八十九話 短い旅の果てに
次で最終話。
一応の完結となります!
投降は明日。
それと同時に次の作品も投稿しはじめますので、
其方も読んで下されば幸いです。
「……」
アァルが生み出した霧が徐々に薄れていく。
そこにいたのは――
「……女の、子?」
雪の如き銀髪にルビーの様に煌々と輝く紅眼の少女だった。
黒を基調とし、露出の少ない衣装を纏っている。
その少女は両手にナイフを握り、
「……依頼を遂行する」
無表情でそう呟き、
「――っ!!」
既にその身は祐樹の真後ろにいた。
細い腕を絡ませ、首にナイフを突きつけていた。
「「「祐樹 (君)!!」」」
「――くっ!」
祐樹が暴れ、振り解こうとすると同時に龍平が斬りかかり、瑞姫と由梨花が魔術で援護するが、夜は華麗な身のこなしで軽々と避け、跳躍すると、今度は龍平の肩を両手で掴み、逆立ちの態勢の儘龍平諸共横に回転する。
「うぉっ――ぐっ!!」
「――っ!!」
自分より小柄な夜に圧倒的な力と技術で宙に浮いた龍平は地面に叩きつけられる。
そして視認することが出来ない程の速さで瑞姫に接近し、足払いをして転倒させた。
「瑞――がっ!?」
「――きゃっ!」
斬りかかった祐樹だが、即座に懐に入られ、腹に蹴りを入れられて吹き飛ばされる。
その近くにいた由梨花もまた、投げ飛ばされてしまう。
圧倒的有利な状況にいる中、夜は少し離れた場所に現れる。
祐樹達は何とか起き上がると、四人で集まって身を固める。
「……何だよこいつ、動きが全然さっきと違うじゃねぇの」
「……これがアァルさんの本気――」
「……違う」
祐樹の言葉を遮り、鈴の音の様な声が否定する。
「……私の名は夜」
「夜? また大和国の出身者か?」
そして、夜は切り札を切る。
「……違う。貴方達と同じ、異世界から来た」
夜から発せられた言葉に、祐樹達は心の底から驚いた。
「……俺達と、同じ?」
「マジかよ、おい」
目の前の少女――夜は祐樹達から見ても纏う雰囲気が違った。
そんな圧倒的な、自分達とは違う次元にいる目の前の少女が、まさか自分達と同じだとは思えなかった。
「……ただ少し、違う。貴方達は召喚された。……私達は転生した」
夜の訂正に更に混乱する四人を前に、突如夜がナイフを仕舞い、
「……同じ世界から来たよしみ。……貴方達を異世界に帰してあげるけど、どうする?」
首を傾げながらそう聞いてきた。
四人は思わず武器を下ろし、顔を見合わせる。
「……帰れるのか?」
「それが本当なら帰りたいけど……」
「どうするの祐樹?」
「私は祐樹君に委ねるわ~」
三人の視線は祐樹に向けられる。
暫く考え込んでいた祐樹であるが、夜に向き直り、
「……俺達は元の世界に帰りたい。協力してくれ」
「……わかった。じゃ、条件がある」
夜が出した条件は祐樹達にとっても思うところがある事だった為、祐樹達は了承した。
全て、『互助会』が描いた通りに進んでいた。
翌日、ヴァイアブール王タックスが玉座に座り、臣下達と評定を行っている最中、
「失礼する!」
「邪魔するぜ!」
祐樹と龍平を先頭に、”勇者”パーティーが入って来た。
突如入って来た”勇者”に、何かあったのかと疑問を浮かべる。
だが、タックスとその隣に立つハンスだけ、苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。
祐樹はそんな王を見上げ、
「そんなに俺達が生きているのが不思議ですか? ……それもそうでしょうね、俺達を暗殺しようと”魔女の夜”に依頼したのは貴方なのだから」
そう言い放った。
臣下達がざわつくが、王は睥睨するだけで諫めようとしない。
「……何の言いがかりだ”勇者”よ。私はお主達を召喚し、援助する側の人間だが?」
必死に表情を作り、そう言う王だが、祐樹は構わずに王にとっての――いや、この国にとっての地雷を遠慮なく踏む。
「いや、俺達は知ってるぞ。貴方が他の貴族が放った暗殺者に紛れて、自分の雇った暗殺者を送り込んできたこと。盗賊団に王家伝来の技術で生み出した『洗脳の首輪』を売った事。……そして、歴代の”勇者”の何人かは元の世界に帰っている事を!」
「――なっ!!?」
何故知っているのか、そう言おうとして慌てて口を噤む。
”勇者”が言った事はタックスの影だ。
知られないように、慎重に慎重を重ねてきたものだ。
自分の言いなりとなるよう、【帰還の術】を隠していた事――先代までは不必要な争いを減らす為に隠していた――も。
全てが上手くいっていたはずなのに、何故?
