四十五話 蠢き出す
新章です。
宜しくお願いします!
某国、王の間で、一人の男が王座に座っていた。
「……お前達のお陰だ。俺がこの国を手に入れられたのはな。だが、まだ終わっていない。兄が生きている限り、俺の心に安寧は無い。……わかるな?」
「あぁ、わかってるさ国王陛下様。奴さん等はちゃあんと俺等の誘導した通りに動いてるぜ」
一人しかいないはずの王の間であったが、別の男の声が聞こえた。
「良し。ならばお前に任せよう。頼んだぞ、ナハト」
「勿論、アンタと俺の目的は一致してる。……任せろや」
その言葉を皮切りに、王座に座っていた男が立ち去った。
そして、もう一人の男の笑いが王座の間に響く。
「……さぁて、動き出しますかね。――ケケケケケッ!」
「大丈夫ですか陛下」
夕日で紅く染まる道を、馬に乗った二人組が早足程の速度で歩んでいた。
声を掛けたのは壮年の男性であった。
「あ、あぁ……問題ない。この先で良いのか? お前が知っていると言う、凄腕の連中がいるのは」
それに答えたのは二十代後半であろうか、少しやつれており、そのせいで年上に見えるが、それなりに容姿が整っていたであろう、陛下と呼ばれた青年である。
「はい。もう間もなく到着いたします。陛下は宿にて休息を、先ずは私が応対します故。――ほら、見えてきましたぞ」
「わかっている。任せたぞホランド」
「――はっ!」
二人は馬の速度を上げた。
二人の行く先には、マグニフィカの王都、シュトルテンが夕日に照らされていた。
シュトルテンにある冒険者ギルドの受付嬢は、今しがた扉を開けた人間が気になった。
と言うか、非常に浮いていた。
冒険者ギルドにくるのはその殆どが冒険者やハンター達である。
どれ程軽装していても武器を持っているし、独特な雰囲気もある。
だから、如何にも金持ちで地位の高い人間が着る上質なモノを着ている者がいれば、目立つに決まっているのだ。
その男は、珍し気に周囲を見回しながら、受付嬢の元へとやって来た。
受付嬢の前で、一度咳をした。
「あー……受付とはここで合っているかね?」
居心地悪そうな男に、受付嬢は愛想良く笑いかけた。
「はい! 冒険者ギルドへようこそ! ご依頼ですか?」
「う、うむ。護衛を出して欲しい。……成るべく実力のある、誰も勝てないであろう強者を。……可能かね?」
男の要望に、受付嬢は誰が当て嵌まるかと思案する。
だが、先程の条件で受付嬢が見合う人間など受付嬢には一人しか思い浮かばなかった。
しかし、それなりに地位のある人物であり、忙しい事は眼に見えてわかる。
「はぁ……一応聞いてみますね。少々お待ち下さい」
受付嬢が席を立ち、向かったのはギルド施設の奥にある部屋であった。
一度息を吐き、扉をノックする。
「失礼します。マスター、お時間宜しいでしょうか?」
そう声を掛け、扉を開けて入る。
「ん……君か、どうした?」
机に散乱している書類から顔を上げたのはギルドマスターである暁である。
「はい。あの――」
受付嬢は先程の事を説明した。
相手の身分だが、目測ではあるが、恐らく貴族階級である事も説明した。
「……ふむ、成程。……話を聞こう。応接室にお通ししてくれ」
「は、はい!」
受付嬢は部屋を辞し、先程の男を呼びに行ったのだった。
暁は、目の前に座るホランドと名乗った男を見て、瞬時に貴族、それも高い地位にいる人物だと悟った。
仕草、着ている服の素材、話し方。
貴族と言うのは分かり易い。
「……ギルドマスターをしている暁です。では、説明をしていただけますか?」
暁が促すと、ホランドは話し出した。
「……素性は話すことが出来ぬが、私と、ある方を、この街の中にある、とある場所まで護衛して欲しいのだ」
「……と、言うと?」
「向かいたいのは大通りに面した”アーシュトン商会”だ」
暁は、その店の名に、彼等が何をしたいのかを理解した。
”アーシュトン商会”はマグニフィカにある商会の中でも一、二を争う程に大きい商会であり、何より――
”魔女の夜”の表向きの顔なのである。
「……護衛は今日から?」
依頼を受ける事に決めた暁は、ホランドにそう聞いた。
ホランドも、それに頷く。
「うむ。……だが護衛するのは私ではない。後で教えるが、私達が泊まっている宿を見張って欲しい。……”アーシュトン商会”には私だけで向かう」
「分かりました。――では、早速今日から護衛を開始します」
「あぁ、よろしく頼む」
ホランドは椅子に座ったまま、暁に頭を下げた。
ホランドが退出した応接室の中で、暁は一人溜息を吐いた。
「……やれやれ、また面倒なことに巻き込まれそうだぞ。夜」
そう言って、暁は依頼を遂行する為の準備を始めたのだった。