九十二話 とある村と街の終焉
お久し振りです。
これからちまちまと更新再開していきたいと思います。
のんびりお待ちください。
パチパチパチ
とある国の辺境にある村。
質素で、ただありふれた幸福と日常がありふれていた筈のそこは、惨劇の場と化していた。
木で出来た家々は燃え盛り、辺りには焦げた臭いと生臭い血の臭いが充満していた。
村の中にいくつかある井戸の底には数体の死体が入っており、やはり生臭い臭いを漂わせている。
その村の中心にある広場では、老若男女問わず十数体の死体が積まれており、その近くで、一人の血塗れの男が、女性の髪を掴んで、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべていた。
「……ァ……だず……げ……神、様ァ……」
その女性は右眼が青黒く腫れ上がっており、服は胸元から引き裂かれ、切り傷がついた乳房が見えており、全身にある切り傷から血を流していたが、辛うじて生きており、自分の髪を掴んでいる男に命乞いをする。
しかし、それはただ男を喜ばせるだけだった。
「ァハハ。……そうだ。そうだよ。泣けよ。叫べよ。お前で最後だぜ? ……あァ? どうせ手前も『自分は大丈夫。自分だけは助かる』なんて思ってるんだろ? 神様が助けてくれるとでも思ってるんだろ? でもよ、そう思うなら神様に祈る前に、先ず誰かに言うべき言葉があるんじゃないのか?」
「ァ……ぁあ……た……た……た――っ」
男に急かされ、嗚咽を零していた女性は、必死の表情を浮かべ――
「――私をだすげでくだざいいぃぃぃぃっ!! 何でも、何でもじまずがらぁああっ! いのぢぃっ!! いのぢだげは許じでぐだざいいいぃぃぃぃぃぃっ!! どうかぁぁああああ! どうかあぁぁぁぁああああ!!」
――叫んだ。喉が潰れる事も厭わず、ただ自分が助かる為に、命以外の全てを捨てる覚悟で、あらんかぎり叫んだ。
なり振りなんて構わず、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら、男に懇願する。
「奴隷になりますっ! 従いますぅぅぅぅう!! どんな命令でも従いますぅぅぅううう!! 貴方に全てを捧げますからぁああああっ! 助けてくださいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
女としての幸福も、願いも捨てた女性の叫びに、男は満足気に笑う。
「そうか。そうか。……全てを捧げる、か。……クククッ。……こんなの、あの世界で真っ当に生きてたら聞けねぇ言葉だよなぁ……。いいねぇ、いいねぇ」
ふと、男の力が弱まり、女性は地面にドサリと倒れ込む。
助かった、そう女性は安堵し、上半身を持ち上げ、感謝の言葉を言おうとして――
「――あ、有難うご……ございま「ばあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっか!!」」
男の嘲笑が響く。それは、女性にとっての死刑宣告だった。
「【串刺公】!!」
男がそう叫んで地面をダンと踏むと、地面から出現した槍が、女の真下――腹を突き刺し、まるで生贄の様に天に掲げた。
「がぁ……ぁ……ぁあ……」
女はその口と腹から血を、そして股から小便を滴らせて絶命し、槍が消えて地面に落ちる。
それを男は、今さっき女を貫いた槍と同じ槍を手に出現させ、何度も突き刺す、そして蹴り、罵倒する。
「誰が手前みてぇなブスを助けんだよぉおおおおおおっ!! ばっかじゃねぇのぉおおおおお!? 助けるならもっと可愛くてエロい身体の奴を助けるに決まってるだろうがよおぉぉ!! わかる? わかるよなぁ!? 俺は今人を殺してサイッコーの気分なんだよぉぉぉおおお!! 女ァ!? どーでも良いなぁああああ!!」
男の、ただ己の感情を曝け出しただけの叫びは徐々に小さくなり、最後は呟く様な声になる。
「……あぁ、でも女が泣き叫ぶ声は最高だよなぁ……ありゃぁ芸術だぜ、全くよォ。それに刺した時の肉の柔らかさはヤバイ、ヤバイぜ。癖になる。どんな高級な肉でもあの柔らかさはでねぇよなァ。これが女体の神秘って奴だろォ? ……あー思わず逝っちまうぜ。昇天、エクスタシーって奴だ。やっぱこの世界は最高だぜ……ククククククッ」
