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七十三話 盗賊の前の魔物退治

 翌日、『赤鶏の卵亭』の”勇者”男子メンバーの泊まっている部屋に四人、そしてアァルが集まっていた。

 アァルが四人を見回し、喋り出す。


「では、これから貴方方が討伐する盗賊団の話を……と思いましたが、皆様には近くの森林で魔物狩りをしていただきます。言わばウォーミングアップの様なモノですな」


 アァルの言葉に、四人は肩を抜く。

 何時の間にか自分達が緊張していたらしい事に気付いた。

 四人は今まで人相手の”戦闘”をしたことがなかった。

 それもそうだ。

 彼等は今までそんなものには縁が無い平和な日常を過ごしてきたのだ。

 それ故に、知らずの内に彼等は緊張していたのだ。

 それに気付いて、アァルは苦笑いを浮かべる。


「流石に直に盗賊団……人と戦うのは些か急ですからね。幾ら城内で兵士相手に訓練をしていたとはいえ、『訓練』と『実戦』は違うもの。先ずは『実戦』というものに慣れて頂きたく」


 そう言うとアァルは懐から使い込まれた紙を取り出し、机に広げた。

 四人はそれを覗き込む。


「これって……地図ですか?」


「えぇ、この国の地図ですね。今いるのがここで――」


 そう言いながら地図の真ん中に近い、トォナオと書かれた場所を指差す。

 そしてそこから少し離れた場所に書かれている少し色の濃い場所を指差す。


「そしてここが目的地であるサールヴァト森林です。強力な魔物は棲んでおりませんが、ゴブリンやオークなどが棲みついており、初心者冒険者にとっての練習場の様になっております」


 そう言うとアァルは懐に地図を畳んで入れると、立ち上がる。


「既に冒険者ギルドに行って依頼を受けてきました。これから向かおうと思いますが、構いませんね?」


 アァルの言葉に、四人は一斉に頷いた。





「……あの、ゴブリンとかオークってのはどういう奴なんですか?」


 サールヴァト森林に向かう途中、うずうずと言った様子で、龍平がアァルに尋ねた。

 アァルは苦笑しながらもそれに律儀に答える。


「ゴブリンは小型の魔物で、緑色の身体と額に角を持っています。力は弱いですが、すばしっこく、知恵もそれなりにあり、人と同じく剣や棍棒を振り回し、集団で襲い掛かってきます。一方オークですが、人より遥かに大きな巨体に豚の頭を持つ魔物です。知能は低く、動きは鈍重ですが、腕力が強いです」


「おぉ! おぉ! 本当にゲーム通りだな!」


 すっかり興奮した様子の龍平の肩を落ち着かせる様に掴む。


「……落ち着けって龍平。そんなに興奮してちゃ、危ないって」


 祐樹の言葉に勢いを削がれ、龍平は「あ、あぁ」と反応する。

 祐樹の意見に同意する様にアァルも頷く。


「……そうですね。幾らゴブリン、オークと言う初心者の戦うような魔物であろうと、何人もの冒険者達が殺されてきました。初心者冒険者は自分の腕を過剰に過信したり、油断しやすいもの。ゴブリンは小型で知恵が回り、オークは屈強な身体と力を持つ。どちらもまだ日の浅い貴方方では油断ならぬ相手となる筈。……それに」


 アァルはそこまで言ってから一息入れて声のトーンを落とし、しかし何時もの柔和な笑みを浮かべて、


「貴方方は(いず)れ嫌でも『人を殺す』事になります。盗賊や野盗共が、『あぁ勇者様! ご無礼をお許し下さい!』などと言う訳が無いですからね。まぁ人と魔物とでは戦う事への必要な”覚悟”は違いますが、ね」


 氷の様な冷たい声でそう忠告した。

 アァルが淡々と発した『人を殺す』と言う言葉に、四人は嫌でもその光景を想像し、身体を固くしてしまう。

 が――


「クククッ……申し訳御座いません。少々脅し過ぎたようですね。……失礼、今はゴブリンやオーク討伐に集中して下さいませ」


 アァルの笑い声に、四人は何時つの間にか止めていた息を吐き出す。


「いやいや、申し訳ないですね。さて、目的地はまだ先です。行きましょうか」


「そうだな。今は集中しないと」


「あぁ。……気を付けよっと」


 アァルの言葉に従って、四人はまた会話しながら歩き始める。


「――っ!?」


 だが、一番後ろで見ていた瑞姫には前を向く時に浮かべたアァルの笑みが一瞬、まるで獲物を狩る蛇の様に見えた。

 自分達を射抜き、絡めとり、呑み込む”蛇”に。

 しかし、瞬きをして見直すと、後ろに振り向き三人の会話に参加するアァルの笑みはここ二日で慣れた何時もの柔和な笑みだった。

 それ故に、彼女は気のせいだと思う事にして、彼等に駆け寄って会話に参加した。




そう言えば、この章に出てくるアァルですが、まぁ分かり易いですよね。

アァル・ユゥ・ワィオ

アール・ユー・ワイオー

RUYO

YORU

つまりは夜の名前となっています。

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