七十一話 一月経って
推敲できてないなぁ……と思いつつも、まぁいいかと投稿。
多分後十数話で終わる……筈。
祐樹達が異世界に来て一月経った。
その間も祐樹達は鍛錬をし、その腕をメキメキと上達していった。
瑞姫や由梨花も様々な魔術を操れるようになった。
そしてある日、
「……ねぇ先輩」
四人で鍛錬をしていた中、突如魔術を唱えるのを止めた瑞姫がその口を開いた。
「何ですか瑞姫ちゃん?」
首を傾げ、由梨花も術の詠唱を止める。
「……何か少し変じゃないですか?」
「……? そうですか?」
瑞姫の訝しむ声に、祐樹や龍平もその手を止める。
「どうしたんだ? 瑞姫」
「また祐樹がなにかしたんじゃねぇの?」
「……ううん、そうじゃなくて。なんだろ、誰かに見られてる気がするの」
瑞姫が首を傾げるが、それが誰なのか、それが何故なのかわからない。
だかどこかそう、違和感を感じるのだ。
「……覚えたてだけど使ってみるわ。――【魔力探査】!」
【魔力探査】は使用する魔術を調べるのではなく、魔力を調べる事によって潜伏している敵を見つけたり、洗脳されている者を見つける事が出来る術だ。
洗脳をされている場合、洗脳されている当人に加え、別の洗脳している人間の魔力が混ざるのだ。
「……ダメ、見つからない」
首を振った瑞姫は眼を瞑り、歯を食いしばる。
徐々にその額には汗が噴き出し、身体も震え始める。
「……もっと、もっと精度を高めないと。もっと……もっと鋭く、精密に……埃一つすら見逃さないように……」
「瑞姫?」
「――!!」
閉じていた眼を見開く。
そして瑞姫には見えた。
深く、暗い闇色の魔力が自分達を覆い隠しているのを。
「――これって! 【魔術探知】!」
今度使うのは使用された魔術を調べる為の術だ。
「……これ、監視の魔法!?」
漸く自分達にかかっている魔術の正体を理解した瑞姫が叫ぶ。
「――っ先輩! 私は探知するので手一杯です! 解除魔術をお願いします!」
「えぇ、わかったわ。限界まで高めて…………【魔術破壊】!」
極限まで集中力を高め、唱えた由梨花の放った解除魔術が自分等に掛かっていた監視魔術を打ち消した。
「――ァハッ! ……ハァ、ハァ、ハァ!」
「……ふぅ~どうにかなりましたねぇ」
二人が息を切らし、特に瑞姫は今まで使ったことが無い程の魔力と集中力を使った事による疲労によってへたり込む。
そこにそれを見守っていた祐樹と龍平が駆け寄ってくる。
「大丈夫か二人共!」
「……で、結局何がどうなってたんだ?」
まだ息の乱れている瑞姫が息を整えながら口を開く。
「……多分、ずっと、見張られて……た、と思う」
「「「――!!」」」
普通に生活していれば先ず聞かない『見張られていた』という言葉に三人に緊張が走る。
漸く息が整ったのか、ふぅ、と深く息を吐いてから瑞姫が続ける。
「結果的にはなんとかなったけど。魔術に使われている魔力量が少なすぎるよ。察知するだけでこんなに疲れるなんて。……多分私達に魔術を掛けたの、凄い高位の術師だと思う」
「……誰がそんな事を」
周囲を警戒する祐樹の疑問に答える者はいなかった。
『……誰がそんな事』
はい、俺です。
つーか別に【隠蔽】スキルが高いだけで、別に魔術が得意な訳じゃないんだけどなぁ。
言ってしまえば俺が”レジェンドアサシン”だから【マーキング】に使用する魔力量が小さくても対象の状況や状態を察知出来るってだけだ。
凄いのはクラスの特性である。
優れた魔術師なんてヴァネッサとかフランチェスかとかいるしな。
それはさておき、たった一月で解除か。
ま、それなりに鍛えてんじゃないか?
あとニ・三月は掛かると思ってたけど、案外早いもんだ。
これも”勇者”として召喚された影響なのかね。
因みに俺がいるのは城外だ。
そこに生えている高い樹内の一番高い樹の幹に背を預け、太い枝に座っていた。
ここからでも、【諜報】のスキルを使えば聞こえる。
これは相手に魔術を掛ける訳ではないので打ち消される心配はない。
それ以外にも色々と調べてみたが、国王は”勇者”達に旅をさせるつもりのようだ。
恐らくは”勇者”としての『箔』をつける為だろう。
お付きとして国王直属、または息のかかった協力者が付くはずだ。
そいつが国王を通し、彼等を望む様に誘導する為つもりらしい。
どうやら国王陛下は内緒話が苦手らしい。
……哀れ哀れ。
つーか情報筒抜けじゃねぇか。凄く簡単に情報が手に入るんだが。
お粗末すぎるわ。
閑話休題。
一月の鍛錬で勇者達の戦闘技術は十分上達している。
恐らく魔物や盗賊程度ならば十分戦える位にはなっている。
あの国王の事だ。
それなりの腕を付けたと知れば早速動くに違いない。
「……そろそろ『”勇者”の冒険』が始める頃合いかな」
俺は樹から飛び降り、影の中に姿を消した。