五十四話 別離と邂逅 1
過去編二、三話で終わると思ったら終わらなかったでござる。
と言う訳で引き続き過去編。
あと数話で終わる予定。
※6/1から四日間、私事で投稿が出来ません。
申し訳ありませんがお待ちください。
「……第二十二代”剣聖”フルヴァルト・ルーフェン。 ――参る!!」
剣の頂点に立つ達人である”剣聖”は、先代を打ち負かした者がその名を継ぐ。
つまり、彼に挑んで勝てた者は誰一人としていない、と言う事だ。
「やれ! テメェ等!」
アレンも負けじと部下達に命じた。
だが、
「……遅いな」
声が聞こえたかと思えば、
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
部下の一人が腕を押さえ、蹲った。
手を持っていたはずの右腕は、肘から下が無くなっている。
そこからドボドボと血が流れ落ちる。
「……せめて一瞬で――死ぬが良い」
フルヴァルトの剣が閃き、蹲っていた男の喉を貫いた。
その速度を、アレン達は捉える事が出来なかった。
正しく音速の一撃である。
そして剣を払って血を落とす。
「次だ」
フルヴァルトは一番近くにいた男に肉薄する。
近付いてくるフルヴァルトに、思わず悲鳴を上げた男を
「―—ヒィッ!!」
「人を殺そうとするならば、殺される覚悟もあるのだろう?」
ヒュン、と音が鳴り、
「――え?」
逃げ出そうとしていた男は、急に倒れた。
訳が分からず、足を見るが、そこにあるべき足が無かった。
そしてザッという音の方向に眼を向けると、既にフルヴァルトが見下ろしていた。
その眼には冷酷な光が宿っている。
「や、やめ――」
慌てて命乞いをしようとする男の心臓を剣が貫き、男の心臓の動きが止まった。
「さぁ、まだまだ終わらんぞ」
フルヴァルトの眼が次の獲物を見定める。
襲い掛かって来た敵の刃を老人とは思えぬ跳躍力で飛び跳ねて躱し、上空から一気に獲物の胸を貫いた。
そしてそれを引き抜き、返す手で先程襲い掛かろうとしていた男の腹を突き刺し、痛みで動きを止めたところを袈裟斬りにした。
そしてグッと足を折り曲げ、別の敵に向けてバネの要領で大地を蹴って近付き、通り過ぎた瞬間に脇腹を切り裂く。
その姿はさながら王の前で見せる華麗な円舞の様であった。
「クソッ! クソッ! クソッ!」
部下達が一方的に殺されていくのを見て、アレンは焦っていた。
目標が老人だからと油断していたのだ。
まさかこれほどまでに一方的に嬲られるなど、許せるはずがない。
「――ぎゃあ!!」
「……ヒッ!? ごはっ!!」
「頭ァ! た、助け――」
次々と部下達が殺されているのを見て、アレンの中に恐怖心が沸き起こる。
だが、今更逃げる訳にはいかない。
ザドキアにあれ程の啖呵をきって来たのだ。
負けて帰ればどんな風に蔑まれるのか、どれ程周囲から馬鹿にされるのか。
そんなプライドが、逃げる事を選択させなかった。
やる。
やってやる。
そんな感情を滲ませて、睨み付けたアレンを、
「……弱いな。技を使うまでも無い。……あの娘に比べれば随分劣る。例え私に勝てたとして、模擬試合ながら私を負かしたあの娘には勝てぬよ。……どれ程努力しようと、な」
フルヴァルトの冷たい声と眼が射貫いた。
アレンに向かって、一歩、また一歩とゆっくりと近付いてくるフルヴァルト。
まだ無事な部下達がそれを止めようと襲い掛かるが、その悉くを返り討ちにしていく。
周囲にはアレンの部下達の死体と、それから流れ出した血で赤く染まっている。
アレンの心は折れかけていた。
勝てない。
自分ではどれ程努力しても勝てない”怪物”が、己を殺そうとゆっくりと近付いてくる。
フルヴァルトが一歩近づく度に、アレンも一歩後ろに下がる。
そんなアレンを見て、フルヴァルトは残念だ、と呟いた。
「まだお前の部下の方が私に……圧倒的な実力を持つ人間に挑める強さがあった。お前は彼等にも劣る。……己の力不足を悔いて――逝け」
アレンは眼を瞑る。
死ぬ覚悟なんてない。
ならせめて、未練がましく死んでやる。
――一方的で理不尽な過去を呪いながら。
――上手くいかない現在を呪いながら。
――自分を馬鹿にした仲間を呪いながら。
――思い通りにならない世界を呪いながら。
――自分の場所を奪った夜を呪いながら。
――そんな事しか出来ない自分を、呪いながら。
死んでやる。
ズサン!
「――ぐっ!」
この声は――
アレンが眼を開けると、目の前に大きな背中があった。
「……アン、タ」
そこにいたのは団長だった。
だが、地面を見ると、血が滴り血だまりを作っていた。
明らかに致命傷であろう事は眼に見えた。
しかし、そんなことはどうでも良い。
「何で……ここに……」
呆然としながらもそう口にしたアレンに、ザドキアが地面に膝を付き、荒い息を吐き出しながら、
「何でもクソもあるかクソガキ。……一人で勝手におっ死ぬなら構わねぇが、仲間を残して死ぬんじゃねぇよ、俺の半分も生きてねぇ若造が」
そう言った直後に、ドボドボと大量の血を口から吐き出す。
「お主がこの若造の主か。……お主程の実力者が、この若造の為に死ぬか」
あくまでも冷静に、冷酷に、ザドキアの実力を悟ったフルヴァルトがザドキアに問う。
「――はっ! 誰を生かして、誰を殺して、誰の為に死ぬかは俺で決める。どん位のド阿呆だろうが……コイツは俺の大事な『部下』なんでな」
ザドキアも、最早死に欠けの状態でありながら嗤う。
凄絶に、剛毅に、嗤って見せる。
それはザドキアにとっての覚悟であった。
『仲間の為なら死んでみせる』と、そう言ったのだ。
「そうか。なら、その覚悟、この”剣聖”が受け取ろう」
そう言って剣を振り上げ、振り下ろして――
ガキン!
その剣は小さな刃に阻まれた。
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もう一つの投稿中の作品
『ラッキーパンチにご注意を! ――超ラッキーなアンラッキーボーイの異世界転移――』
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