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八十三話 裏では既に

 初の実戦だったということで、数日の休息の後、アァルは祐樹達を集めた。


「皆さんにはこれからとある商隊の護衛をして頂きたいと思います」


 アァルの言葉に、四人は安心した表情を浮かべる。

 盗賊討伐などの人を傷つける様な依頼ではないからだ。


「……その商隊はマグニフィカ王国とこの国ヴァイアブールの国境付近から”不可侵の森”へと行きます」


「”不可侵の森”?」


 聞き慣れない言葉に四人が首を傾げ、アァルを見る。


「えぇ、”不可侵の森”……またの名を”非出(でられず)の森”とも呼ばれている、巨大な樹々で覆われた森林です。その広さは小国並みであり、数多の動植物の楽園であり、名前の通り『入ったら出られない』と言われている森です」


「そこに商隊は何をしに行くんですか?」


 アァルの言葉を聞いて、瑞姫がアァルに尋ねた。

 アァルもそれに素直に応じる。


「物資の輸送ですよ。主に食材や刀剣の類を輸送します」


「輸送? そこに住んでいる人がいるんですか?」


 はい、とアァルは頷き、


「人……とは若干違いますがね。そこに住んでいるのは”神の御遣い”ともされている種族――エルフですよ」


 そう説明した。






 同時刻、夜はヴァイアブール王国の王宮内のとある一室にいた。

 窓の無い部屋は明かりを付けなければ何も見えない程だ。

 しかし、暗殺者(アサシン)のクラスである夜は、明かりが無くとも昼間と同様に動く事が出来る。

 夜は蝋燭等の明かりも付けず、一心不乱に何かをしていた。

 周囲に散らばっているのは本だった。


「……」


 夜がいるのはヴァイアブール王家が禁書や稀少な書物、門外不出の本等を保管している書架だ。

 盗賊達を殺して以降、”アァル”を他の部下に任せ、近寄らせないようにこの部屋の周囲に魔術を掛け、一日中ここに籠り、調べ物をしていた。


「……違う」


 そう言って本を放り投げ、隣に積まれていた一番上の本を手に取り、開く。

 そしてその数時間後、夜は漸く求めていた本を探し当てた。


「……あった」


 その背表紙にはこう書かれていた。


『歴代勇者の軌跡』


 歴代勇者達がどのように過ごしていったのか、それが気になったのだ。

 この国の歴史は相当に古い。

 召喚された”勇者”の数もそれ相応に存在する。

 だが、噂話の一つに気になる話があった。


『”勇者”には行方不明となった者もいる』


 幾人かの”勇者”が、その役目を終えた後にその姿を見なくなったと言うのだ。

 まるで神隠しにでもあったかの如く、忽然と姿を消したらしいのだ。

 王族もそれに関して黙秘しており、真実が公表される事はなかったと言う。

 だからこそ調べる必要があると思ったのだ。

 表には出てこなくとも、『国』である以上、真実を何処かに書き記しているはずなのだ。

 それが後の世の役に立つかもしれないのだから。


「……良し」


 夜は息をフッと吐くと、本の表紙を捲り、読み始めた。





 祐樹達はマグニフィカとヴァイアブールの国境にあるマグニフィカ国側の街デーベへとやってきていた。

 祐樹達の目の前には既に十台もの馬車が並んでいた。

 アァルを先頭に、商会の長のもとへと向かう。


 馬車の先頭に立っていたのは三人の男女だった。

 一人の男は如何にも金を持っていそうな身なりの男性だった。

 そしてその隣で話し込む冒険者姿の男と鎧姿の女性。

 その一団にアァルは近寄って行く。

 三人はそれに気付き、祐樹達の方を向く。


「ラヴィオ会頭! ……お待たせしました」


 そうアァルが頭を下げるが、ラヴィオと呼ばれた男は首を横に振る。


「いえいえ、依頼したのは此方ですから。……紹介しましょう。皆さんと共に護衛を務めて頂く暁殿とコウリン殿です」


 ラヴィオはそう言うと、今度は二人に向き直り、


「彼等はヴァイアブールの冒険者達です。貴方方と共に護衛を請け負って頂きます。アァル殿に聞けば、彼等は先日ヴァイアブールに召喚された”勇者”だとか。いやはや、安心ですなぁ」


 そう紹介した。

 当たり前だが、暁、コウリン、ラヴィオ、アァルの四人は協力体制にある為、既に顔合わせを済ませている。

 だが、それを顔には出さない。

 暁とコウリンはそれぞれ、小さく頭を下げる。

 不愛想でマイナスイメージを持たれかねない態度だが、祐樹達はそれに気付かず、興奮を隠しきれない様子で暁とコウリンに詰め寄った。

 その中で一番盛り上がっている龍平が尋ねる。


「――あ、あの! 珍しいお名前っすね!」


 もしかしたら自分達と同じ境遇の人間が――そう考えての言葉だろう。

 勿論、「君達と同じく、この世界にやってきた人間なんだ」などとは説明しない。

 少なくとも今はまだその時ではない。

 暁よりはコミュニケーション能力が高いコウリンが訳を説明する。


「あぁ、えぇ。良く言われますよ。……我々は別の大陸にあるヤマト国からやってきたんです。その国ではこの名前は一般的なんですけどね」


 スラスラと嘘を並べていくコウリン。

 だが、実際にヤマト国があるのは事実で、そこは日本と文化とほぼ同じだ。

 それで納得したのか、祐樹達は「ヤマトだって!」と異世界ながらも日本と全く同じの国名に、ど

 んな場所なのか思いを馳せ、四人で盛り上がる。




 そんな彼等を暁は少し離れた場所から、気付かれない程度に見ていた。

 純粋な”勇者”四人には悪いが、『互助会』の計画は既に動き出している。

 今この時彼等がこうして自分と会う事も、エルフの村へと行くことも、全てが想定通りなのだ。

 全て、その全てが『互助会』の考えているシナリオ通りに進んでいる。

 ”勇者”達は自分達が手の平の上にいる事を知らない。

 ただ純粋に、元の世界に帰る為、人々を救う為に、頑張ろうとしている。

 それが少しだけ、哀れに思えたのだった。



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