六話 転生者歓談
なんとか1話ストックしてあったので投稿します。
忙しいぞ。
無茶苦茶忙しい(笑)
区切りが悪かったので最後の文章を足しました。
俺としては、別に国がどうたらとか、世界の平和が……なんて言うつもりはない。
それは”勇者”と呼ばれる奴に任せれば良い。
あくまでも俺は暗殺者であり、依頼があれば人を殺す。
だが、それ以外の時は親しい人間に降りかかる火の粉を払うだけである。
そして仲間は大事にし、絶対に裏切らない。
それが俺に課したこの世界で生きると決めた時の、俺の誓いだ。
さて、今は各部署からの情報と、どちらかの国から来るであろう依頼を待つ時なので、俺は暇であった。
先にも言っただろうが、俺の普段の仕事は視察だ。
それさえなければ、基本的に前世と変わらない、自由な生活である。
太陽が真上に昇った俺は王都の大通りを目的地へと歩いていた。
とある人物達と会う為である。
勿論、念のための変装――俺が”魔女の夜”の長であるなど知られていない為、変装の意味があるかと言われれば微妙なところだが――をしてだ。
更には足音と気配を消し、街を行く雑踏に紛れ込む様に歩く。
歩を進ませた俺は大通りにある、とある一軒のレストランの前で足を止める。
お洒落な雰囲気漂う、オープンテラスのあるレストランだ。
看板には『黄金の林檎亭』と書かれている。
それなりに繁盛しているのか、客は多い。
俺はそのまま店の中に入った。
「いらっしゃい夜。待ってたよ!」
可愛い――ゲフン。
俺を満面の笑みで出迎えたのは、可愛らしい人物だ。
女性にしては低い声も、仕草も、肩までの茶髪に小柄な体躯も、正しく『美少女』と言えるだろう。
俺と同じく、緑と白を基調とした上着に同色の七分丈のスカート――店の制服である――に黒のレギンスと、まぁ男でも女でも着れるだろう服装だ。
しかし、言っておこう。
彼は男だ。
もう一度言う。男だ。
彼の名前はハルキと言う。
俺と同じ転生者の一人だ。
俺も分かり辛いだろうが、笑みを浮かべる。
「……うん。こんにちは、ハルキ」
彼と俺は似た境遇の為、特に仲良くさせてもらっている。
似た境遇とは即ち、そう言うことである。
彼の場合は俺と逆、元女である。
彼――いや彼女……まぁ今は男だから彼でいいか。
俺と同じように、自分の性別とは異なる性別で『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』を遊んでいたのだ。
どうやら、このゲームを遊んだことのある人間や、この世界で生きていけるだろうと自称神が確信した人間がここへ送られるようである。
因みに、ハルキは俺が”魔女の夜”を設立する直前にこの世界へと来た。
……まぁそれは良い。
「……いつもの」
ここに来た時に、俺は決まって頼むモノがある。
「うん! 来るって言ってたから用意してあるよ。待っててね!」
カウンターに戻ったハルキが嬉しそうに料理を持ってくる。
嬉しそうに料理を持ってくるその姿は本当に女性の様だ。
ハルキが持ってきたのは蜂蜜の付いたパンケーキに紫の飲み物だ。
飲み物はシュワシュワと炭酸が音を立てている。
先ずは一口飲み物を口に含む。
葡萄の味の濃い炭酸と同時に、一瞬だけ喉に感じる熱――そう。酒である。
まぁ、簡単に言えば葡萄のジュースを、スパークリングワインで割ったモノだ。
元々は無かったメニューで、俺が特別に作って貰ったモノだ。
そこまでしてくれるのは、この店に”魔女の夜”が経営する商会から食材を卸しているからである。
更には資金提供や護衛の派遣もしていたりする。
オーナーに休憩の許可を取って、俺の前にハルキが座る。
看板娘……違う、男だから看板男? なのにいいのだろうか。
ハルキが飲むのは普通のオレンジサイダーだ。
俺の前世は二十五歳であるが、ハルキは今も前世も未成年である。
……この世界の成人年齢を当てはめるなら、ハルキも立派な成人なのだが、まぁたかが一年ちょっとで自分の中の常識が変わるわけもない。
「昼間からお酒なんてよく飲めるね?」
ハルキが首をコクリと傾げながら聞いてくる。
可愛いな、おい。襲いそうになっちゃうぞ。
「……スキルのお陰」
そう。
スキルとして【状態異常スキル】を最大まで上げている俺は【状態異常無効化】のスキルを所持している。
その状態異常に、『酔い』も入っているらしく、酒を飲んでも酔う事がない。
「……最近、どう?」
「最近? うーん……。売り上げは好調だし、護衛を出してくれてるんでしょ? すごい助かっているし……」
俺はハルキの後ろの席でこちらを窺っている男に対して視線を送る。
その男は座ったままで周囲に気付かれない程度に此方に姿勢を正して礼をしてくる。
それに対して、俺は頷いた。
この男、俺……と言うか”魔女の夜”の俺直属の部隊である”鴉”から派遣した一人である。
「あ、そうだ。暁ちゃんが会いたがってたよ?」
……なんですと?
あの全身筋肉が?
何のつもりだあの”破壊神”は……。
別に会いたくない訳ではない――むしろ仲が良い――けど、俺以上のトラブルメーカーなんだよなぁ。
「……ふぅん」
「あ、でも今日ここに来ること暁ちゃんに言ったからもしかしたら来るか――」
ガチャン!
「――おぉ、いるな!」
扉を開ける音と、声が聞こえたかと思った次の瞬間、
ザッ!
ガシッ!
ボヨン!
何の音かって?
目の前に瞬時に現れて、抱きしめられて胸が当たる音だ。
うん、男としては胸が当たるのは非常に嬉しいのだが、如何せん苦しい。
想像してみてくれ。子供に力一杯抱き着かれたテディベアの気分を。
そんな感じだ。
苦しいどころか痛い。
女の割に図体がでかい――わりに出るところが出ている所謂グラマラスボディと言う奴だ――ので、身長は平均的だが細身な俺からしてみれば万力の如き力でギリギリとやられたのだ。
「……暁、やめて」
俺の言葉に、素直に「おっと、済まないな」と離してくれた。
少し赤紫にも近い色の茶色の髪をポニーテールにし、筋肉質な長身の鎧を着た女性。
俺と同じ転生者で、先程ハルキの言っていた人物、暁である。
その背には大剣にしては細身な剣が背負われていた。
俺やハルキとは違い、元の性別と今の性別が一致している人物だ。
女性ながら、ゲーム内でもトップクラスの前衛プレイヤーである。
「……久しぶり、暁」
「あぁ、一ヵ月ぶりだな夜」
そう言って俺の酒を一気に飲み干した。
……あぁ、俺の酒。
「……で?」
俺は憮然とした表情で怒りを表現する。
頼んだ酒を飲まれたのだ。
おこもおこ、激おこである。
「……おぉ、そうだった。いや、情報が欲しいんだ」
暁は、俺の酒を飲んだことを全く悪びれもせずに、そう言った。
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