五十話 名も無き殺し屋と名も無き傭兵団 その1
祝、五十話ー!
今考えると百話行くかな……これ。
今回から数話、過去の話になります。
数年前、俺がこの世界に転生してきて少し経った頃、俺は冒険者ギルドにも所属せず、単独で依頼をこなす日々を送っていた。
その頃は部下なんているはずも無く、全てを自分でやっていた。
まだ『互助会』とは知り合っていない頃である。
当時、俺が日々生活していたのはマグニフィカ王国のシュトルテンではあったが、その裏路地にある一室に住んでいた。
簡単に言ってしまえばスラムの様な場所で、人の入れ替わりも多く、他人との関わりが極端に希薄だった為、俺はそこを住居にしていた。
住んでいた中には子供も多く、その多くが人身売買を仕事にするような連中の中でも、最底辺の連中が仕方なく身受けするような、不摂生で不潔な外見だった。
それと同様荒くれ者も多く、簡単に人が死ぬ、そんな場所だった。
因みに、俺が”魔女の夜”を設立してすぐにそこを潰した。
当時は善悪など考えず、『ただ生きて行くため』に殺しをしていた。
その日も、確か『人身売買を嗅ぎ付けている厄介な女を、情報を取れるだけとってから殺して欲しい』と言う依頼を受けていた。
依頼人は人身売買を取り仕切る商人だった。
「……」
依頼を遂行するのは夜だった。
夜が一番、俺の暗殺者としてのスキルを遺憾なく発揮出来る時間帯だからだ。
「……いた」
目標を確認し、気配を隠し、闇に紛れて隙を狙う。
今いるのはシュトルテンでは無く、王都より離れた地方都市である。
眼に入ったのは気の強そうな金髪をポニーテールにした二十代前半くらいの女だった。
目標の名前はニーナ・ベンデリオファ。
没落した貴族の一人娘で、現在は冒険者として活動している女性だ。
調べて分かったのは正義感が強く、気も強いが孤児院の子供達を世話するような優しい一面も持つ、『いたって普通の』冒険者である、と言う事だ。
だが、その強い正義感と、高い実力故に、様々な組織を壊滅させており、敵も多い。
今回も、『マズい情報を掴まれてるから早めにその芽を摘んでおきたい』と言う依頼人のオーダー故だ。
ニーナは周囲を注意深く確認しながら、依頼人が主催している奴隷市場の様子を窺っている様だった。
もっと良く見ようと思ったのだろう。
奴隷市場は地面に半分埋まる様な建て方になっている。
彼女は奴隷市場の横にある人気の少ない裏路地へと入って行った。
私は裏路地へと入り、窓へと近寄るとそこから中の様子を窺った。
窓の隙間からは、裸の女性や、子供達が鎖でつながれた状態で整列していた。
その服装はボロボロで、顔は疲労でやつれ、身体は砂埃に塗れていた。
私は強く、血が出る程に唇を噛みしめる。
「……下種共め!」
思わず口からそんな言葉が出るのも仕方ない。
私は男爵家の娘だった。
だが、家は没落、私は両親に謝られながらも孤児院に引き取られた。
私は子供達の中でも年長の方で、数年は年下の子供達の面倒を見ながらも、平和に暮らせていた。
しかし、そんな生活も長くは続かなかった。
孤児院は悪党共に襲われ、子供達や孤児院を経営していたシスター達まで、全員が奴隷市場に連れていかれた。
子供達はまだ大丈夫だったが、シスター達は下卑た男達に犯され、無残な姿で殺された。
目の前でその光景を見ながらも、当時の私は恐怖で動けなかったのだ。
そんな私を助けてくれたのが、とあるツーマンセルの冒険者達だった。
名前も知らないし、外見も既に朧気だが、その雄姿は今でも覚えている。
そんな彼等の様になりたくて、私も冒険者を目指したのだ。
今ではB級の冒険者として、それなりの生活を送れている。
だが、奴隷商人やそれに関わっている人間達を見逃せるようなことは出来なかった。
盗賊や野盗、海賊、奴隷商人等々、様々な悪の組織を潰してきた。
そして今回も、『奴隷を孤児院や貴族から横流しし、売っている者がいる』という噂を知り、調べ、こうしてやって来たのだ。
遅れを取るつもりは無い。
たかが奴隷商人だ。
連れてる連中も大したことないに決まっている。
気を全身に張り巡らせ、窓から中に入ろうとした瞬間、
「――っ!」
私の視界の端に、横切る何かが映った。
剣に手を掛け、一閃する。
だが、空を斬るだけで、何の感触も得られなかった。
私は横切った何かを見た。
「……女、の……子?」
そこにいたのは、長い銀髪に紅い瞳を輝かせた人形にも見紛うばかりの無表情の少女だった。
闇夜に溶け込むような黒い衣装に身を包んだ、華奢な身体。
長い銀の髪が、風に煽られて揺れている。
その少女の、まるで血の様な無機質な瞳が、月光に照らされて不気味に輝いた様に――見えた。
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