四十九話 襲撃
翌朝、エドノアが起き上がると、既にホランドは起きており、暁に指示を出していた。
そしてエドノアに気付くと、ホランドは頭を下げる。
「お早う御座います陛下。……ご気分は如何ですかな?」
「あ、あぁ……。まぁ、そこそこだ」
「陛下、本日は昼後に”魔女の夜”本部へと向かう予定になります」
「……分かった」
エドノアはホランドの調子を見てホッとする。
あの”魔女の夜”の長と言われたあの少女に意識を刈りとられたのだ。
後遺症になっていたりしないかと心配になったが、どうやら無事だったようだ。
さて、と一息吐いて、エドノアも仕度をし始めたのだった。
「では行きましょうか」
「あぁ」
ホランドが先導し、暁が最後尾となって道を行く三人は目立っていたが、誰もそれに触れる事は無い。
ギルドリーダーの暁は有名だ。
荒くれ者も多いハンターや冒険者達を日々統制している。
だからこその信頼があるのである。
エドノアがホランドと暁を従え、”魔女の夜”の本部へと向かうのを、遠くの物陰から見ている男がいた。
「――エドノアとホランドが動き出しました。はい、追跡を開始します」
男は小さくそう呟くと、フードを目深く被り、雑踏の中に溶け込み、エドノア達を追いかけて行った。
男の後ろから、複数人の人間が彼を追いかける様に、雑踏へ踏み込んで行った。
「ようこそ、では応接室へどうぞ」
「……(コクリ)」
バージェットの案内により、商会の中を通る三人。
俺も最後尾で付き従うようについていく。
商会内は客も多く、皆が忙しそうにしているのを、エドノアとホランドが物珍しそうに見ていく。
まぁ貴族や王族は普段こんなところこねぇしな。
そして端にある応接室に繋がる通路へ向かおうとした瞬間、
ガタン!
「―—きゃ!!」
「――な、なんだ!?」
後方で何かが壊れる音と悲鳴、そして早い速度で何かが此方へと駆けてくる気配、それと隠そうともしない剣呑な殺気――
「……っ!!」
俺は瞬時に振り向き、視界に映った影に対してナイフを投げた。
俺の投擲したナイフは影の眉間に当たった。
影――ローブを被った男が地面に倒れる。
「「―—きゃああああああああああああああああああああ!!」」
と言う女性の悲鳴の響く中、入り口から次々に入り込んできた。
その手にはナイフや剣が握られている。
「……追跡されていたか。……あんな雑踏の中では殺気も無いとわからんな」
暁が剣を抜き、俺の隣に立つ。
俺はジト目で暁に言った。
「……やっぱり追跡されてる。……役立たず」
「……本当に面目ない。だが、先ずは――」
謝りながら、手に持った剣を一閃する。
「――がっ!」
「コイツ等を対処するのが先、だな」
振るった剣は見事襲撃者の一人を袈裟斬りにする。
暁は血の付いた剣を払い、血を落とした。
……はぁ。
既に襲撃者の多くが部下達によって殺されている。
「……っ!」
俺も近くにいた襲撃者の一人に向けて肉薄する。
そしてナイフを繰り出し――
カキン!
甲高い音を立て、俺の振るったナイフは襲撃者の手に持った剣によって阻まれた。
そして動いたせいで襲撃者が被っていたフードが捲れ、素顔を晒す。
「――っ!」
俺はその顔を見て、言葉を失った。
「……久しぶり。アレン」
「――よぉ、久しぶりじゃねぇか、夜」
アレン――俺にとって旧知であり、仲間であった男は、二ヤリと嗤った。
どれ程の時間睨み合っていただろうか、もしかしたら数秒だけだったのかもしれない。
「……やっぱお前相手じゃあ簡単にゃいかねぇか。――あばよ!」
なんの動作も無く、身を翻して逃げて行ったアレンを、俺は追いかけなかった。
何でアイツがいるのか、今回の件とどのように関わっているのか。
疑問が頭の中を巡る。
頭を切り替えて見渡した客のいなくなった店内では、幾つもの死体が転がっていた。
そんな中、
「夜様! まだ息のある者が!」
部下の一人の声で、俺は其方に眼を向ける。
その男は致命傷を負いながらも、未だ荒い息を繰り返していた。
「……貴方達、何者?」
俺の質問に、その男は血を撒き散らしながら答えた。
「……我等は、殺し屋集団”黒死蝶”! 我等を見たが最後、そこに残るは”死”のみ! 憶えておけ……我等が長、ナハト・レイヴンホークが、必ずやお前達を殺――」
そこまで言って、その男は狂い笑った表情の儘、息を引き取った。
だが、俺の頭では既に別の事を考えていた。
「……ナハト・レイヴンホーク、か」
その名前は、かつて俺が名乗っていたモノだ。
かつて、この世界に来たばかりの俺を部下として引き入れ、この世界でのイロハを教えてくれた恩人にして養父の様な存在。
”魔女の夜”の前身となった、名も無き何でも屋集団の団長、”轟鬼”ザドキア・レイヴンホーク。
彼に貰った、俺にとっては夜と同じ位大事な名前だ。
俺は彼にお世話になった時を思い出した。
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