな顔で見てるぞ。
お前も一応『ハルキを見守る会』のメンバーの一人なんだから、我等が癒しに答えてやれ!!
皆の視線を受け、暁は眼を開けて口を開く。
「……まだだ。まだ見極めるには早い」
その言葉に、何人かが食いついた。
「――そんな悠長な!?」
「お前、何も関係ない市民が殺されてるんだぞ!?」
確かにそうだ。
だが、別にその男だけが人を殺している訳ではない。
諸外国の長達――べリオスやヴァイスも含める――からしてみれば、その男と同程度にローデンタリアの王や貴族、軍部による出国者達の虐殺もまた問題だろう。
「一番の問題は……その男が少なくとも小国程度なら落とせてしまう事だと思うけど?」
今まで口を開かず事態を見守っていたヴァネッサが、口を開く。
ヴァネッサの言葉に、メンバー達が一瞬静かになるが、ヴァネッサは構わず続ける。
「……このメンバーの中で小国程度ならば一人でも相手に出来るのなんて幾らでもいるでしょうけれど、夜が言うにはその男はPK。しかもその男はPKをやり慣れてる可能性があるし、既に既に数万人は殺してるのよね。……それに、狂人は強いわよ? 何せ遠慮がないんだもの。常人が躊躇う殺人と言う行為を、平然と行える。そんな奴を相手にして大きな怪我無く抑える事が出来るのなんて一部だわ」
ヴァネッサの遠慮のない事実と今までになかった状況に、メンバー達の中で戸惑いが渦巻いていた。
現在投稿中のもう一作品になります。
Next World Order――アサシンが行くVRMMOライフ――
https://ncode.syosetu.com/n3391ff/
相も変わらずの主人公暗殺者職のVRMMOモノです。
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