八十八話 "勇者”真実を聞こうとして王に嵌められる
もうそろそろ終わります!
祐樹達は自分達を召喚したタックス・ヴァイアブールを問いただす為、王城へとやってきていた。
時は既に夜であり、月が雲に隠され、明かりが無ければ城は深い闇に閉ざされているだろう。
四人は揃って王の元へと向かっていた。
その先頭に立つのは瑞姫だ。
こういった場合、正義感が強く、勝気な瑞姫が常に先頭に立って三人を引っ張って来た。
廊下を早足で歩き、王座の間の扉をバン、と遠慮なく開く。
だが、その部屋は暗闇に覆われていた。
ただ時折外からの薄明かりが差し込むだけで、暗闇と言ってもほぼ変わらない。
「……いない、の?」
呟く瑞姫に、祐樹が声を掛ける。
「気を付けてくれ、城には見張りもいるはずなのに、ここまで来るのに誰とも会ってないのはおかしい」
いくら戦の無い平和な国とは言え、表向きは城である。
祐樹達がいた頃は夜でも見張りや巡回する騎士、メイドや事務方の人間等が忙しなく動いていた。
だから誰とも会わず、明かりが無いのはおかしいのだ。
「……嫌な雰囲気ね~」
「あぁ、背筋がゾワゾワ来やがる」
勿論、こんなことになっているのは王の手引きであり、夜が【人払い】のスキルを使っているからなのだが、四人はそれに気付かない。
だが、
「「「「――――っ!?」」」」
四人が同時に、背筋が凍る様な何かを感じ、顔を見合わせる。
風が吹いたでもない、誰かが氷系統の魔術を使った訳でもない。
「なんだ、これ?」
「……っ」
「っ! これ……何っ!?」
「あら~。少し危ないかしらね~」
四人は背を向い合せ、警戒する。
「カ――――!!」
突如、カラスの鳴き声が聞こえ、思わず肩をビクリと震わせた瞬間、
「――危ない由梨姉!」
祐樹の声が聞こえると同時に、カキンと言う金属を打ち合わせた甲高い音が響く。
祐樹が剣で間一髪で受け止めたのは黒く輝くナイフだった。
「おや、意外と受け止めるとは、腕を上げましたか? それとも”勇者”の素質ってやつでしょうかねぇ」
そして祐樹達にとって聞き慣れた声が聞こえる。
「――っ!? アァルさん!」
祐樹達の旅を見守り、案内してきたヴァイアブール所属の騎士アァルがナイフを握って、”蛇”の様なギラギラとした笑みを浮かべて、嗤っていた。
「……アァルさん、なんで!?」
鍔迫り合いながら叫んだ祐樹以外の三人が臨戦態勢に入るが、誰もが困惑し、行動出来ないでいた。
「いや何、皆さん言われましたよね? あのエルフの女王さんに」
あの場にはアァルもいた。
だが、それが何だというのか、三人にはアァルに攻撃される意味が分からなかった。
だが、一人だけ、
「……王様が動いたのね」
瑞姫だけはこの状況が何故起こったのかを理解していた。
「貴方が王様にチクったんでしょ? アァル!! 【フレイムスウィール】!」
瑞姫が手に持つ杖から炎の渦を出してアァルへと飛ばす。
アァルはいとも簡単に避けると、少し離れた位置まで後退する。
「……瑞姫さん聡いですね。ただ、聡過ぎては死を齎しますよ?」
そう言って手にあるナイフを弄んだ次の瞬間、アァルの姿が掻き消えた。
「――え?」
「――ほぉら、この様に、ね」
瑞姫が気付いた頃には、アァルは懐へと入り込んでいた。
そしてナイフを振るう。
「瑞姫!」
「中原!」
「瑞姫ちゃん!」
斬られた――誰もがそう思った。
だが、
「――っ! 大丈夫、浅く斬られただけ!」
右腕が浅く斬りつけられ、そこから血がうっすらと流れていたが、大きな怪我では無かった。
それに三人も安堵する。
だが、直にアァルを睨み付け、瑞姫を庇う様に祐樹と龍平が手前、由梨花が瑞姫の後ろに立つ。
「……”勇者”といえど、召喚されてからまだ数ヵ月。貴方方はこの世界に相応しくないですよ。今でさえ、私を殺すことを迷っているのでしょう?」
図星を突かれ、祐樹達は言葉を失う。
しかし、
「さぁどうしますか? 国王陛下からは貴方方を殺すよう命じられているのですが」
アァルから発せられた殺気に気付き、四人が其々武器を構える。
「……アンタ本当に騎士なのか?」
「……アンタ本当に騎士なのか?」
須藤祐樹の言葉に、俺は笑う。
いいね、中々聡いじゃねぇか。
「いや、俺は騎士じゃなくて――」
【ロンドンは霧の中に】を発動し、姿を隠す。
「暗殺者だ」
そして霧の中に隠れながら、変装を解く。
見つけたあれはさっきフランチェスカに送ったし。
さ、締めくくりだ。