最終話 転生者達
最終話です!
『互助会』リーダー、フランチェスカが長をしているエルフ達の聖地”不可侵の森”。
そこに夜、暁、コウリン、フランチェスカ、ハルキ、ローガン、ゼイ、ヴァネッサ、べリオス等々主要メンバー達が集まっていた。
「……で? 【帰還の術】の解析はどうなんだ?」
コウリンがフランチェスカの方を見て言うと、全員の視線がフランチェスカの方に向く。
タックスを”勇者”が殺してから早数日。
悪事を働いていたとはいえ、国王を殺したのだ。
ヴァイアブールに居ずらいだろうと、”勇者”達はインクセリアにいる。
今『互助会』メンバーが此処に居るのは、書架に保管されていた【帰還の術】――正式には【異界転送術】と言う――の方法が書かれていた書物を夜がフランチェスカに送り、解析を依頼したからだ。
「……意外と簡単だったわね。ヴァイアブール城にあった”召喚の間”、そこにあった魔法陣と似た構造よ。……ま、それもそうよね、転送と召喚は表裏みたいなものだもの。広い敷地に、大量の魔力さえあればすぐさまにでも出来るわ」
フランチェスカの言葉に、全員が安堵する。
「じゃ、『互助会』に参加していない転生者達にも教えといてやらねぇとな。……夜、連絡は頼めるか?」
べリオスがくたりと椅子に深く腰掛けながら夜に尋ねる。
「……既に連絡済み。後は期日さえ決めてくれれば、それも追々連絡する」
「問題は何時にするか、だな」
暁が腕を組み、考え込む。
「でも、”勇者”として召喚された彼等としては早く帰りたいんじゃない?」
ハルキがそう言い、
「……そうだな。……どうするね、リーダーさん?」
ゼイがフランチェスカに決定を促す。
暫く眼を瞑り考えていたフランチェスカだが、考えが纏まったのか口を開く。
「そうね。準備もあるし、全員が集まる時間も必要だし……二日後、ここに集まりましょう」
フランチェスカの言葉に、全員が頷いた。
一方、”勇者”パーティーはというと、王であるヴァイスに国賓として迎え入れられ、たらふく飲み食いをした後、ヴァイスの執務室で談話していた。
「帰る時間は二日後になるそうだ。場所は”不可侵の森”のエルフの集落だそうだ」
今しがた魔道具により伝えられた情報を祐樹達に伝える。
「そっか! 帰れるんだ!」
「良かったわね~」
女子二人は手を合わせて喜び、
「帰れるぜ祐樹!」
「あぁ!」
男二人は拳を突き合わせた。
それを、ヴァイスは温かい眼で見ていた。
数日後、エルフの森に俺を含めた『互助会』メンバー、それ以外の転生者、”勇者”一行、総勢百人を超える人間が揃っていた。
彼等の目の前の広大な空き地には百人は入れる程に巨大な魔法陣が描かれていた。
「さて、皆魔法陣に入りなさい」
フランチェスカの言葉を皮切りに、其々動き出す。
祐樹達は、四人で一斉に魔法陣の中に入った。
「――――――――」
フランチェスカが何かを詠唱する声が聞こえる。
すると魔法陣が光を放ち、魔法陣を覆い始めた。
祐樹がふと、外側を向く。
しかし、祐樹達以外は、数列に整列しただけで、魔法陣の中に入ろうとしない。
「――早く、皆さんも入って!」
それを見て、慌てて祐樹が声を掛ける。
しかし、
「俺達は帰らねぇよ」
コウリンが首を横に振りながら言った。
「……うん、そうだね」
ハルキもそれに同意する。
「な、なんで!?」
手を伸ばそうとするが、魔法陣の光が結界の様な役割も果たしているのか、阻まれる。
「ま、皆色々と思うところがあるのよ」
ヴァネッサが妖艶に微笑む。
「向こうに帰ったところで、元の生活に戻れる保証もねぇしな」
ゼイがニヤリと笑って言った。
「知識や常識の齟齬で苦労しそうだしなぁ」
ローガンも髭を撫でながらそれに同意する。
「俺やヴァイスは国王だ。国民は見捨てられねぇよ。前世はしがない高校生だったが、今の俺はマグニフィカの次期国王だしな」
「それぞれこの世界で立場がある。無責任に帰る訳にもいかないな」
べリオスとヴァイスが苦笑いしながら言う。
「この術式は大量の魔力を使うの。じゃあ誰がその魔力を供給するのよ?」
さも面倒だ、と言った様子で杖を掲げるフランチェスカが言い放つ。
事実、この魔法陣に使われている魔力は、負担にならない様に『互助会』メンバー全員で賄っている。
本来であれば何百人といった魔術師が数年、数十年と魔力を溜める等の長い時間と膨大な魔力が必要な程の大規模な魔術なのだ。
「ふむ。……私としては此方の世界の方が慣れている」
暁が言う。
