七十八話 ”勇者”パーティーVS盗賊
はい、頑張って連続投稿しまーす!
「トゥワンカ山はこの街道の先、さぁ行きましょう」
夜の変装したアァルの先導により、祐樹達”勇者”一行はトゥワンカ山へと続く道を歩いていた。
四人は最初は和気藹々と話していたが、徐々にその口数は減り、山が遠くに見えて来た時点では口を開くことなく、ただ前を見て歩くだけとなっていた。
これから戦うのは魔物ではない。
自分と同じ人間だ。
幾ら悪事を働く悪人だろうと、人を傷つける事には変わりは無い。
それがずっと彼等の心の中に燻り続けていた。
それを見てアァルは苦笑いを浮かべる。
「……余り余裕はないようですね。一度実戦を体験すれば幾らか変わるのですが」
「……アァルさんはあるんですか? その、人を……」
余裕のあるアァルを見て、祐樹が聞いた。
聞くのを躊躇し、言葉を濁した祐樹に、何を言っているのかとアァルは”アァル”として答える。
「えぇ、勿論。……ハンターや冒険者、私の場合は国に仕える一介の兵士、と言う立場ですが……こんな職業に就いていれば一人や二人、当たり前ですよ。そうでなければ生きて行けませんからね」
アァル――夜も元は日本に住んでいた。
しかし、まだ彼等に正体をバラす事は出来ない為に言えないが、この世界に暗殺者・殺し屋として転生してからというもの、殺した数は数えきれない程だし、一々覚えていたら精神が疲弊してしまう。
元よりこの世界と日本では常識が違う。
”死”の概念が此方の世界の方が圧倒的に身近なのだ。
「……貴方方も、覚悟を決めなければなりません……が」
そこまで言って夜は彼等に選択を与える。
「……此度の依頼は『討伐又は捕獲』。貴方方に技量さえあれば、殺すことなく捕まえる事で終える事が出来ます」
それは夜にとって彼等を見極める為の選択肢だ。
捕獲するなら、ある意味では『優しさ』とも言い変える事が出来るだろうが、それは同時に『人を殺す覚悟がない』と言っている様なモノだ。
ここで盗賊を殺すことが出来ない様ならば、この世界で生きていくなど出来はしない。
この世界はそんなに甘くはない。
幾ら『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』と酷似した世界であろうとも。
ここは血生臭く、清濁が入り乱れる現実なのだ。
まぁ自分自身が既に壊れている、という事も夜は理解しているが。
そして彼等が”アァル”の言葉を聞いて、安堵を隠そうともしないのを見て、夜は彼等の覚悟の程度を理解する。
だが、それを表情には出さない。
「……どうなさるかは貴方方の自由。それをお忘れなきよう」
「……はい」
アァルの言葉に、祐樹は暫く黙った後、頷いた。
「そろそろ商隊が通る頃だな。――テメェ等、とっとと準備しろや!」
山小屋で雑魚寝していた部下達を頭領であるバズ・ラィバが怒鳴りながら蹴って起こす。
「……うぁ。了解ッス頭ぁ」
「あー……飲み過ぎた」
「ぅいーっす」
億劫そうに立ち上がる部下達。
武器を担ぎ、扉から出て行く部下の内の一人に声を掛ける。
「おい、あれの準備は出来てんのか?」
「へ、へい! 餌を与えておきやした。檻ん中におりやすぜ」
「そうか。じゃ、行くとしますか」
バズは野生の獣の様にニタリ、と笑った。
「――がはっ!」
バズが外に出ると、吹き飛ばされた部下が足元に転がって来た。
慌ててバズが顔を上げると、五人の冒険者――祐樹達”勇者”メンバーが武器を構えていた。
近接戦闘の二人の男は剣を鞘から抜いていない為、恐らくは後ろに控えている女の術師のどちらかがやったのだろう。
「テメェ等、何も……いや、冒険者か。とうとう討伐しに来やがったか! ――野郎共、囲め!」
「「「―—おう!」」」
バズは腰から片手斧を抜き、部下達に号令を出す。
祐樹と龍平は鞘に縄を括り付け、構える。
その姿に、バズは苛立ちを隠そうともしない。
「――っ! テメェ等武器を抜かないとか嘗めてんのか!」
それに対して、祐樹は不敵に笑って見せる。
「……必要ない。俺は――俺達は絶対に負けないんでね。――瑞姫! 由梨姉!」
「えぇ! 【身体強化】!」
「任せて~! 【無の防壁】!」
祐樹の声に応え、二人は其々身体強化と周囲に透明の盾を生成する術を祐樹と龍平に掛ける。
そして祐樹はそれを確認すると、全員に言い聞かせる様に大声で叫んだ。
「――行くぞ!」
「おう!」
「えぇ!」
「は~い!」
それに三人が真剣な――若干一名そう見えないが――表情で答える。
かくして、”勇者”パーティー初の実戦の対人戦闘が始まった。