男は女を槍で突き刺すと、近くに積まれていた十数体の死体の一番上に放り投げ、
「【発火】」
火の術によって燃やす。
その光景を見ながら、男はポツリと呟いた。
「……ほら、神に祈ってみろよ。AMENってな。……いや、この世界じゃ通じねぇか。ククク、ククククク!!」
男の笑い声は、目の前の死体が灰になるまで続いた。
男は全てを壊し尽くした村で奪っておいた食べ物で食事を取ると、次の標的を探す為に歩き始めた。
舗装された道に従って進めば、大きな街に付くだろうと考え、男は自分の思う方向へと歩く。
その道中、多くの魔物に襲われた。だが、自分の相手では無かった。
どうやらこの世界は神が言った通り、ファンタジーの世界なのだと改めて知る。
だが、男にとって、それは自分を縛る”法律”からの解放と倫理観からの脱却以上の意味を成さなかった。
この世界は自由だ。
この世界ならば自由に出来る。
自分が思うが儘――殺せるのだと。
先程使った様に、この世界ではゲーム……『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』通りにスキルが使える。
それならば、より多くの人間を殺せるだろう。
「神様には感謝しねぇとなぁ……」
この世界に転生させてくれた事を、男は本当に感謝した。
そして、男は見つける。
そこは魔物に対応するべくとある王国が建てた砦、そしてそれに囲まれる街だった。
人の数も多く、男にとってこれ以上ない狩場だった。
見上げる程に高い石の壁、そしてその前には鎧を着た男が二人、警備なのだろう。中へと通じる門の前に立っていた。
男は思わず浮かびそうになる笑みを堪えながら近付くと、兵士達は男を見て身構える。
「……待て、そこの。見ない顔だな。流れの冒険者か?」
片方の兵士が槍を構えて威圧的に訊ねる。
それはこの世界にとっての当たり前の行為であったが、男にとってはどうでも良い事だった。
常識など、最早男に通用しないし考える事などない。
ただ、自分の欲望を撒き散らすだけだ。
「――死ねよ」
男は槍を出現させ、その腹を突き刺した。
「が……ぁっ!!」
「な、何をする!!」
槍に貫かれた兵士が崩れ落ち、もう一人の兵士が叫び槍を振り被る。
しかし、
「――死ね!!」
兵士が槍を突き出す前に男の槍が兵士の首を貫き、貫かれた兵士が一歩、二歩と後退し、ゆっくりと倒れた。
それを見て、周囲にいた人々が悲鳴を上げる。
男は、その逃げ惑う人々に遠慮なく力を使う。
「クハハ! ――ヒャハハハハハハハハ!!」
火の術を使って燃やし、槍を投擲して貫く。
冒険者の様な恰好をした男達や、先程殺した兵士達と同じ格好をした男達が武器を持って男を殺そうとしてくるが、男は地面から槍を出現させ、串刺しする。
男はゲーム内では上位プレイヤーではなかったが、それでもこの世界の一般人や、普通の冒険者に比べれば化物だった。
老若男女関係無しに槍に串刺しされている様は、正しく地獄絵図だった。
男は狂った様に笑い、浴びた血を気にする事なく、逃げる人々を追い殺す為に駆け出した。
「――ハハハ、ハハハハハハハハハハ!!」
男は笑いが止まらなかった。
男が転生する前に抱いていた願いが、今叶っているのだから。
目の前に広がっている光景は、男がずっと求めていたモノだ。
咽返る様な血の臭い、舗装された道は血の赤で染まり、槍によって貫かれたバラバラの死体や、火で焼かれた焼死体が足の置き場もない程だ。
だが、まだ足りない。
男の”殺人衝動”は収まる事なく、寧ろ膨れ上がってしまっていた。
今まで辛うじて効いていた精神のブレーキが、一度人を殺した事で壊れたのだ。
生前はまだ頭が良く、異常ではあったが理知的だった男は、ただの狂人になり果てていた。
男は血走った眼で周囲を見回し、口を裂けんばかりに開き、笑う。
「……次の獲物はどぉぉおおこだぁぁあ!? ヒャハハハハハハハハ!!」
男は休む事なく、自分の欲望を満たす為に移動を開始した。