七十五話 休息
なんとかなった〜
トォナオより南東にある山トゥワンカの山小屋。
「ケケケケケ! いやぁ大量大量!」
「楽勝っすねお頭ぁ!」
そこでは十人の男が下卑た笑い声を上げながら騒いでいた。
その顔は赤らんでおり、息は酒臭い。
彼等の前においてある巨大な机の上には大量の食糧や金品が乱雑に置かれている。
「肉はあんのか肉は?」
「どんどん焼こうぜ!」
男達の中の二人が肉を焼く為に外に出て行った。
暫くして、肉の焼ける良い匂いが漂って来た。
男達は待ちきれないとばかりにガヤガヤ騒ぎながら外に出る。
そして肉を焼いている薪の周囲を囲む様に座る。
「そう言えば頭、”勇者”が召喚されたって知ってますかい?」
その内の一人がご機嫌な様子で、酔っぱらって舌っ足らずな喋り方で”頭”と呼ばれた人物に訊いた。
「あぁん?」
男達の中でもつけている装飾品の多い体格の良い男が話しかけて来た男の方を見る。
「”勇者”だぁ? なんだよそりゃあ」
「頭知らねぇんですかい? この国の王が先日召喚したって話だ。なんでもこれから『国内外の悪人共を討伐する』なんてほざいてるらしいッスけど」
「あぁ? んなもんしったこっちゃねぇな! ”勇者”だろうがなんだろうがこのバズ・ラィバの敵じゃあねぇのよ!」
自信満々に答えたバズと自身を呼んだ男はペロリ、と舌なめずりをした。
「我々が向かうのは此処より南東にある山トゥワンカという山です。標高は高くなく、比較的魔物も弱いため、商隊や旅団の通行によく使われておりますが、最近そこに盗賊団が住みつき、商隊等を襲い食料や金品、女等を攫っていくらしく、それを討伐して欲しいという嘆願書が増えてきておりました」
ゴブリンを討伐してきた翌日、『赤鶏の卵亭』の一室で、再び五人は集まっていた。
アァルは地図を取り出し、一ヵ所を指差す。
「ここがトゥワンカです。詳しくはこれから調査しますので、今日一日、皆さんは休んでいてください」
アァルはそう言うと、立ち上がって部屋を出て行った。
部屋に残された四人は扉が閉まると同時に、思い思いにリラックスを始めた。
「なんか、寝たはずなのに疲労感があるなぁ……」
龍平がそう言いながらベッドに寝転がっているのを横目に見ながら、祐樹も頷く。
「ゲームと現実とじゃやっぱ全然違うからな。本当に自分の命が懸かってるから、気が抜けないし、それに血に対しての……ってよりは”殺す”って事に対しての躊躇や嫌悪感は拭えないからな」
「私もよ。私自身は余り動いてないのに魔術を使うと自分の中の魔力がどんどん減ってって疲れるの」
床にペタンと座り込んで、瑞姫が言う。
そこに人数分の紅茶を入れたカップを乗せた盆を持って由梨花がやって来る。
机の上にそれを乗せて、皆に配りながら、
「そうね〜。でもアァルさんは今日は休めって言ってたし、好意に甘えてゆっくりさせて貰いましょう」
そう言って自分の分の紅茶を飲み、
「うん。美味し~! さ、皆も飲んで?」
嬉しそうに微笑む。
どんな時でもマイペースな由梨花に、三人は顔を見合わせて苦笑いした後、紅茶を飲みながら会話を始める。
束の間の休息は、穏やかに過ぎていった。
アァルは昨夜と同じく、夜がいる隠し部屋に来ていた。
「……どう?」
端的な夜の質問に、アァル――ヴァンディは懐から書類を取り出し、夜に渡す。
「詳しくは此方に。……勇者達ですが、”殺す”事には未だ抵抗がある様子。彼等の性格を鑑みた上で、私の見解ですが、彼等にはこの世界には合わない、と判断します。彼等には元の世界がお似合いかと」
ヴァンディの報告に、夜は暫く考える様に眼を瞑り、眼を開いて、
「……そう。じゃ、私が変わる」
そう言った。
ヴァンディは一瞬目を見開き驚きを顕にするが、直ぐに表情を戻し、
「畏まりました。”鴉”にはそう伝えておきます」
頭を下げ、部屋を退出していった。
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