五十六話 別離と邂逅 3
……おかしい。
過去回想がおわらないッ!
それぞれに守るべき人間の前に立ち、向かい合う夜と暁。
「……」
「――っ!!」
先に動いたのは暁であった。
武器には見合わぬ速度で肉薄した暁が夜に剣を振り下ろす。
それを右足を後ろに引くだけで避けた夜は何時の間にか左手に握られていたナイフで暁の頭部を突き刺そうとする。
暁は無理矢理身体を捻りナイフを避けると、その動きを利用して剣を斬りあげた。
だが、その時には夜の姿は暁の視界から消えていた。
「む……素早い!」
暁は勘に頼り、身体を地面に伏せた。
その上を、もの凄い速度で夜が通り過ぎて行った。
「――【炎獄】!」
煩わしくなった暁は剣を大きく振りかぶってから地面に叩きつけた。
そしてそれを中心に円状にして炎が立ち上がる。
それは夜のいた場所もろとも、焼き尽くした。
パワーと体格を生かした強力な範囲攻撃こそ、暁の得意とする戦い方である。
「……っ!」
夜は紙一重で範囲から抜け出していた。
そして手に幾つものナイフを取り出し、無造作に投げる。
だが、それは暁の剣の放った風圧により全て弾き飛ばされた。
しかし、弾き飛ばされたはずのナイフは地面に転がることなく、空中に制止した儘だ。
更にはフルヴァルトが殺したアレンの部下達の武器も同時に空中に浮かぶ。
「……【傀儡操る糸】」
【傀儡操る糸】はアサシンの持つ中でも特殊なタイプのスキルだ。
効果は『ある一定の範囲にある任意のモノを操る』事だ。
「……射出」
それを暁に向けて弾丸のように打ち出す。
「――っ!? 某英雄王の様な真似をするっ!」
暁は人並み外れた身体能力で次々と武器を避けていくが、暁が武器に気を取られている隙を突き――
「……【蜂は二度刺す】
毒を付与した高速の刺突を二度、繰り出すが、
「な――めるなぁ! 【修羅剣・羅睺】!」
「……っ!!」
一撃目はヒットしたが、二撃目の直前で暁がスキルを放った。
何十という斬撃が、夜に迫る。
近くにいた為、避けきれないと悟った夜は自分を霧化させた。
そして暁の手が届かない場所まで退避して姿を現す。
だが、その髪は先程までのロングではなく、無造作に切られたような肩までの長さになっていた。
そして服の後ろは薄く裂けていた。
一度仕切り直しとでも言うように、互いに息を吐いた。
「……何処かで見た剣技。……それと『暁』と言う名前。……『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』にいた”神殺し”?」
それに暁は心底驚いた様子で反応した。
「まさか、お前も転生者なのか?」
夜はそれに頷く。
互いに同じ境遇故か、先程までの剣呑な雰囲気が薄れる。
「まさか転生者がいたとは……」
「うん。……でも、今は敵」
夜はそう言ってアレンを操りザドキアを抱えさせて逃げさせる。
夜の言葉に、警戒心を解いていた暁は武器を構える。
だが、夜は武器を構えず、
「……でも、私がザドキアから命令されたのは『アレンを守る』事。……貴女と戦う事じゃ、ない」
「逃げるのか?」
「……(コクリ)」
そう言うが早いか、徐々に毒々しい紫色の瘴気が周囲を覆い始める。
そして幾つか、瘴気の濃い場所が生まれる。
そこから、蕾が出現した。
「――これは?」
「……咲け、咲け、毒の華。運命を断ち切る女神の名を冠する毒の華。数多の命よ。ヒラリと咲いて、ハラリと散れ――【狂い咲けルドビレよ】」
夜の詠唱に反応し、蕾の全てが同時に花開き、魔力で出来た毒花が周囲に強力な毒の魔力を撒き散らす。
そこは正に死の領域だ。
致死性の高い毒が、ありとあらゆる生物を死へと引き摺り込む。
人も、動物も、そして植物さえも。
そこで生きていられるのはスキル【状態異常無効】及び【ランペイズの毒殺魔】を持つ、全身を毒と化す事が出来る夜だけである。
その花から生み出された毒は呼吸によって入り込む微々たる量でも――
「――ゴフッ!?」
常人を遥かに超えた耐久性を持つ暁でさえ、血を伴う咳をする程だ。
「この瘴気、全てが毒か!?」
「……じゃあね」
夜はそう言って暁の前から悠然と姿を消していった。
去って行く夜を、暁はジッと見ていた。
ザドキアは、辛うじて生きていた。
『名も無き傭兵団』の本部にある医療室で治療を受けていたが、状況は芳しくなかった。
最早息も絶え絶えで、顔色も青白かった。
周囲では部下達がその様子を見ていた。
ザドキアはアレンを呼び寄せる。
アレンは嫌そうにしながらも、ザドキアに近寄った。
「……アレン。……後はテメェに任せる」
ザドキアの発言に、驚いたのは周囲の部下達であった。
ザドキアの言葉の意味を理解していたのだ。
「頭! 何でアレンなんだ!?」
「こいつのせいでアンタは!」
「夜に任せるんじゃねぇのかよ!?」
そんな声が聞こえてくるが、ザドキアは首を横に振った。
「……夜、済まねぇな」
俺は首を横に振った。
別に構わなかった。
ザドキアが何を考えているかなんてのは俺にはわからない。
部下にしてこの世界の常識や裏世界の生き方を教えてくれた恩がある。
ザドキアの願いは聞き入れたかった。
それに俺は別に後を継ぐなんて考えてなかった。
ただ生きられればそれで良かった。
「……構わない。ザドキアの思った様に、すれば良い」
「……悪い」
そう言ってザドキアはぜえぜえと息をする。
こんな状況で、後継者がどうだ等とは皆も言い辛いだろう。
そしてアレンに向けて、これが最後のアドバイスだ、と一言添えて、
「……人間覚悟を決めりゃあどうとでも出来る。……テメェの考える立派な頭ってのになってみせろや」
そう言い残して、ザドキア・レイブンホークは死んだ。
それと同時に、『名も無く傭兵団』の終わりが、訪れようとしていた。
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