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九十三話 とある国の危機

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 とある国の王と臣下は焦っていた。

 地方にあるとはいえ、他国や魔物からの防衛拠点である砦の機能を持たせた街がたった一日で滅んだのだという。

 しかもそれを成したのがたった一人だと言うのだから、冗談だと思ってしまっても仕方が無いだろう。


「どういうことだ!? 聞き間違いではないのか!?」


 王の言葉に、報告をする兵士は全身汗だくになりながらも繰り返す。


「もう一度報告申し上げます。……クシャトリア砦街が陥落。それをやったのは男だと言う事です」


「クソッ! 男だと!? エルフの女王(長耳)や”紅血”ではないのだな?」


 この国においても、エルフの女王であるフランチェスカや”紅血”の異名を持つ暁の知名度は高い。

 とはいえ、この国においては尊敬ではなく畏怖の対象なのだが……。

 一人で一国を滅ぼせる程の力を持ったこの世にいてはならない規格外の化物達の事は、国主としては意識しなければならなかった。


「はっ! 報告では男だと言う事です。しかし、その報告をした者も怪我が酷く……報告の後、息絶えました」


 兵士の報告に、左右に控えていた家臣達が一斉に王の方を向く。


「どう致します陛下?」


「ここは他国に……それこそエルフの女王や”紅血”に救援を求めますか?」


「いや、それでは遠過ぎる。仕方ないが、周囲の国に救援を!」


「馬鹿な! わざわざ他国の者を引き入れると!?」


「ではどうするのだ! 数百人が詰めている砦がたった一人に落とされたのだぞ!」


 どの顔も焦りと恐怖からか青白くなっていたが、それでも意見を交わす。

 だが、どの者達も他の介入は避けたいという表情だった。


「……」


 そして王もまた、無言ではあったが、その意見に同意だった。



 王や家臣達がこの様な反応をするのにも理由がある。

 この国は領土を巡って周辺諸国と争っており、それをエッフェンベラ教国を総本山とする聖教や冒険者ギルドからもそれとなく咎められていたのを無視し続けていた。

 敵対関係にある周辺諸国に頭を下げ、介入を許すという事は、事実上スパイを招いている様なモノだ。

 更に、こんな事を知られれば各国に影響力を持つエルフの女王や聖教が介入してくるだろう。

 それは他国にこの国を委ねるという事だ。

 それを王や臣下は恐れた。


 故に、この国の内情を知られたくはない。

 だからこそ、なるべくならば他国に知られる事なく、自国で対処したかった。


「いっそ国境を閉じるか」


 王がそう呟き、家臣達も止む無しといった表情を浮かべる。


「陛下」


 そこで声を上げたのは軍を率いる元帥だった。

 齢五十を数える男は、冷徹かつ熱心な愛国者でこの国随一の戦上手だ。


「……他国に知られたくないのであれば国境を閉じるは愚策。他国に『国内で何かがあった』と知らしめる様なものでしょう」


「ふむ、成程。……続けよ」


 元帥の言葉に、王は納得し先を促す。

 元帥の男は立派な顎髭を撫でながら話を続ける。


「陛下は噂が他国に広がるのをなるべく防ぎたいのでしょう? ……なれば、国境の関門に兵士を増強し、噂を知る者が出国する事を防ぐのです。幸い……と言っても良いかは疑問ですが、砦はほぼ皆殺しに近い状態故、生き残った者は少なく、広くは知られておりませぬ。出国者を出国させないだけでもそれなりの効果はありましょう」


「では元帥殿、出国者が無理に出国しようとする場合、如何にするのですか?」


 家臣の一人の疑問に、元帥は答える。


「そういった者が現れたとするならば致し方ありませぬ。哀れに思いまするが、その場で切り捨てた方が宜しいでしょう。なに、他国の貴族や権力者でもなければ大して事にはなりませぬ」


