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八十二話 ”勇者”達の決意

「さて」


 仕切り直す様にアァルが手を叩く。

 そして未だ激突した小屋の壁にへたり込んだ儘のバズを見る。


「彼の処遇をどうするかですが……皆さん、どうしたいとお考えですか?」


 アァルはにこやかに笑い、四人を見回す。

 アァルの問いに、四人を代表して祐樹が答えた。


「……捕まえますよ。俺達は”人殺し”じゃない」


 その答えに、アァルは更に笑みを濃くする。


「えぇ、えぇ……。では、此方が捕縛の縄になります」


 そう言って持っていた麻袋から縄を取り出し、祐樹達に渡した。






「へっへっへ。……まさか”勇者”様だったとはなぁ。お優しいこって」


 バズは縄で捕縛され、彼以外の盗賊団員は近くの大樹の近くに縄で縛られ、一緒くたにされて転がされていた。

 アァルが祐樹達に頭を下げる。


「いやぁ、実に見事でした。バグナゴガルという想定外はありましたが、見事に対応されましたねぇ。……さて、私はここで彼等を連行するギルド職員を待ちますので、皆さんは先にトォナオへと帰還してください」


「わかりました。後の事は宜しくお願いします」


 アァルの厚意に甘え、祐樹達四人は山を下りて行った。





「いやぁ、つっかれたー!!」


 トォナオへの道の途中、うん、と伸びをして龍平が言う。


「そうだな。盗賊団退治だけだと思ってたら、まさか竜まで出てくるとは思わなかったよ」


 祐樹も肩を解しながらそれに同意する。


「二人共恰好良かったわよ~」


 由梨花がそう褒めるのに、二人は恥ずかしそうな反応を返す。

 そんな中、


「……どうしたんだ瑞姫?」


 瑞姫がずっと黙っているのに気付いた祐樹が瑞姫に声を掛ける。


「え、あ……うん」


 考え事をしていた瑞姫は声を掛けられたのに驚き、曖昧な反応を返した。

 それを疑問に思った祐樹は更に追及する。


「何か考え事か?」


 それにも「別に」と返答した瑞姫であるが、やがてポツリポツリと話し始めた。


「……あのアァルさん。やっぱりちょっと可笑しいと思わない?」


 瑞姫の言葉に、三人が首を傾げる。


「だって最初に会った時に”騎士”って言ったのよ? でも騎士って毒を使うかしら?」


 瑞姫の疑問に、祐樹と龍平は顔を見合わせ、


「……いや、騎士っていっても役割は色々あるだろうしなぁ?」


「そうだな。……毒とかに詳しくても何の不思議もないと思うけど」


 そう言い合う。

 だが瑞姫は納得していない様子で、


「それに使ってる武器がナイフよ? 騎士なら普通剣じゃない? あれじゃ、まるで今日戦った盗賊団と同じだわ」


「……そりゃ、そうだけど――」


「――私、なんでナイフなのか知ってるわよ~?」


 祐樹の言葉を遮ったのは由梨花だった。

 三人が驚いた様子で由梨花を見る。

 だが由梨花は何時も通りゆったりとした華やかな笑みを浮かべながら、


「私もね~、それが気になって初日に聞いたの。私の騎士のイメージも鎧に剣、ってイメージだものね~。気になって本人に直接聞いたの。……それでね、私達って余り派手で目立つ事はしたくない、って大々的なパレードとかを遠慮したじゃない? 国王様がそれを聞いて、従者も余り目立たない出で立ちで、って指示してくれたらしいの~」


「……そう、ですか」


 由梨花の言葉に、納得した部分もあって瑞姫は頷いた。

 でも、


「――じゃああの笑みは何だったのかしら?」


 今更ながらに思い出した、気のせいだと判断したアァルの酷薄な笑みを思い浮かべながらそう呟いた瑞姫の言葉は、三人には聞こえなかった。





「……一人で残るたぁ、随分度胸があるじゃねぇか」


 祐樹達がいなくなり、ボーっと突っ立っていたアァルに向けてバズが笑いながらそう言った。

 アァルはバズをチラリと見るが、バズの言葉を無視して直ぐにその視線をバグナゴガルへと移した。

 そしてバグナゴガルへと近付き、その首についている巨大な首輪を触る。


「……盗賊団がこんな高価な代物を、ねぇ」


 アァルは……いや、夜は溜息を吐くと、


「……”蛇”、出てこい」


 長の指示に従い、バズの目の前に黒装束の”蛇”達が現れる。

 頭領であるザイールが先頭に立ち頭を垂れる。

 夜はそれを一瞥し、


「……この首輪を暁の元へ運び、調べて貰う。”渡り鳥”を使う。直ぐに呼べるな?」


 夜の命令に、ザイールは黙って頷く。


「良し。――次だ。こいつ等を尋問し、裏にいる人間を聞き出せ」


「……了承。即座に」


 命令を受け、”蛇”がバズ達を小屋の中へと担ぎこんでいく。


「てめぇ! クソッ! 何しやがる!?」


 暴れるバズだが、縛られている状態では抵抗など出来るはずも無く、夜に悪態を吐きながら小屋の中へと連れていかれた。

 夜はそれを見送ると、口に手を当てて口笛を吹く。

 すると何処からともなく現れた一羽のカラスが”アァル”姿の夜の肩に止まる。

 そして懐から取り出した魔道具に声を吹き込むと、それをカラスの足に括り付ける。


「……暁のところに届けてくれ」


 そう言い終わると同時に、カラスは飛び立っていった。

 夜はカラスの飛び去った方を一瞬見ると、小屋の中へと入って行った。



 盗賊達は後、見るも無残な姿で発見されるが、その情報は世間には出ずに終わる事となる。




”勇者”達は『殺さない事』を決意しました。


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