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七十七話 ”蛇”

遅ればせながら!


 月の半分を雲が覆い、薄暗い中、動く影が一つ。


「……”勇者”発見」


『赤鶏の卵亭』の”勇者”達が宿泊している部屋を窓の外、少し離れた家の屋根の上にへばりつくように着地したそれはまるで獲物を狩る豹の如く、しなやかに屋根から屋根へ移って行く。

 そして『赤鶏の卵亭』の屋根へ着地しようとした寸前、


「――っ!?」


 突如その影を別の影が襲った。

 二つの影はその態勢の儘、地面に音も無く落ちる。

 襲いかかった影は一瞬で襲われた影の口を手で覆うと首にナイフを差し込む。

 声も無く絶命させた影はナイフを抜いてから立ち上がる。

 月明かりに照らされたその姿は全身黒尽くめ――”魔女の夜(ヘクセンナハト)”の実働部隊”蛇”の長”蛇手”ザイール・ウィルチェであった。


「……これで八人目。……任務終了。夜様」


「……苦労」


 ザイールの隣に夜が霧の如く現れる。

 長身のザイールと夜が隣に立つと、まるで大人と子供程の体格差がある。


「……久しぶりに『殺した』んじゃない? ザイール」


「……肯定。近頃は諜報ばかりだったから、鈍っている」


 夜の言葉に頷くザイールをチラリと見て、夜は首を傾げた。


「……別に二人だけなんだから言葉遣い、崩して良いよ?」


「……わかった。夜」


 そう言うが早いか、”蛇”の仮面を外し、フードを脱ぐ。

 すると長い黒髪がフードからはらりと垂れる。

 仮面の下から現れたのは黒髪の美女だった。

 夜と同じく無表情ながら、夜が人形ならザイールは彫刻と言えば良いだろうか。

 整い過ぎていて人間味の無い容姿であった。

 その耳は尖っており、フランチェスカと同じ、エルフの特徴だ。


「……仮面外すの何時以来?」


「別にずっとつけてるわけじゃない。寝る時とか、変装時は外してる」


 上司と部下の関係でありながら、交わす言葉は気心の知れたそれだ。

 それは夜が独立する前、”名も無き盗賊団”時代に最初に仲良くなったのがザイールだった。

 互いに”人間”ではないがそれを隠してきたこと、無口であまり喋らない事から意気投合したのだ。

 意気投合して以降、常に夜を助けてくれる親友であり、信頼できる腹心の部下と言っても良い。


 ザイールはフランチェスカの部族とは別の、旅をして生きる流浪の一族の純血のエルフである。

 だが、本来エルフの髪の色は金髪や銀髪、茶髪等の色素の薄い色が殆どだ。

 しかし、何故か彼女は黒髪として生まれてきた為、一族からは”忌み子”とされ、捨てられたのだ。

 それ以降、彼女は()の人間に拾われ、暗殺者としての生活を始めたのだという。

 本来エルフは魔術や弓を得意とする一族だが、彼女の適性が【闇魔術】や【隠密】にあったということもあり、暗殺者としての適性は高かった。

 夜に次ぐ高い暗殺術と変装技術を持っている稀有な存在なのだ。

 夜が来る前から仮面をしており、それが彼女が長をしている”蛇”の所以となっている。





 夜は死んでいる人間を蹴飛ばし、顔を露にする。

 ザイールが殺したのは三十代位の男だった。

 白目を剥き、口を開けて涎を垂らし、喉からは血を流して哀れな姿で死んでいる。


「……これはどこの暗殺者?」


 夜が死体を指差してザイールに聞く。


「……紋章からヴァイアブールを拠点にしている暗殺者集団”一角竜”で間違いない」


 暗殺者集団”一角竜”はヴァイアブールに拠点を構え、周辺の国で活動する中規模の集団だ。

 腕としては”魔女の夜”の暗殺者達に比べて劣っていると言わざるを得ないが、”魔女の夜”との接点がない貴族にとっては十分”凄腕”の部類に入るのだが……。

 夜はそれまでの穏やかな雰囲気を霧散させる。


「……ザイールには”勇者”を暗殺しようとしてくる暗殺者達を殺して欲しい。”蛇”ではなく”蛇手”に頼みたい」


 ”蛇”達でも十分だと夜も思っているが、もしもの為である。

 ザイールならば、夜と同程度クラスの相手にも勝てないまでも負けない程度の実力は持っている。

 夜と同程度という事はつまり暁とかフランチェスカと同等って事だ。

 まぁあんな怪物がそんな簡単にいてたまるか、と夜は思うが。


「――了承。依頼承る」


 ザイールもフードを被り、仮面を付け、口調を戻し、”蛇”の長”蛇手のザイール”として頭を下げた。


「……じゃ、後は任せた」


 夜は一度霧となり、そして姿を現すと”アァル”の姿になり、街の中へと姿を消していった。




ザイールは最初からこの設定でした。

別に急に変えたわけじゃありません。

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