「……もう終わりよ。タックス・ヴァイアブール」
突如、声が響き、”勇者”達の後ろの空間が歪み、そこから数人の男女が現れた。
「よくもまぁ色々と悪知恵が働くものね。……呆れるわ」
先頭に立つのはエルフの女王フランチェスカ。
「ロド派の暴走や”哀れな信徒”の製造。インクセリアの第一王子達への援助。そしてアドランドのクーデター……全てアンタが後ろ盾だったとはな。タックス王」
その後ろに大陸一の王国マグニフィカの次期国王べリオス・マグニフィカ。
「……兄達の暴走はアンタがっ!」
そして静かな怒りを滲ませるヴァイス・インクセリア。
「……言い訳は無用だ。貴様の悪事の証拠は此方で証拠全て収集、管理しているし、今魔道具で全ての国でこれを生中継中だ。貴様は終わりだタックス・ヴァイアブール」
ギルドマスターにして畏怖と尊敬を集める剣士、暁。
そしてその後ろに”アァル”姿で夜もいる。
『互助会』において”対国王”としての最も適当なメンバーが集まっていた。
そしてメンバー達は”勇者”を支援するかの如く”勇者”達の後ろに立つ。
祐樹は剣を抜き、一歩、また一歩とタックスへと近付いて行く。
その表情は今までにない、鬼気迫るものだった。
そんな祐樹に恐れを抱いたのか、タックスは王座から転げ落ちる。
「……人殺しはしないと誓った。そうすれば、元の世界に帰った時に罪悪感に苛まれると思ったからだ。……でも、この世界に召喚された”勇者”として、今までお前に騙され、死んでいった人達の為に、俺はその誓いを破る!」
何時の間にか、その手に握られていた剣は眩い程の光を放っていた。
この時、祐樹の姿はまさに”真の勇者”に相応しいものだった。
「……犯してきた罪を考えれば、生きて償うなんて生ぬるい!」
「……ァ、アァ……アァァ」
「――テメェは、あの世で死人達に謝って来い! ハァァァァァアアアアアアアア!!」
祐樹は剣を上段に構えると、迷うことなく振り下ろした。
ザン、と左肩から右脇腹までを袈裟切りにする。
祐樹が今まで振るった剣戟の中で最も鋭く、最も速く、最も重い斬撃はタックスを、そしてその背後の重厚な壁ごと切り裂いた。
血が噴き出し、タックスの上半身がずり落ちる。
剣は何時の間にかただの剣に戻っていた。
俄かにざわつき始めるヴァイアブールの臣下達を他所に、祐樹は皆の元に歩いてくる。
「……これで約束は果たしたぞ。俺達を元の世界に帰してくれ」
『互助会』メンバーの前に立ち、そう言った祐樹はふぅ、と息を吐き出した。
そして苦笑いを浮かべる。
その笑みは”人を殺すこと”を知ってしまった故の罪悪感と、悪人を討ち、世界を救う”勇者”に相応しい眩さが混じった、複雑なモノだった。
「……えぇ、約束は守るわ。そこで死んでる王とは違ってね」
”勇者”としての覚悟を見せた祐樹に対し、『互助会』を代表して、フランチェスカは何処か満足気に頷きながら答えた。