六十六話 ”夜”対”夜”
「夜……俺ぁテメェが嫌いだよ。わかんだろ? そんな力持って……ガキのくせによぉ」
アレンがそうペラペラペラペラ囀るのを、俺は話半分に聞いていた。
ガキのくせ、ねぇ……。
てめぇまだ二十前半位だろうが、俺は前世も含めりゃ二十代後半だっての。
どっちがガキだどっちが。
「……なんで私の名前、使ってるの?」
俺は気になっていることを聞いた。
俺が嫌いなら、俺の名前なんて使うはずも無い。
「あぁん? 何故ってそりゃあ……”ナハト・レイヴンホーク”、少なくとも”レイヴンホーク”ってのは知られた名前だったからな。その後継者の名前を後継者である俺が使って何が悪い――っての!!」
喋っていたかと思えば、突然大振りのナイフ片手に突っ込んでくるアレン。
だが、アレンも本気で襲い掛かってきていない。
小手調べの攻撃が俺に当たる訳が無い。
「……俺は”ナハト・レイヴンホーク”になって変わった! 逆らった奴は殺し、気に入らねぇ連中も殺した! あの時の俺はもういねぇ! ……テメェを殺して、俺が正真正銘”最強の殺し屋”って事を証明してやる! ――やれ!」
部下達に命じるアレン。
部下達は瞬時に散らばり、襲い掛かって来る。
流石と言うべきか、それなりの腕を持っているようで、意外と面倒臭い。
「ほらどうした!」
「逃げてるだけかぁ?」
「そら、今度はこっちからだ!」
「ほらお嬢ちゃん。避けてごらん。ぎゃははははは!」
避けきれなかった攻撃が肌を薄く切り裂く。
それが尚更こいつ等を興奮させるらしく、下品に笑っている。
「――っ!」
流石にキレて、さっき俺を「お嬢ちゃん」呼びした奴を絞め殺す。
そしてそいつを別の奴の方に放り投げ、態勢を崩したそいつに接近して心臓を貫いた。
「一人で掛かるんじゃねぇ! 一斉に襲え!」
アレンの言葉に従って、殺し屋が一斉に襲い掛かって来る。
俺は前方から襲い掛かってくる奴に向けて駆け、殺し屋の心臓を切り裂く、そしてその身体を蹴って上へと跳躍した。
だが、そう簡単には逃がしてくれないらしく、俺の背後にいた殺し屋が俺を捕まえる。
「逃さんぞ! 道連れにしてくれる!」
「――っ! 【ランベイズの毒殺魔】」
咄嗟に身体の表面を毒へと変化させる。
触れた時点で即死の強力な毒だ。
死んだ相手の腕から脱出するが、別の奴が既に目の前にいた。
「死ね!」
背後の死んだ味方の死体ごと突き刺そうとしてくるが、相手の懐に入って顎の下からナイフを刺し込む。
「――ガッ!?」
更に俺はそいつを盾に攻撃を防ぎながら左右にいた二人にそれぞれナイフを投擲する。
吸い込まれるようにして相手の命を刈り取ったが、流石に投擲用のナイフを使い切ってしまった。
身軽になったが、武器が手に持つナイフ一つだけになってしまった。
そんな事を考えてしまった為、一瞬意識が逸れてしまい、別の三人の接近に気付くのに一瞬遅れてしまった。
「死ね!」
「くたばれ!」
「――はぁっ!」
突き出された武器を紙一重で躱し、舞うようにして三人の喉を掻き斬った。
だが、それで余裕を無くした故に気付かなかった。
アレンがその内の一人のすぐ後ろにいたことを。
ニヤリと嗤ったアレンが、先程とは違う大剣とも呼べるそれを振り下ろしていた事を。
「――っ!!」
振り下ろされたアレンの刃は俺の右肩から肉を切断しながら左脇腹へと切り裂いた。
そこで俺は意識を失った。
「へ、へへへへへ! あの感触、間違いねぇ! 斬った! 斬った斬った斬った! 殺したぞ!」
空を仰ぎ叫んだアレンは、目の前で倒れ伏している夜に近寄り、何度も何度も蹴りつける。
今までの彼の夜への憎しみを、嫉妬を吐き出すように。
「ざまあねぇなクソアマ!」
そしてアレンは夜の頭を掴み、持ち上げ――
「なんで……」
少し離れたところに、殺したはずの夜が立っているのに気付いた。
投降投稿。
出来る限り頑張っていきますよー!
まぁ次の章でこの作品は取り敢えず一区切りのつもりなのでそこまでがんばりたいですね。
次の作品も三作品考えてあるので、これから追々書いていきます。