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六十一話 籠絡

久しぶりに登場&活躍。


「……で? 私の処に来るなんてどんな要件?」


 俺の目の前で妖艶と形容できる容姿の美女が足を組む。


「……頼みがある。ヴァネッサ」


 俺が来ていたのはマグニフィカの王都シュトルテンにある娼館の中でも特に有名な娼館『蜂蜜の夢』の主であり、『互助会』の創設メンバーの一人、ヴァネッサ・クラリッサの処である。


「……今回は戦争事でしょう? 私が介入する事なんてないと思うのだけれど?」


 ヴァネッサはソファに寝そべり、妖艶な仕草で煙管を吹かす。


「……その前に趨勢を決めたい」


 俺のその言葉で、自分が何をすれば良いのか大凡理解出来たらしく、ヴァネッサは俺の方をチラリと見る。


「つまりは――」


「……王弟側の貴族の篭絡。それが出来ないなら情報収集をして欲しい」


 ヴァネッサは煙管でカツン、と机を叩いた。


「アドランドは今娼婦すら逃げ出す状況。それを活用するのね?」


 俺は頷く。


「……移動手段は出すし、その費用も用意する。貴族との接触も此方でやる。……出来る?」


 俺の質問にヴァネッサはもう一度煙管を口に咥える。


「相手が男なら……いえ、例え女でも、人間ならば私に堕ちない者はいないわ。貴族だろうが王族だろうが神だろうが、誰だろうと篭絡してみせるわ。……貴女や暁、フランチェスカ以外はね」


 何の気なしに言っているが、その声と眼からは圧倒的な自信が滲み出ている。

 まぁ俺は……と言うかこの身体は『欲』に対して余り興味がないらしいので仕方が無い。

 それに暁とかフランチェスカは……確かに篭絡出来るイメージがねぇしな。

 アイツ等そう言う次元の人間じゃねぇと思うんだよなぁ……。


「ま、貴女からの頼みだし、受けてあげるわ」


「……ありがと」


 さて、これで第二の手も整ったな。

 王弟はどうでるのかね。






 数日後、王弟派貴族ウェーンデン伯爵邸。


「ウェーンデン様、此度は我が商会をご利用頂き誠に有難うございます」


 成人男性――転生前の姿だ――に変装した俺は伯爵を前にしていた。

 アサシンの持つスキルには変装スキルがあるので、意外と簡単に容姿を変えられる。

 伯爵は鷹揚に頷きながらも、何処か落ち着きなくそわそわしていた。


「それで……ごほんっ! 頼んだモノは?」


「はい。ご用意出来ております」


 ウェーンデン伯爵は三十代前半でありながら、独身という身の上で、女好きとして知られている。

 頼んだモノってのはつまり『女』である。


「では……入ってきてくれ」


 俺の言葉で部屋に入って来たのは合計五人の女性であった。

 艶めかしい身体を最低限だけ隠すような薄絹で着飾った娼館『蜂蜜の夢』の娼婦達である。

 その先頭に立つのは経営者であり、『蜂蜜の夢』の中でも最高位の娼婦であるヴァネッサだ。

 因みにビッチだの痴女だのと言いたいだろうが、ヴァネッサにとっちゃ仕事だし、誉め言葉なので意味が無い。

 ヴァネッサが一歩前に立ち、優雅に、かつ妖艶な仕草で頭を下げる。

 ヴァネッサの美しい髪が頭を下げた為にハラリと首から落ちる。

 それを見て、ウェーンデン伯爵はゴクリ、と喉を鳴らす。


「我等をお買い頂き有難う御座います。此処に居ますは我が娼館において選りすぐりの者達。今宵は夢、幻。どうぞ我等にその身を委ねて下さいませ」


 その言葉に反応する様に、後ろの娼婦達も頭を下げる。


「う、む。……金は後程払おう。さぁ、出て行け」


 ウェーンデン伯爵はヴェネッサ達の色香に当てられ最早興奮を抑えられないのか、鼻息荒く俺にそう言った。

 俺は会釈をし、部屋を出る。

 ヴァネッサの横を通り過ぎる一瞬で、ヴァネッサに目配せをする。

 ヴァネッサも頷き返してくれたので、俺はとっとと部屋の外へと退散した。

 中からは娼婦達の黄色い声が聞こえてくる。


 くわばらくわばら。

 ()()()()のはお前だよ伯爵。

 骨の髄までしゃぶりつくして貰え。






 数時間後、そろそろ終わっただろうと俺が部屋の扉を開ける。


「……ん」


 すると扉の隙間から濃密で強烈な香が香って来て、思わず眉を顰めた。

 何と言うか腹にズン、と来る様で、同時に思考がぼやける様な感じだ。

【状態異常無効】を持ってるから一瞬で済んでいるが、普通の人間ならば多分一瞬でやられるだろう。


「……あぁ夜。お疲れ様」


「……ん。お疲れ様ヴァネッサ」


 部屋の中では娼婦達が寄り添い合っており、その奥ではヴァーンデン伯爵がげっそりと枯れていた。

 ……うわ、マジで人間でああなるんだ。

 ヴァネッサ達(こいつ等)サキュバスかなんかか。

 完全に生命力吸ってんだろ。


「……どうだった?」


「完璧よ。……エドノア王の方に味方する様に誘導したわ」


「……ちゃんと裏切る?」


「さぁ? そこら辺は伯爵次第よね。……私達がしたのは『エドノア王への帰順への誘導』と『暁の恐ろしさ』を刷り込んだだけだもの」


 刷り込むってなんだ。

 なんだか怖いわ。


「……死んでないよね?」


「大丈夫よ。後で魔術を掛けておくわ」


 なら安心だ。


「で? 彼一人って訳では無いのでしょう?」


「……うん。後寝返りそうなのが数人いるから、よろしく」


 さて、このサキュバス共を次の犠牲者の処へ運ぶかね。

 向こうが洗脳なんて下種なことをしてくるんなら、やり返さないとな。



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