六十四話 ”神殺し”の全力 2
出来る限りは連続投稿します。
誤字脱字等ありましたら感想で教えてください。
今回は急ピッチで書いたので自信がないので(汗)
「なんだ、あれは!」
エドノアは立場も忘れ、身を乗り出す程に驚いていた。
それをべリオスが冷静な面持ちで落ち着かせる。
「落ち着けよエドノア王。……あれがアイツを呼んだ理由だ。圧倒的、だろ?」
「う、うむ」
べリオスは椅子に座り、遠くに見える巨体を改めて見る。
「……それに、まだこれからだしな」
そうポツリと呟いた言葉は、その場にいた誰にも聞こえなかった。
「さて、敵も多いしな。この程度では足りんだろう」
暁は戦闘を降三世に任せ、魔力回復のポーションを飲み、再び魔力を練り上げる。
その間にも巨大な神の振り回した武器により、死者が増えていく。
そして魔力を練り終えた暁が大剣を地に突き刺す。
「【神軍招来】!」
降三世の後ろに、光り輝く方陣が現れる。
そこから現れるのは暁が『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』で斃した神々や竜、魔物達だ。
魔力を全部消費する代わりに、暁が今まで倒した者を召喚する、というスキルである。
「――征くぞ! 先鋒を駆けろ”八部衆”!」
暁の声に呼応するかのように、先頭にいた八体の鎧を纏った武人が其々武器を構え、駆け出した。
目に見えない速度で駆けた武人達が身近にいた敵兵士を瞬殺する。
武人達はそれぞれ密教の神、八部衆をモデルとした容姿を持つ武神である。
武人達は人の二倍程の身長で、他の召喚された者達より小さいが、圧倒的な蹂躙を始めた。
戦場のあちらこちらで悲鳴が上がる。
それに続くように、神や龍、鬼、鳥等の数多の魔物達が兵士達を襲う。
龍が噛み殺し、悪鬼・羅刹が手に持つ武器で襲い掛かり、炎を纏う鳥が火を吐き焼き殺す。
先に召喚された降三世も、八つの腕に其々持つ武器を振り回す。
暁も軍勢の先頭に立ち、兵に駆け寄って数人纏めて斬り伏せた。
最早彼女の後ろに控えているマグニフィカの魔術師団はべリオスの命令によって攻撃を止めていた。
かえって彼女の邪魔になるとべリオスは判断したのだ。
そして両翼で戦っていたエドノア軍も攻撃を止め、中央に現れ、暴れ回っている異形の軍勢に思わず魅入っていた。
暁率いる軍勢はまるで一つの弾丸の様に敵を蹴散らしながら真っ直ぐアドノアに向かって行った。
「全員、引け! アドノア様を守るのだ!」
右翼、小高い丘で戦闘していた現アドランド軍は、慌てて背を向けて本陣に引き返していった。
中央で行われている殺戮劇が自分達の主に迫っている事を瞬時に理解して、追撃されること等微塵も考えていない様な無防備な状態での撤退であった。
右翼を率いていたアズランは右手を上げて攻撃を制止する。
「全軍戦闘中止! 攻撃止め!」
逃げて行くアドノア軍をエドノア軍は追いかける事はしなかった。
そして中央の、まるで波が裂けていくかの如く見える戦場を見下ろす。
「……彼女が味方で良かった。……敵であれば我々は全滅していただろうな」
そう安堵の溜息を吐いた。
「陛下! 陛下!」
アドノア軍本陣は、まだ最前線の情報が届いていなかったのか、余裕のある雰囲気だったが、そこに前線にいた指揮官の一人が慌てた様子で駆け込んできた。
その姿は砂埃で汚れ、顔は恐怖で引き攣っていた。
「どうしたのだ? 先程から地揺れの様な音が幾度となくしているが、此方が優勢であろう?」
アドノアは億劫そうに答え、臣下達もそれに追従するが、指揮官はそれを否定する。
「お逃げ下さい陛下! 敵が……すぐに此処に到達します!」
「な、何だと!?」
それにアドノアと臣下達が慌てて立ち上がる。
だが、指揮官の言葉を裏付けるかの様に、徐々にその音は近づいてきていた。
「直ぐに来る? 馬鹿な! どれ程の兵がいると思っておるのだ!?」
「敵は何人だ!?」
「ひ……一人です!」
「馬鹿なッ!?」
アドノア達の顔が驚愕に歪む。
一人、たった一人で敵陣に突撃し、しかも本陣までやってくる者など化物に等しいと言う事は、彼等でも理解出来た。
「――す、直に撤退だ! 陛下をお連れするぞ!」
「兵士達に死守しろと命じろ!」
「我等が逃げる時間を稼ぐのだ!」
臣下達が騒ぎ出し、アドノアを馬車に乗せて逃そうとして――
ドオオオオオォォォォォォンッ!!
「「「ぎゃああああああああああああああああっ!!」」」
鼓膜が破れるかと言う程の轟音、兵士達の悲鳴、そして吹き飛ばされそうな風圧がアドノア達を襲い、思わず地面に伏せる。
そして彼等が眼を開け、立ち上がろうとするとそこには、
「……兵を盾に逃げる、か。随分脆弱な人間だなアドノア王」
頭部以外を鎧に包んだ女騎士――暁が異形の者を従え、剣を彼等に突きつけて立っていた。