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八話 動き出す

 今回の依頼は一家全員どころか、屋敷内にいる人間全員を殺すことだ。

 屋敷の周囲に幾人か待機させてはいるが、屋敷外から出すつもりはない。

 スキルの出し惜しみをするなど以ての外だ。


「……真実を霧の中に覆い隠せ。――【ロンドンは霧の中に】」


 スキルを詠唱。

 俺の周囲、屋敷一帯を覆い隠すように霧が生み出され、俺の姿を隠していく。

【ロンドンは霧の中に】は特殊な職業(クラス)切り裂き(ジェーンザ)ジェーン(リッパー)”の持つスキルで、認識阻害の効果を持つ霧を広範囲に発生させるモノだ。

 応用が利くスキルで、別のスキルと合わせて攻防に使える。


 俺は其の儘霧に紛れて移動を始める。

 バタバタと忙しなく移動する足音と扉を開ける音が聞こえる。

 だが、それは間違いだ。

【ロンドンは霧の中に】で生み出された霧は索敵能力も持ち合わせ、詳細を俺に教えてくれる。


「クソッ! なんで霧なんかが……」


「兎に角窓を開けろ!」


「ダメだ! 何も見えねぇ!」


 何人もの人間の声が廊下の先から聞こえて来た。

 俺は場所を確認し、一気に声の方向へと距離を詰め、その姿を見つけて駆け寄り――


「……【ランベイズの毒殺魔(ポイズナーランベイス)】」


 これも同様に”切り裂き(ジェーンザ)ジェーン(リッパー)”のスキルの一つ。

 モデルとなった”切り裂き(ジャックザ)ジャック(リッパー)”の被疑者の内の一人であった”ランベイスの毒殺魔”と言われた殺人犯をスキルとしたモノだ。

 あらゆる毒を自在に操るモノで、【ロンドンは霧の中に】と組み合わせると霧に毒属性が付与される。

 先程のナイフもこれで生み出された毒が塗られてた。


 俺は声の主、守衛の格好をした男の内の一人に接近し、


「――ごぉ!」


 口内にスルリと手を突き入れ、弄る。

 すると、徐々に男の顔が青白く変化し、瞬時に白目を剥いて倒れた。


「――な、何が起き――オォゴ!?」


 騒然とし始める男達をまた一人、また一人と同じ手を使って殺していく。

 これは【状態異常スキル】を最高まで上げて得られるスキルの一つ。

【毒化粧】。

 ゲーム内では触れた相手を麻痺や毒、睡眠等の状態異常にさせるモノだったが、転生した結果、肌どころか汗や髪の毛一本まで身体を毒に変化させるモノへと変化した。

 俺はこのスキルを、任務の間は常に使用することにしていた。





 その後も、メイドや従者達を見つけては殺すと言うサーチ&デストロイを繰り返し、俺がたどり着いたのは当主夫妻の寝室であった。

 蝋燭で照らされた部屋で、おっとりした雰囲気の女性と、その胸に抱かれた赤子がスヤスヤと眠っていた。

 俺は【毒化粧】を発動させた儘、女性と赤子の頬に触れる。

 付与する毒は致死性の高い毒。

 苦しむことなく、瞬時にあの世だ。


「……」


 俺は触れていた手を放す。

 転生前だったら、俺は忌諱しただろう。『人殺し』と言う行為を。

 だが、神によって与えられた転生特典によって変わってしまった。


『あの厳しい世界で生きるは不可能だろう。だから君にあげるよ。”殺し”に対して何も思わない倫理観を。そうすれば、君もあの世界で生きていけるだろうからね』


 自称神に与えられた転生特典の内の一つ。

 それが『殺人等に違和感を感じず、不快に思わなくなる』と言う倫理観の欠如だ。

 暗殺者、殺し屋としては必要なそれだが、俺は人として大事なモノを失っているのだ。

 だが、そうでなければ(この)世界で生きて行けない。


 俺は考えを頭を振って霧散させて、その場から去った。


 屋敷から少し離れて休憩している俺に、秘書であるオリヴィアが近付いてくる。

 綺麗な黒髪をポニーテールにした氷の様な印象を与える美女だ。

 年齢は二十代前半。


「……夜様。お探ししていた情報が手に入りましたのでお持ちしました」


「……ありがとう」


 オリヴィアが差しだしてきた書類を受け取り、眼を通す。


「……王家が関わってるんだ。……面倒」


 そこに書かれていたのは、インクセリアの二人の王子の名前と、幾人かの臣下の名前だった。






 インクセリア王国、王宮王族居住区域。

 そのとある一室で、一人の青年が唸っていた。

 男性にしては長い茶髪に綺麗な緑の眼に端整な顔。

 着ている衣服も高価そうだ。


「……これからどうするかが問題だな。お前はどう思う?」


 青年は顔を上げると、近くの机で書類に何かサインをしている同世代の青年に話しかけた。


「どうもこうも。……殿下。貴方が先導するしかないのでは? 話しの通じない連中を相手にしなければならないのは問題ですが」


 青年の言葉を受けて、唸っていた青年は覚悟を決めた。


「そうだな。俺がやらなきゃいけないんだ。……あのゲームみたいに」


 最後の部分は、近くにいた青年でさえ、聞こえない程の小さな声だった。




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