四十六話 依頼
久しぶりの投稿です。
……いや、違うんですよ。
遅くなったのは理由があるんですよ。
作者は悪くない。ゲームが悪い。
「……夜様、少し宜しいでしょうか?」
俺が”梟”のところで情報の整理と依頼の確認をしていた時に、秘書にして俺直属の”鴉”のリーダーであるオリヴィアに、そう話しかけられた。
「……何?」
俺がそう聞くと、少し困った顔をした。
「……あの、表で少し厄介事が。……身なりの良い男が表で『”魔女の夜”の長と話がしたい。此処にいるのだろう?』と騒ぎ立ててまして」
その言葉に、俺は勿論、”梟”達も苦い顔をする。
……誰だか知らんが、俺達一応表向きは商会なんですけど。
全く以って迷惑も甚だしい。
「……術は?」
「はい。勿論、その男が叫び出す前に【沈黙】の魔術を使用して会話が漏れないようにしています。……間一髪でしたが。現在は個室にお通ししております。……如何なさいますか?」
俺は少し考え込む。
正直言うならば会いたくない。
話を訊けば、その男のいる状況が思ったより切迫しているのが理解できる。
しかも、俺達が裏社会の人間だと知っていて表で叫んでいたのは、それ程焦っているからだ。
だが――
「……会う」
俺は溜息を吐いてそう答える。
一応、話を聞くことにした。
もしかしたら日常生活にまで影響するような問題かもしれない。
厄介事は嫌いだが、平和に生きる為には厄介事を片付けないとな。
「ようこそお出で下さいました。私が”魔女の夜”の長です。……どうぞ、お座り下さい」
そう挨拶したのは端正な顔に柔和な笑みを浮かべている男性だった。
”梟”の長、バージェット・ローヴァンである。
俺の『代わり』として、こういった場合に表に出るのもバージェットの役目である。
……え? 俺が何処にいるかって?
ここは”魔女の夜”の本拠地だぜ?
部屋の上に隠し通路があるのさ。
バージェットは男に椅子を勧め、座らせた。
そして悠然と足を組み、
「では、話をお聞きしましょうか」
「……私の名前はホランド、と言います。ここより離れたアドランド国の宰相の位におる者です」
そう言って頭を下げる。
アドランド国、ねぇ。
最近は余り良い噂を聞かない国だな。
王弟が一部の貴族と共に反乱を起こし、兄を追い出したとか。
あーやだやだ。
「私からの依頼は、『アドランド国を取り戻す事』。同時に、『正当な王であるエドノア・アドランドの護衛』です。……可能ですかな?」
「……(如何なさいますか夜様)」
バージェットが黙り込む。
そして、俺の耳に呟きが聞こえて来た。
【沈黙】スキルを応用しての、周囲に聞こえない程の声での会話だ。
ホランドに聞こえる事は無い。
それに対して、俺も返す。
「……(……保留。エドノア王に会っておきたい)」
バージェットは眼を開ける。
「今日直ぐに決める事は出来かねます。……明日、王を連れて来て下さい」
「――なっ!? 何処に危険が潜んでいるかも分らぬのに、王の身を危険に晒せと言うのか!」
「……我々も場合によっては命懸けになります。貴方方にも、それ相応の覚悟を見せて頂かねば……そう思いますが?」
「……っ!!」
バージェットの言葉を失うホランドに、更に畳みかける。
「『自分だけ安全な場所にいる』などと甘える事を仰るのなら、我々は依頼を引き受けません。冒険者ギルドにでも頼めば宜しい」
「――わ、わかったっ! お連れする! だから――」
「えぇ。……お待ちしておりますよ」
バージェットは営業用のにこやかな笑みを浮かべて笑った。
「……どう思う?」
ホランドがいなくなり、二人だけとなった応接室で、俺はバージェットに聞いた。
「……裏は無いとは思います……が、どうでしょうね」
バージェットは何時も着ている愛用の白衣を着ながら答えた。
「今のアドランドの現状からして、何かがある、とは考えていた方が良いでしょうね。……各部署にアドランドの情報を集める事を通達しておきます」
「……宜しく」
バージェットは俺に一礼して、「では失礼します」と退室していった。
マグニフィカ王国、首都大通りにある宿屋の一室、そこでエドノア・アドランドは休んでいた。
「……まだホランドは帰ってこない、か」
部屋の外、廊下にはホランドが手配した護衛である長身の女冒険者――というよりは恰好は騎士に近いが――が待機している。
何でも、凄腕の実力者。
それもギルドマスターをしている程の人物であるらしい。
エドノアは周囲を見渡す。
数日前には広い王宮にいたのが、今ではこの程度の宿屋の一室で自分について来てくれた臣下をただ待つだけ。
何とも滑稽だと笑いそうになる。
「――陛下。ホランド・オーギュストに御座います」
ノックの音と共に、臣下の声が聞こえた。
「……入って良いぞ」
「失礼致します」
ホランドは一礼して入室してくる。
開いた扉の隙間から、護衛が眼を瞑り、腕組をして壁にもたれているのが見えた。
「……で、どうであった?」
ホランドは臣下の礼を取り、首を横に振った。
「……分かりませぬ。明日、陛下をお連れせよと向こうは要求してきました」
「で、あるか」
エドノアは暫く眼を閉じ、考える。
「致し方ないか。……わかった。私を明日、その場所へと連れていけ。直接話をしよう」
眼を開けたその眼には、覚悟の炎が宿っていた。
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