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五十九話 動き出す二人の『夜』

 翌日昼前、俺はマグニフィカの王宮に来ていた。

 べリオスのいる王宮の離れにあるアドランド王達の元に行く為だ。


「……べリオス」


 その廊下を行く中、歩くべリオスを見つけて声を掛ける。


「――!? ……なんだ、夜か」


 急に声を掛けたからか一瞬驚いたべリオスは責める様に俺を睨む。

 悪かったよ。


「……アドランド王に会わせて」


「わかったよ。……こっちだ」


 案内されたのはべリオスの自室より少し遠い場所にあった。

 べリオスが扉をノックする。


「……アドランド王、今入って大丈夫か?」


「あぁ、少し待っててくれ」


 程なくして、扉が開き、アドランド王が姿を見せた。

 そして俺を見て、


「……”魔女の夜”の長ではないか。どうしたのだ?」


「……これからの行動を決めようと思って」


 部屋の前で会話し始めた俺達をべリオスが止める。


「部屋の中ですれば良いだろ? ほら、入った入った」


 べリオスに促され、俺はアドランド王が宿泊している部屋の中に入った。




「……で? これからの行動とはどういう事だ?」


「……アドランド王、親書を書いて欲しい」


 俺は端的にそう言った。

 べリオスが首を傾げる。


「親書? どうするつもりなんだ?」


「……相手を周囲から崩そうと、思う。……協力してくれそうな貴族の名前。それとその貴族への協力を要請する手紙を書いて欲しい」


「成程。……ならその親書に俺の印も押しておこう。より信憑性が増すはずだ」


「分かった。……そうだな。私の遠縁であるヴィッツモール公爵家、宰相補佐のアドノワール伯爵家、アドランド国で最強の軍と名高く、影響の大きい辺境伯のアズラン家、軍元帥のザッツリュー侯爵家、平民に人気のある騎士が当主のヒューズ家位で良いだろう」


 そう言うと、べリオスから紙とペンを貰ったアドランド王はすぐさま親書を書き始めた。

 アドランド王が名前を出した貴族達は皆国に忠誠を誓っている貴族達だ。

 俺が知っているだけで、彼等はアドランド現国王である王弟に対して、反抗または静観している状態だ。

 ヴィッツモール家やアドノワール家、ヒューズ家は静観している状況だが、一方でアズラン家やザッツリュー家は王弟のクーデターによる王位簒奪を認めず、小競り合いをしている状況であった。

 国と一介の貴族では兵力に差があると思うだろうが、アズラン家やザッツリュー家の軍事力は下手すれば王弟の持つ兵力と同等、二家を合わせれば圧倒的に優位である。

 まぁそれ程にアドランド国の王家の持つ軍が弱いって事ではあるのだが。


「……アドランド国の『今』を探ると同時に、貴族達との協力体制を作る」


「分かった。暫く待っていてくれ」


 アドランド王が作業に集中する様に、べリオスと共に部屋を出る。

 扉を閉めたところで、べリオスが小声で話しかけてきた。


「……貴族との協力、か。お前昨日言ってた通り戦争をする気だな? ……マグニフィカ(うち)と戦わせる気か?」


 やだなぁ。

 そんな怖い顔すんなって。


「……ある程度は」


「……………………はぁ」


 俺の言葉を聞いて暫くは俯き、思考していたべリオスは一度、大きく溜息を吐いた。


「暁と話してみよう。……そこら辺はこれから、だな」







 アドランド国、王座。

 そこではアドランド王の王弟――現アドランド国王が苛つきを隠すこともせず、怒鳴っていた。


「どういう事なのだ!? 王都に住まう民達が他国へと逃げ出していると言うではないか!」


「陛下、落ち着いて下さい。現在状況を把握、改善している最中ですので」


「今調べている限りの事を話してくれ」


 王弟を宥めていた男が、「はっ!」と頭を下げてから近くに置いておいた報告書を手に取り、それを読み始める。


「……王都の民が逃げ出し、商人も逃げ出しておりまして、現状地方からの食材等の流通は滞っております。……他国との貿易に切り替えようとしましたが、今まで契約をして来た商人が一方的に契約の破棄を申し出まして、それ以降新しく契約できたのは一つの商会のみでした。それで得た食材や資源も王宮で使うのみで、もはや資材は不足。兵士達にも完全に行き渡っているとは言い難い状況で、栄養失調で倒れる者も出始めました。その商会からは武器や鎧も得る事が出来ましたが、限界もありまして――」


「――もう良い!!」


 男の報告を遮り、王弟が怒鳴った。

 だが、男はこれが役目だと言う様に話すことを止めない。


「陛下、国民や兵士達からの不満も上がってきております。これ以上現在の状況が続けば国の崩壊は免れないかと」


「何言ってんだ旦那。そういう時は奪うしかねぇだろ」


 そこに、王弟でも男のモノでもない、乱暴な第三者の声が入る。

 王弟は声の主の方をチラリと見て、


「……ナハトか」


 何の感情も無く、そう答えた。


「して、奪うとは?」


「簡単な話さ。……無ぇなら奪う。奪い尽くす。男は殺し、女は犯し、住居は燃やし、食い物やら武器やらは奪う。自分の国に無ぇなら他国のモノを奪うしかねぇよなぁ?」


 愉しそうに嗤うナハトの言葉に、


「それは戦争をすると言う事か?」


 王弟もニヤリと嗤って言う。


「あぁ。そうだぜ旦那。丁度良いじゃねぇの。隣接してるマグニフィカは大陸随一の国だ。

 いっその事、国そのものを奪っちまえば一気に大陸の覇者だぜ?」


「そうか。……そう、だな」


 挑発するようなナハトの言葉に、王弟も頷く。

 それより少し離れた場所でそれを見ていた男は破滅へと進む気かと正気を疑ったが、言葉や態度には出さない。


 二人の性質は似ていた。

 それは『異常なまでの過剰な自信』と『果てしない野心』、そして『身近な者が優秀であったが故の嫉妬心』だ。

 それが彼等の原動力であった。


「なら、始めるとしようか。……戦争を」


 ――ケケケ、ケケケケケ!

 ――クク、ククククククッ!

 ナハトと王弟の醜悪な笑い声が、夜空に吸い込まれていった。



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