五十三話 ナハト・レイヴンホーク 2
”轟鬼”ザドキア・レイヴンホークの後継者『夜・レイヴンホーク』として『名も無き傭兵団』の元に来て半年、俺は副団長として信頼を勝ち得ていた。
この頃には”魔女の夜”の情報部である”梟”や俺直属の”鴉”達が、実際に俺の直属の部下としてついていた。
それと同時に、未だに俺を認めていない奴もいた。
それがアレンである。
その日、全体の会議が行われていた。
団長付の俺と、幾人かの幹部――バージェットやオリヴィア、ザイールもいた――が円卓に座ってザドキアが話し出すのを待つ。
「……依頼が入った。……俺としちゃあ余り受けたくねぇ依頼だ」
ザドキアは頭をガシガシと掻きながら、吐き捨てる様にそう言った。
「……バージェット、説明しろ」
ザドキアの言葉に従い、バージェットが席を立つ。
そして手に持っていた書類を読み上げ始めた。
「……依頼内容は『とあるギルドマスターの殺害』。……目標はマグニフィカ王国王都シュトルテンのギルドマスターです」
マグニフィカ王国の王都、シュトルテンのギルドマスターは噂に聞く程の実力者である。
老齢ながら、”剣聖”とまで称される程の腕前を持つ人物だ。
「……正直言ってギルドマスターを敵に回したくはねぇ。ギルドを完全に敵に回せば厄介なことにしかならねぇからな」
ザドキアの言葉に、幹部達の多くが賛同する。
勿論俺もザドキアの隣に控えながらも、頷いた。
だが、それに反対する者がいた。
「頭、名を上げるチャンスじゃねぇか! やってやろうぜ!」
若く、短気な面もありながらも、実力を持つ若手筆頭のアレン・スコーリオである。
机を強く叩き、ザドキアに対してそう抗議する。
そんなアレンをチラリと見て、
「お前はまだ視野が狭い。もうちっと広く見ろや。……じゃねぇと、その歳で死ぬ事になるぜ? 殺し屋やら暗殺者ってのはいつ死んでも可笑しくねぇモンだ」
そう忠告した。
つまりは我慢しろ、と言っているのである。
だが、
「俺ぁ受けるぞ! いつまでも『名も無き』でなんていたくはねぇんだよ!」
そう言って席を立ち、乱暴に出て行った。
それに続き、彼の部下や彼に賛同する人間達が出て行った。
それを見て、ザドキアは溜息を吐いた。
「……忠告はしたぞ馬鹿野郎。……夜、アイツを守ってやれ」
そう俺に言ってきた。
「……止めなくて、良いの?」
俺の疑問に、ザドキアは頷いた。
「いや、戦わせてやれ。アイツは自分が届かない場所にいる奴と戦って……挫折っての? それを一度は味わうべきなんだよ」
心底面倒だ、というように、ザドキアは懐から取り出した煙草を口に咥え、煙を吐き出した。
数日後、アレン・スコーリオはマグニフィカ王国のシュトルテンにいた。
勿論、依頼を遂行する為であり、目標が数刻後には所用でシュトルテンから馬車に乗って別の街に移動することを既に掴んでいた。
「良し。じゃあ老いぼれ爺を殺しに行くとしますかね」
そう言って部下達に合図を送るアレンは、後ろをチラリと見る。
そこには姿を隠そうともせずにいる夜が無表情でアレンを見ていた。
「……チッ!」
夜に聞こえる様にワザと大きく舌打ちをする。
アレンは、あの無表情の人形の様な少女が気に入らなかった。
彼女が来る前までは若手の中で最も将来を有望され、アレン自身は数年後には団長になれると思い、信じて疑わなかった。
だが、そんなところに、この夜と名乗る少女が現れたのだ。
更には団長自らが『後継者』と宣言し、実力も申し分なく、団長が代々継いでいる『レイブンホーク』と言う苗字を既に与えられたのだ。
所詮名前などどうでも良く、ただ力を得れば、団長になれればそれで良いと思っているアレンだが、だからこそ面白くない。
パッと出てきて、自分の何時か座るであろう場所を掻っ攫っていったのだ。
アレンにとっては味方どころか、自分を脅かす『敵』である。
しかし、今はそれを気にしている時間は無い。
アレンも馬鹿ではない。
理解している。
これから戦う相手と、自分の実力差がある事を。
だが、それを野心と夜に対する敵対心と焦りがそれを上回ったのだ。
そして、マグニフィカの街をギルドマスターが乗った馬車が行く。
そして街の外に出て、薄暗い森に沿うような道を通っていく。
だが、キラリと何かが光ったと思えば、その馬の手綱を握った従者が、転げ落ちた。
「……ふむ。敵襲か」
馬車の中から、剣を携えた細身の老人が現れる。
だが、その眼光は鋭く、まるで極限にまで研ぎ澄まされた刃の様だった。
そんな老人の目の前に着地したアレンが、
「――死ねよ糞爺」
そう笑いながら言ってナイフを構える。
だが、それを鋭い眼で見た老人は、まるでアレンに失望した、といった表情をして、
「……殺し屋、か、それとも暗殺者か。目の前に現れるとは随分風変わりだな。気配も、殺気も押さえれぬお主程度が儂を殺すと? ……嘗められたものだな」
”剣聖”の称号を持つ老人は、その剣を抜いた。
「……第二十二代”剣聖”フルヴァルト・ルーフェン。 ――参る!!」
もう一つの作品も宜しくお願いします!
『ラッキーパンチにご注意を? ――超ラッキーなアンラッキーボーイの異世界転移生活記――』
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少しコメディな感じになってると自分では思っています。