そして俺も一歩前に出て、言う。
「……私は人を殺し過ぎた。それに、私達は死んでこっちの世界に来た。帰るつもりは、無い」
あの世界に帰ったところで、俺が人を殺した事実は変わらない。
死んだ人間が生き返っちゃ、転生させてくれた神様に申し訳が立たねぇしな。
それに、暁の言う通り、こっちの世界の方が今はもうしっくりきているのだ。
……女の身体にももう慣れちまっているし、今更男に戻ってもまた困るだけだろうし。
それ以外の連中も「元気でなー!」とか「じゃあねー!」とか言って手を振っている。
それを見て帰る意志が無いのを理解したのか、四人が姿勢を正し、
「「「「――お世話になりました!!」」」」
そう言って一斉に頭を下げた。
それと同時に、魔法陣が一層眩く輝き、その光が収束すると、”勇者”達はそこにはいなかった。
「――っ!!」
ふと、いつの間にか眼を瞑っていたのか、祐樹は眼を開ける。
そこは数ヵ月ぶりに見る、懐かしくも見慣れた学校前の通学路だった。
そして周囲には、
「――戻っ……てきたみたいだな」
「なんだろ、何か変な感じがする」
「う~ん。そうね~」
龍平、瑞姫、由梨花が互いに顔を見合わせ、戸惑ったような、安心した様な表情を浮かべていた。
互いに格好は異世界で着ていた服ではなく、制服姿である。
四人共立ち止まっている為、周囲で同じ様に下校している生徒が、何をしているんだと訝し気な様子で祐樹達を見て通り過ぎていく。
ピロリロリーン!
ふと、祐樹のズボンに入っていたスマートフォンが鳴る。
「……? 誰からだろ?」
来ていたのはSNSの通知だった。
一つは妹の勇音からの、『夕食作って待ってるよー』という連絡。
そしてもう一つは見た事のないIDからだった。
祐樹はそれを開いてみる。
「――フッ」
急にそう笑った祐樹を、三人が訝し気に見る。
「なぁ、三人共。これを見てくれ」
そう言って差し出されたスマートフォンを三人が覗き込む。
そこに書かれていたのは――
『congratulation! こうして世界を救った”勇者”は元の生活へと戻るのさ! おめでとう! そして巻き込んでゴメンね! ……君達に神の祝福を! 光り輝く、喜びに満ち溢れた、平穏で、楽しい未来が君達に待ってるよ! 皆で仲良く頑張ってね!』
――この世界の神より
「フフフッ」
「ハハ、結局は神様の掌の上、ってか?」
「まぁ、それなりに楽しかったし、いいんじゃない?」
四人共、やれやれといった様子で顔を見合わせる。
だが、彼等の笑顔はとても輝いていた。
「じゃ、帰ろうか!」
「うん!」
「おう!」
「は~い!」
そして彼等は平穏で平凡な日常に戻る。
彼等の頭上には少し傾き始めた太陽に照らされた、雲一つない空が広がっていた。
「さて、と。……じゃ、全員かいさーん!」
べリオスが手を叩くと、ガヤガヤと騒ぎながら散って行く。
べリオスやヴァイスは悪事に関わっていた事実が暴露され、同時に死んだ事で後継者問題やら周囲の国との関係やらと色々とざわついているヴァイアブールの騒ぎを抑える為に慌てて帰って行く。
その一方、
「フラン、この後数日間か此処にいて良いか? 丁度休みを取ったのでね」
「構わないわよ。ゆっくりしていけば良いわ」
「あ、じゃあ僕もそうする!」
至ってマイペースな女メンバー達 (若干一名男だが)。
じゃあ俺はどうしようか――
「カー!!」
いきなりカラスが飛んできて、肩に止まる。
その足には紙が括り付けられている。
手紙を足から取り外し、それを開いて流し読む。
……ふむ、やれやれ。
手紙を畳み、カラスを撫でると、頭をグリグリと押し付けて来た。
それで満足したのか、撫でるのを止めるとすぐに飛び去って行った。
「……また依頼か? 休む暇も無いな”魔女の夜”は。……今度は何処からの依頼だ?」
暁の半笑いの声に、俺はムッとしながら――そうは見えないが――も答えてやる。
「……殺し。……今回は人身売買を後援してる貴族を殺せ、だって」
まーたこんな依頼だよ。
ま、それが当たり前の職業だから文句はないけど。
じゃ、仕事場に行きますか。
暁やフランチェスカ、ハルキ達にじゃあね、と挨拶をしてから歩き出す。
さーて、頑張りますかね。
今日もこの世界で生きて行く為に。
……程々、適当に、な。
エンディングに納得いかない方もいると思いますが、これが限界でした(笑)
許してくださいお願いします。
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