七十話 暗躍する
というか勝手にする。
遅れてすいません投稿致します!
「――はぁっ!!」
「――らぁっ!!」
気合のこもった声と共に、カンッ、カンッという甲高い音が響く。
ヴァイアブール城の広大な庭で二人の少年――勇者として召喚された四人の内祐樹と龍平の二人が模造剣で戦っていた。
祐樹は剣、龍平は双剣をそれぞれ構えている。
一方で瑞姫、由梨花の二人はその少し離れた場所でそれを見ていた。
「なんか随分慣れてますね二人共」
「そうね~。……私達も祐樹君達を助けられるように頑張らないとね」
「はい!」
女子二人も頷き合い、早く魔術を使える様になる為に精神統一を始めた。
それを俺は少し離れた木の上から見ていた。
ここ数日、彼等はああして”勇者”として力を得る為に訓練を行っていた。
男子二人は基礎体力を鍛える為の走り込みや腹筋、腕立て、そして組手を。
だが、二人共剣を振るう様は何処か手慣れているようだった。
それもそう。
『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』の”剣士”が学ぶ剣術にそっくりだった。
女子二人は魔術適正があるらしく、今はまだ使えていないが魔術を使う為に己の内と格闘しているようだった。
……暇だね。
此方に気付く奴もいないし。
高位魔術を使える奴がいないのかねぇ?
俺【気配消去】も【透明】も使ってないんだけど……。
さぁ頑張ってくれ若人よー。
せめて俺達に武器を抜かせる位には、な。
「いやー汗掻いたな祐樹」
「あぁ」
組手を終え、祐樹と龍平は上半身裸になって近くの水汲み場で汗を流す。
「しっかしVRMMOでの経験がまさか生かされる時がくるなんて思わなかったよな?」
「あぁ。……この世界に来た時は驚いたけど。でも海外にいる身勝手な両親は別として、残してきた妹が心配だよ」
「あぁ勇音ちゃんか。確かに心配だよなぁ……お前の事が」
「……はぁ?」
祐樹は龍平の方を訝し気に見る。
龍平はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「勇音、お前の事大好きだもんな。『兄さんは私がいないとダメなんです』ってさ。健気なモンだなモテ男」
「やめろって。勇音は妹だぞ?」
「さて、向こうがどう思ってるかなんてわからねぇだろ”お兄ちゃん”。さ、二人共先に城ん中に戻っちまってるしとっとと行こうぜ」
そう言って肩を叩くと、龍平は先に城へと歩いて行った。
祐樹も溜息を吐いてからその後を追いかけて行った。
……成程ね。
女子二人は違うらしいが、『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』のプレイヤーだったか。
だから剣の扱いにある程度慣れていたって訳だ。
だが、どうやら俺達”転生者”とは違うらしい。
『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』で自分が使用していたスキル、術は使えないようだ。
ゲームキャラとして”転生”したのと生身で召喚――”転移”したのでは違いが出るって事か。
それに恐らく身体能力の差も出ているだろう。
”勇者”として召喚されて身体能力は多少ながら上がっているようだが、それでも俺や暁、フランチェスカ、コウリンやゼイにはまだ遠く及ばない。
しかし、”勇者”として召喚されたからには油断は出来ない。
そんな設定のWEB小説は幾らでも読んできた。
あとは女子二人の実力がどれだけ上がるかで変わって来るだろう。
俺が掛けた【マーキング】に気付く位になれば、それなりって事だが。
さて、何時気付くかね。
「……依頼?」
その日一日の監視を終え、”魔女の夜”がヴァイアブールの王都近郊の山に築いた秘密基地に帰還すると、俺についてきたオリヴィアがそう報告してきた。
俺は報告書を受け取って眼を通す。
そこに書いてあったのは幾つかの名前と国の名前、金額。
「……内容は?」
「……はい。内容は全て『”勇者”の暗殺』です」
……厄介な。
互助会としても”魔女の夜”としても、今はまだ様子見をしたい段階だ。
それに、『互助会』としてはアイツ等には強くなって貰いたい。
『互助会』にとっても”勇者”にとっても良い事だ。
「……”勇者”の出現を聞いて、周辺の国が慌て出した」
「はい、そのようです。此の儘では何れ自分達の悪事が知れ渡り、”勇者”によって討たれる。そう考えているようです」
煩わしいなぁ……。
いっその事ヴァイアブール国王からの依頼って事にして殺ってしまおうか。
その方が俺達の思った通りに出来そうだしなぁ……。
「……”蛇”」
「……ここに」
ザイールを筆頭に”蛇”達が現れ、頭を垂れ、跪く。
俺はオリヴィアから受け取った報告書をザイールに見せる。
「……ここに書いてある人物、全員……殺して」
「……了承。即座に」
”蛇”達は直ぐに姿を消す。
俺はオリヴィアに命令する。
「……オリヴィア、”梟”と”鴉”に連絡。情報を操作する。貴族を屠った事により発生する噂を操作する」
「はっ! ”渡り鳥”、”不如帰”も動かして情報を操作します」
オリヴィアは一礼するとすぐに部屋を退出していった。
部屋にいるのは俺だけだ。
「……ふ」
俺は短く息を吐き、肩の力を抜く。
”勇者”が力をつけるにしてもまだ先だ。
それまでに色々手を打たないとな。
ヴァイアブール国王を潰す為の、な。
感想くれる方々本当に有難うございます!
返せなくてすいません。
成るべく返信出来るようにします。