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八十四話 ”不可侵の森”へ

こんな時間になってしまった……。


 ガラガラと音を立てて商隊の列が”不可侵の森”へと物資を輸送する最中、祐樹はその馬車の内の一つに、アァルと共に乗っていた。

 護衛とは名ばかりの、安全な旅行の様である。

 初めての馬車に、皆がわくわくしている最中、


「……あの、エルフの事、詳しく聞いても良いですか?」


 という祐樹の言葉に、三人は視線をアァルへと向けた。


「えぇ勿論ですよ」


 アァルは頷いて、言葉を続けた。




 エルフとは尖った耳が特徴の種族であり、その歴史は人間よりも古い。

 長寿であり、容姿端麗な者が多い。

 その多くが森に住むが、それ故に森単位で一族である。

 これから行く”不可侵の森”は”エルフの故郷”とされており、最も規模の大きい集落がある。

 今回はそこへと食糧等を届ける任務である。


「……ただ、余り横柄に接しないよう、お願いしますよ?」


 エルフは”神の御遣い”とも言われ、また神の末裔でもある。

 一般市民どころか、貴族王族でさえ頭を下げるのだ。

 幾ら”勇者”といえど、エルフに対してその様な態度を取ったと知れば、色んなところから苦情が来るのは眼に見えていた。

 特に、今回はそんなエルフ達の中でもトップと直接商談――実際には夜達が入手したバグナゴガル――がある。


「彼女は五百年以上……いえ、恐らくは千年程度は生きています」


 エルフの女王”真祖のエルフ(ハイエルフ)”――フランチェスカ。

 彼女は聖教の教主や聖教を信奉する国の王達を産湯に浸け、祝福を与えた人物であり、その影響は計り知れない。


「……ご、五百……千年って」


「想像もつかねぇな」


「……うん」


「凄ーい、長生きのお婆さんなのね~」


 由梨花ののんびりとした言葉に、一瞬空気が凍った。





『凄ーい、長生きのお婆さんなのね~』


「おい暁、あんな事いってるぞ」


 ”勇者”達の会話が聞こえる位置で護衛をしていたコウリンはその前を歩く暁に声を掛けた。

 だが、暁はだからどうした、と言わんばかりの表情である。

 片目を瞑った状態で振り向き、首を傾げる。


「だからどうした? 何か問題があるか?」


 そうだった、此奴はそんな奴だった。

 コウリンははぁと溜息を吐く。


「もし姐さんが聞いたらどんなことになるやら」


「……アイツはそんな事を気にする()()でもないだろう?」


「いや、そう思いたいんだが、周りのエルフがどんな反応をするのか……」


 うんざりといった様子のコウリンに、暁は淡々と事実を話す。


「どうもこうもないだろう。烈火の如く怒り、戦争の始まりだ」


「だよなぁ……」


 コウリンは再び深い溜息を吐く。

 ”真祖のエルフ(ハイエルフ)”であり、女王であるフランチェスカをエルフ達は”我等が母”と神の如く慕っている。

 普段は穏やかなエルフ族であるが、『温厚な奴ほど起こると怖い』である。

 コウリンは良く後で言い聞かせておこうと固く誓ったのだった。


「……それで? 今回の輸送は食材がメインじゃねぇんだよな?」


 何時までも考えていても仕方が無いので、コウリンは話題を変える。


「……あぁ」


 そう言って暁は隣でガラガラと音を立てて走っている馬車を触る。

 暁の隣で揺れている馬車は他のより一回り程大きく、中が見えない様な造りとなっている。

 それは”勇者”に中の物を見せない様にする為に用意されたものだ。


「……夜から送られて来た()()だ。()()()のついでに、魔術に詳しいフランに調べて貰おうと思ってな。持ってきた」


「……夜の報告書の()()か。じゃあ”勇者”達にはバレねぇようにしねぇとな。いらん警戒を持たれたらアウトだしな」


 コウリンと暁は二人揃って前を向き、周囲を警戒し始めた。

 商隊はゆっくりとした速度で、目的地へと進んでいった。



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