六十九話 既に色々動き出している
「へぇ……流石お城、天井が高いな」
「そうね。なんかすごい緊張しちゃう」
「この壁に掛かっている絵画とかも高いのかしら?」
「……先輩、変に触らんでくださいよ?」
和気藹々とした会話が聞こえてくる。
いやー仲良いねぇ。
……え? 俺が今何処にいるかって?
分かるだろ? ヴァイアブール国王の城の中だ。
おそらく高校生位だろうか、四人の男女が談笑しながら、兵士の一人に案内されているのを追っ掛けているのだ。
今まで起きていた事のほぼ全てがヴァイアブールの援助があったらしい事を受け、俺はべリオス、ヴァイスの依頼のもと、元凶であるというヴァイアブールへと潜入していた。
国境? 警備? 衛兵?
何それ? 知らん。
俺がそう簡単に捕まる訳が無い。
【透明】とか発動してるし。
さて、それはそうと先ずは国の話をしよう。
ヴァイアブールはマグニフィカ、インクセリアよりは小さいが、それでも大陸の中ではそれに次ぐ国土と伝統を持つ国だ。
確かに他国に援助できる程の資産を持っているが、余り悪い噂は聞かない国だったし、少しばかり立ち位置が特殊なのだ。
それは『異世界より勇者を召喚できる国』と言う事。
代々、この国の王家は『異世界の勇者』を召喚できる秘術を秘匿し、伝えて来た。
昔、魔物達が蔓延っていた時代や、戦乱の時代に勇者を召喚し、それを治めたという実績があるのだ。
だからこそ、変に信頼を寄せられているっていうのはある。
ま、その『変な信頼』が盲点だったと言えるんだけど。
今代の王であるタックス・ヴァイアブールは、表向きは賢王である。
ま、裏で何やってるかは知らないが。
それは調べて聞けばわかる事だ。
「……【マーキング】」
遠くから魔術を掛ける。
【マーキング】は遠くにいても居場所がわかるという低位の魔術だ。
それに加えて【隠匿】のスキルを使用する。
これで普通の魔術師にはわからないだろう。
才能があるであろう彼等が少しでも鍛錬を始めてしまえば、魔術の素養が高ければバレてしまうだろうが、それで良い。
それまでは監視出来るし、部下達に張り込ませるし。
さて、べリオス達に報告しないとな。
「……成功したか」
マグニフィカ王国首都、シュトルテンにある『互助会』本部。
べリオス、ヴァイス、暁、フランチェスカ、ハルキ、ゼイ、ヴァネッサ、コウリンという何時ものメンバーに加えて、更に多くの人間が集まっていた。
べリオスは先程夜が使役するカラスが持ってきた夜からの手紙を読み、そう呟いた。
「『勇者召喚の儀』の事か?」
椅子にだらりと腰掛けながらのコウリンの問いにべリオスは頷く。
「あぁ。男女四人、どうやら全員同い年みたいだな。なになに……『女二人は一人の男にベタ惚れ』。……何を調べてんだアイツ」
「おーおー、羨ましいねぇ。ハーレムかよ。……なぁハルキ、女二人だとハーレムって言えるのか?」
「いや、どうだろうね? 言えるんじゃない、かな?」
羨ましいと言いながらも棒読みのコウリンに苦笑いのハルキ。
「で、それ以外に書かれているのは?」
「ん、と……『未だタックスの尻尾掴めず、引き続き調査する』だとさ。ま、まだ数日だしな」
そう言ってべリオスは手紙を机の上に置く。
「だがマズイ事になったぞ。……マグニフィカもインクセリアも最近大きく動きすぎた。安寧を乱していると言われてしまえばその通りだ」
暁の言葉にフランチェスカも頷く。
「確かにそうね。インクセリアとかアドランドとかは私達が動かなければ、言ってしまえば『国の内乱』な訳だし」
「向こうから仕掛けてくる可能性は十分あるわ。『マグニフィカの次期王は裏で”悪事”を働いている』みたいに勇者達に虚偽の情報を与えたりしてね」
フランチェスカに続くように発言したヴァネッサの言葉にヴァイスが冗談じゃない、と立ち上がる。
「俺達は何も悪いことはしていないじゃないか!」
「落ち着きなさいヴァイス。良い? ”勇者様”達はこの世界の情報を何も知らないし、情報を得るツテも無い。その状態で、例えば情報提供者が嘘を吐いたら彼等にその真偽がわかると思う?」
「……いや、そう……だな」
何時も通り冷ややかなフランチェスカの正論に勢いを削がれて、ヴァイスは椅子に座りなおした。
「流石にアドランドやロド派にしたことをヴァイアブールには出来ない。表向きには何も悪評がないのだからな。……これから必要なのは数多の情報を集め、精査する事と、勇者達にどう対処していくかだ」
暁の言葉に、『互助会』メンバーは一斉に頷いた。
”勇者”召喚を悪事に使う王にロクな最期を迎えた奴なんていない(真言)。
と言う事で二千字に達していませんがキリが良いので投稿致します。