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六十七話 ”切り裂きジェーン”

次で最終章。

物語の一区切りとなります。

勿論このようなタイプの作品ですので続きはいくらでも書けると思いますが、まぁ良いじゃないですか。

あと多分十数話位だと思います。

「テメェ……殺したはずじゃ!」


 そう言って自分が掴む夜を改めて見るが、しかしそれは徐々に輪郭を失うと、霧の様に消え去ってしまった。

 しかし、現に彼女の服には右肩から左脇腹に掛けては切り裂かれた跡が若干ながら残っていた。

 だが、切り裂かれた服の隙間から覗くその肌には切り裂かれた痕は見当たらない。


「……うん。危なかった」


 アレンは確かに夜を斬った。

 無事なのは夜の持つスキルのお陰だ。

 夜の持つスキルの一つ、【死の医者の心得(ドクトル・キラー)】。

 切り裂きジャックではないかと呼ばれた容疑者達の内の一人に医者がいた事が由来のスキルで、即死以外の傷ならば即時に回復出来る、と言う効果を持つスキルだ。

 それで回復した後、アレンが空に向かって叫んでいるのを見計らってダミーと入れ替わったのだ。

 だがそれをアレンに説明する義理など夜には無い。


「なんで、なんで!?」


 なんで、どうして、と呆然と繰り返すアレンを、夜は感情の無い眼で見る。


「――っ!?」


 アレンはその眼に、畏れの感情を抱いた。

 ――抱いて、しまった。






 そんなアレンを見てどう思っているのか、夜は口を開く。


「……別にどこでどうしようと貴方の勝手。……でも」


 仲間に手を上げた。

 そして自分に挑んできた。

 刃を向けて来た。

 ――なら、


「……殺すなら、殺される覚悟、あるでしょ?」


 そう静かに、口にする。


「ぁ、ぁああ、ぁあああ」


 最早恐怖に呑まれてしまったアレンは尻もちをつき後退る事しかできない。


「……無様、無様。……”レイヴンホーク”を名乗る資格は、貴方には……無い」


 夜が指をパチン、と鳴らす。

 すると、その場に落ちていたり、死体に突き刺さったナイフが宙に浮き始める。

 その数は数にしてしまえば五十はいくだろう。


「……【千のナイフ(サウザンドナイフ)】」


 更に夜はスキルを使い、ナイフを千本増やす。


「お、お前ッ! なんで、こんな……こんっ、こんなの――聞いてない! こんなの使えるなんて聞いてねぇぞ!?」


 思わず唾を飛ばして喚き散らすアレンに、夜は首を傾げ、一言。


「……使うまでも無い、から」


「ふ、ふざけるなっ! お、俺は――」


 よろよろと立ち上がったアレンだが、目の前に整然と宙に並ぶナイフに、立ち尽くすしかなかった。

 そしてアレンが見たのは煌々と眼を紅く光らせた夜だった。

 月夜に照らされ、周囲が薄暗く光る中、紅い眼と銀髪がまるで自ら発光しているかの如く輝いている。


「……『私は”切り裂き(ジェーン・ザ)ジェーン(・リッパー)”』」


 夜の声に呼応するように、宙に浮かぶナイフ全てがその場で回転し始める。

 その異様な光景に、更にアレンの恐怖心が増す。


「……『さぁ、惨劇を始めよう。霧深きロンドンの夜に、彷徨い込んだ哀れな子羊の、腹を裂き、四肢を削ぎ、喉に刃を突き立てて。我は”切り裂き魔(リッパー)”。正体不明の”化物(サツジンキ)”』」


「あ、あぁ……あああああああああああああ!」


「……無慈悲な最期を、貴方に。……"さよなら(See ya)"」


 夜はアレンに向けて手を振る。


「クソがああああああああああああああああ――」


「――【切裂化生(サッカー・リッパー)】」


 アレンの絶叫を遮り、静かな夜の声が響く。

 アレン目掛けて全てのナイフが飛んでいき、全身を切り裂き、或いは突き刺した。

 そしてそこでアレンの意識は途絶えた。






「……ふぅ」


 俺はナイフが刺さり過ぎて肉体が見えないアレンの死体を一瞥し、溜息を吐く。

 久しぶりに使った二つのスキルだが、魔力の消費が激しいのだ。

 だが、”黒死蝶”は壊滅し、”ナハト・レイヴンホーク”は死んだ。

 暁達もどうやら勝ったようだし、取り敢えずは一件落着だろう。

 その場にアレンを筆頭に”黒死蝶”達の死体を残し、俺はその場を立ち去った。






「アドランドへはマグニフィカ、インクセリア、ヴァーガニアの三国で援助をすることにしたよ。……流石にあそこまで王都がボロボロじゃ、立て直すのにも時間がかかるしな」


「それまでは保護している国が責任を持ってアドランド国民の生活支援をするよ」


『互助会』の本部で、集まったメンバー達にべリオスとヴァイスがそう報告した。


「で? 王弟の様子は?」


 暁がべリオスに聞くが、べリオスは困惑の表情を浮かべた。


「……何があった?」


「あー、いや、何なんだろうな。……元の性格からして横暴で我儘ってのは聞いてたんだが……少しばかり魔術反応が見つかった」


 べリオスの報告に、全員が驚きの表情を浮かべる。

 魔術反応と言う事は、今回の件同様、誰かに操られていたと言う事だ。


「それはアレン……ナハト・レイヴンホークが行ったモノではないのか?」


「いや……違うと思う。ホランド卿に掛けられていた魔術とは一致しなかった。多分”黒死蝶”と接触する前だろう」


「……でも仮にも王族であるアドノアに接触できるのは貴族か、別の国の王族位」


「そうだ。……で、アドノア王に訊いてみた。そしたらよ。見つかったぜ、犯人が」


 べリオスの言葉に全員がべリオスの顔を見る。


「……お前等ヴァイアブール王国って知ってるか?」






 豪奢な宮殿の王座で、王冠を載せた男と貴族の格好をした男が二人で会話していた。


「陛下。如何なさいますか?」


「うむ。時は来た。……始めるとしよう」


 王冠を載せた男はニヤリと笑い、


「――『勇者召喚の儀』を」



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