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四話 狼の転生者

今日は忙しくて何も手につかなかったです(泣

許してくださいお願いします。なんでも……はしませんが。

 俺がスイを連れてやって来たのは王都の外に建てられた少し大きな小屋だ。

 この中に傭兵部隊……主に傭兵家業をしている部下達、通称”狼”がいるわけだ。


 さて、ここで”魔女の夜(ヘクセンナハト)”の()()について説明をしておこう。


 ”魔女の夜”は会社と似た様なモノだ。

 一人のトップ――俺だ――に数人の幹部、その幹部が其々一つずつ部署を持ち、更に外部に協力者を持っている。

 部署は全部で七つ。


 先ず俺の直属の部署であり、本部に詰める様々な技能を持つ総合的な”鴉”。

 傭兵やハンター家業を仕事とする荒事に長けた実質的な実働部隊”狼”。

 普段は盗賊や暗殺者、殺し屋として過ごし、任務の援助や補助を行う()の集団”蛇”。

 冒険者として大陸を回り、様々な部隊の中継役や表向きの顔にもなる”獅子”。

 旅の商会として世界各地を渡り歩き情報を収集する”渡り鳥”。

 世界各地に店を構え、そこを居にして情報を集める”不如帰(ホトトギス)”。

 そして各部署の依頼が重複したり、裏が無いか調べたり、別口からの依頼で仲間同士が敵対しないように各部署が集めた情報を精査、管理、調整する諜報及び情報部である”梟”。


 この七つが互いに情報を共有し、補助し合う事で”魔女の夜”は成り立っている。




 俺は”狼”が待機している小屋の扉を叩かず、スイと共に小屋の近くの井戸へと飛び降りる。

 井戸には水が溜まっておらず、一番底に着地し、井戸の壁にあった扉を開けて入る。

 蝋燭もなく、ほぼ真っ暗な中を進み、一番奥にあった扉を開ける。

 小屋の中にいたのはほぼ男で、裏口から入って来た俺を警戒しているのか武器に手を掛ける奴もいるが、近くにいた奴が止める。

 まぁ俺が頭であることを知っているのは”狼”の中でも一部だけだから文句は言わない。

 元男である俺としては大して気にならないが、スイは若干気になっているらしく、俺の後ろに隠れている。


「……ゼイ、いる?」


 俺は、近くにいた俺の事を知っている奴に声を掛ける。

 奇しくも、それは”狼”の副長であり、”狼”の表向きの姿である”月夜の狼牙”の副団長である老練の男、バイガンだった。

 日焼けで黒く焼けた肌に白髪と白鬚を蓄えた好々爺である。


「おう嬢ちゃん。久しいな、案内してやるぞ――おう! あとはテメェ等に任せるぜ! 準備を怠んなよ!」


「「「おう!!!」」」


 バイガンは男達にそう声を掛け、奥へと入って行った。

 そして一番立派な扉の前でくるりと振り向いた。


「――お久しぶりですな夜様。此度は何用ですかな?」


 先程までの小娘を相手にする様な態度とは一変し、騎士の様な態度になり、言葉使いも敬語になる。

 このバイガンと言う男は、今では傭兵団の一員であるが元々は実際に騎士であり、とある国に仕えていたのだ。

 見た目とは違い、礼節に厚い人間なのだ。


「……別に……情報を貰いに来た」


 ……あぁもどかしい!

 俺が喋ろうと思っている事と、実際に口から出る言葉の差異があり過ぎてもどかしいよ!

 どうしようもない事だとはわかってるけどさ!


「ではお入りください」


 バイガンは扉を開けて中に促す。

 俺はスイを連れて中へ入った。

 部屋にいたのは巨体を誇る大男だった。

 特徴的なのはその顔だ。


「……ゼイ」


「おう、お嬢とスイじゃねぇの! 久しぶりだな!」


 俺の声に、体躯と同じく大きな声で返答した男の顔は獣のそれだった。

 ゼイは”獣人”と呼ばれる獣の特徴を持つ種族であり、その中でも狼の特徴を持つ。

 ”獣人”は男は獣の顔を持ち、女は獣耳と尻尾を持つ種族だ。

 ……男女で扱いの差があるのは理解してる。何も言うな。

 因みに俺を「お嬢」と呼ぶのは元々が「お嬢ちゃん」だったからだ。

 曰く、慣れたから「ちゃん」を取った、と。


 そしてゼイは俺と同じく、転生者なのである。






「――情報? そうだな……どうやら戦があるらしいってのは聞いたな。だが、どうにもきな臭い臭いがしやがる」


 ゼイは少し特殊な部類の転生者であり、転生前の事を殆ど覚えていないらしい。

 日常生活は出来る程度の知識は持つが、前世で親しくしていた人間どころか自分の名前すら憶えていないらしい。

 神曰く、「覚えていない方が幸せだと思うよ?」らしい。

 そんなんでいいのか自称神様。

 そして何したんだゼイ……。


 ゼイと知り合いになったのは”魔女の夜”立ち上げ前だ。

 たまたま傭兵として過ごしていたゼイと殺し屋兼暗殺者として生活していた俺が別口から受けていた任務の内容が一緒で、その時に知り合ったのだ。


「何処と?」


「何だったっけか? ――バイガン」


 ”狼”の頭であるゼイであるが、大雑把かつ若干脳筋(あれ)な為、実質”狼”を取り仕切るのは副団長であるバイガンの役目である。

 バイガンはゼイの机の上に置いてあった書類を手に取り、俺に差し出してくる。


「インクセリア国とヴァーガニア国とのことです。我々も調査しておりますが……夜様、部下に調査させた内容の詳細はこちらに。どうやら何者かが仕掛けたモノらしいですな」


 インクセリアとヴァーガニア、両国ともあまり好戦的な国とは言い難い。

 両国の現在の王は国内の平和と他国との調和を重視しており、他国への侵略など考えるはずもない。

 しかし、その国同士が戦うと言うのだ。

 何かあるに決まっている。


「……(コクリ)」


 俺は頷いてバイガンから書類を受け取り、隣で立つスイに預って貰う。


「……準備はしといて。無論、戦の」


 俺とスイは扉に向かい、一度振り返ってから二人にそう言って廊下へと出る。


「これからどうするですか? 夜様」


 スイの疑問に、俺は一言だけ言った。


「――帰る」




誤字脱字、文章がおかしい等ありましたら教えてください。


5/23

ご指摘を受けまして、一部修正させていただきました。


7/12

名前の間違いの報告がありましたので修正しました。

実質”狼”を取り仕切るのは副団長であるバンガンの役目である。

実質”狼”を取り仕切るのは副団長であるバイガンの役目である。



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