八十六話 ”勇者”達の与り知らぬところで
ブックマーク500突破!
読んで下さった皆様、本当に感謝です!
感想を下さる方々、感想返せなくてすいません。
何時も励みになっております。
誤字脱字等御座いましたら、言って下さると嬉しいです。
その日はエルフの集落近くに野営する事になり、夜遅くまで騒いだ。
祐樹達も誘われる儘に飲み、食い、騒いだ。
久しぶりの心からの楽しい一時は過ぎ、皆が寝静まった頃、
「……あー、ちっと飲み過ぎたか」
「夜の様に【状態異常無効】を持っていればアルコールは効かないが?」
「それって酒を飲む意味あるのか?」
頭を掻きながら欠伸を漏らすコウリンと、大きな袋を軽々と担いだ何時も通りの暁はフランチェスカのいる部屋へと入って来た。
「ご苦労様。……”勇者”達は寝たかしら?」
フランチェスカの問いにコウリンは頷く。
「あぁ。ぐっすりだ」
フランチェスカはそう、と答えると、暁の方――いた、暁の持つ袋へと視線を映した。
「……で、それが夜の言ってたモノかしら?」
「そうだ。これの調査を頼みたい」
そう言いながら暁が袋を降ろし、中身を取り出す。
暁の手にあったのは巨大な首輪だった。
そう。祐樹達が討伐したバグナゴガルの首に付いていた代物である。
今回商会が率いていた馬車の中で最も大きい馬車の中身はバグナゴガルの死体だったのである。
夜からの頼みとはこれの調査だった。
「……随分大きいわね」
「あぁ。地嶺竜の首に付いていたモノだからな」
暁はそれをフランチェスカの前に置く。
フランチェスカは首輪に手を翳し、調べ始める。
首輪の周囲を幾つもの魔法陣が覆う。
そして眼を瞑ると集中し始めた。
調べ始めた彼女の周囲を精霊や妖精が囲み始め、中には首輪を触る者も出始めた。
やがて数分経ってフランチェスカは眼を開ける。
「どうだフラン?」
「……この魔力の術式、魔力の質、覚えがあるわね」
「本当か?」
「えぇ。……五百年もこの世界で生きてるのよ? 色々な魔力を感じて来たけど、一人として同じ魔力なんてないわ」
暁やコウリンにはわからない。
”真祖のエルフ”であるフランチェスカだからこそ感じ取れるのだろう。
「特に王国なんていう長い伝統があればある程、その魔力や魔術式はクセが出る。夜の考えの通りよ。……この首輪はヴァイアブール王家のモノね」
「やはりか」
「……王家の、ねぇ」
「えぇ、本来ならこういった魔術は『戦争用』だから余り外部に出さないのが暗黙の了解なのだけれど……言っても無駄でしょうね」
面倒ね、と溜息を吐くフランチェスカ。
「まぁ”勇者”がこれで疑ってくれるかどうかよね」
フランチェスカが祐樹達に向けて言った言葉はヴァイアブール国王タックスを潰す為の布石の様なものだ。
『……全てを疑いなさい。良い顔して接してきた相手を、味方の顔をして近付いてきた者を――』
フランチェスカ――いや、”エルフの女王”から言われた言葉である。
”勇者”達であっても無視できないだろう。
これでタックスを疑ってくれれば良い。
そうすればあと一息で『互助会』が描いた物語通りになる。
「良し。これで”勇者”達が疑い始めたのなら、次の段階は『”勇者”達が貴方を疑い始めてますよ、とタックスにそれとなく伝える』だな」
「あぁ。……今回は出番がなければ良いが」
「……私は干渉しないから、後は任せるわ」
「後は夜次第、か」
コウリンは夜がいるであろう方向に顔を向けた。
「……あった」
俺は知りたかった事が書いてある箇所を見つけ、安堵する。
『歴代勇者の軌跡』
その中には歴代の”勇者”がどのように生きたかを記している。
その内の幾人かは神隠しにあったかの如く、ある一時期から姿を見なくなった、という噂や老人達の昔話もある。
だが、神隠しなど嘘だ。
本にはこう書かれていた。
――『今代の”勇者”は元の世界への帰還を求め、王もそれを認め、元の世界へと帰した』――
そう。
つまりこの国には存在するのだ。
『元の世界へ帰れる術』が。
それもそうだ。
【召喚の術】があるのならば【帰還の術】もある確率は高い。
恐らくはタックスが意図的に隠したのだろう。
王族や、一部の貴族しか知らないから、それ以外には知られないと思って。
自分の都合が良いように”勇者”を使う為に。
そして恐らく、その術が書き記されているモノはここ――ヴァイアブール王宮書架にある筈なのだ。
それを見つけなければならない。
『互助会』の為に、この世界にやって来た転生者達の為に、そして――
――”彼等”の為に。