 元帥の言った事は事実だ。

 この世界では貴族や権力者、有名な人間ならまだしも、一般市民や農民の一人二人いなくなったところで大きく動く事はない。

 冒険者だと、ランク制である事もあってしっかりと管理されているので多少違うが、任務を受けての死亡も良くある事だ。


「そうか。……ならば元帥に命じる。国境に兵を増強させ、国より出る人間に対処せよ」


「――はっ!!」


 王の命令を受け、元帥は一礼する。

 それを満足そうに見て、王は臣下達に言い渡す。


「……誰にもこの国は介入させん。この国は我等のモノだ。皆、宜しく頼むぞ」


「「「――はっ!!」」」


 王の言葉に、その場にいた者達は一斉に頷いた。








 ある日、俺は互助会に呼び出された。

 アドランド王国の復興は順調で、俺等”魔女の夜(ヘクセンナハト)”もまた、その一部を手伝っていた。

 俺等の役目は主に復興に乗じて権威を得ようとする貴族や、新体制に反対する一部の人間の抹殺だ。

 とはいえそれらもほぼ終わっているので、俺が呼ばれる理由など見当たらない。

 俺が互助会本部に入ると、そこにいたのは暁とべリオス、コウリンだった……が、暁がやたらと鋭い雰囲気を纏っていた。


「来たか夜」


「……依頼?」


 いつも以上にピリピリした雰囲気を纏いながら低い声で言う暁に、俺は要件を端的に訊ねた。

 だが、暁は首を横に振った。

 そして、一度溜息を吐くと、こう切り出した。


「……”魔女の夜”として……いや、その頭領”黒死蝶として依頼を受けたか?」


 ……は?

 いや、依頼したのはお前達だろうに。


「……ない」


「私達からの依頼だけか?」


 俺が頷くと、張り詰めていた空気が一気に緩んだ。

 べリオスは溜息を吐きながらソファに深く沈み、コウリンは肩を竦めた。


「だから言っただろうべリオス。夜はそんな事はしないし、あんな手段は使わない」


 ……ははーん。

 成程成程。何となく話が見えてきたぞ。


「……ローデンタリアの、虐殺の、事?」


 閉鎖的で野心的な国として有名なローデンタリアの辺境の砦で虐殺が起きた事は既に”魔女の夜”の情報網は掴んでいた。

 俺達の情報収集能力を余り見縊らないで欲しい。

 ”魔女の夜”の工作員は全国に行き渡らせている。

 閉鎖的で知られるローデンタリアであっても例外ではないし、閉鎖的な国であっても幾らでもやり様はあるのだから。


 で、それを依頼を受けた俺の仕業だとべリオスが思ったと。


「……暁は、私の力、知ってるはず」


 俺は基本的に対人特化だ。

【切裂化生】など派手な技も多いが、それは”切り裂きジェーン”という称号だからだ。

 とはいえ、実際の”切り裂きジャック”の逸話を再現しているので、情報を残さないスキルや認識阻害のスキルを持っている為、俺が意図して残そうとしなければ基本的に死体や血は残らない。


「……あり得ないとは俺も思ったが一応、な。……だってお前なら出来そうじゃねぇか」


「……出来なくは、ない」


 と言っておこう。

 街一つくらいなら【ロンドンは霧の中に】を使い、更に【霧化】で同化して殺していけば良いだけだ。

 自分の身体が空気中に溶けていく感覚を味わうので余りやりたくはないが、それさえすれば一方的に、かつ短時間で出来るだろう。

 ……いや、やらないぞ?


「……出来るのかよ」


 俺の言葉に、べリオスはもう勝手にしてくれと言わんばかりにソファに沈み込む。

 ……勝手な奴だ。


「……さて、そこで本題なんだが」


 それまで黙っていた暁が口を開く。

 大体内容は察せるけどさ。


「……一日で、しかもたった一人であれ程の人数を殺せるという事は、私達と同じと見て間違いないだろう。……そこでその人物の事を調査してきて欲しい。これはギルドマスターとしての依頼だ」


 ギルドマスターとしての依頼であれば、金の支払いはしっかりしているだろう。

 そして、”魔女の夜”は受けた依頼は必ず達成する。


「……解った。直ぐに動く。二週間、待ってて」


 俺が早速動こうと席を立ちあがると、暁が更に言葉を重ねる。


「それと……対象との直接的な接触はまだ駄目だ。もしその男が転生者・転移者であるならば詳しい情報が欲しい。勢い余って殺さない様に」


「……(コクリ)」


 ……脳筋のお前に言われたかないけどな。




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