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四十四話 別れ その2

取り敢えず連続投稿は此処までです。

「……家族には、伝えた?」


俺は、近くにいた『互助会』メンバー――盗賊(シーフ)の格好をした人族だ――に、ワンダに聞こえないように小声で聞く。


「……あ、あぁ。先程知らせるための早馬を飛ばしたが、如何せんその家族が住んでいる場所が遠くてな。恐らく来るのは数日後だな。……多分間に合わねぇ」


そこに、隣にいた女性メンバー――冒険者風の装いをしたダークエルフ族だ――も会話に入って来る。


「……携帯とか、車とかがあれば馬より早いでしょうし。転移魔術も、流石に家族を探して、使える人間を派遣しないといけないしね。……こういう時不便さを感じるわ。それと同時に地球の技術の利便さも、ね」


全く以ってその通りだ。


「……姐さん」


俺はワンダの横で状態を見ているフランチェスカに声を掛ける。

その意味を理解してか、フランチェスカは首を横に振った。


「……多分もう数分もないわ。外に出ている暁達を呼んできて頂戴」


俺は素直に頷き、暁達を小屋の中に入らせた。

丁度、ワンダが喋り出す直前だった。


「……前世にて若くして死んだ儂じゃが、転生し、前世では恵まれんかった家族を得た。良き妻に出会い、孫も、生まれた。……それに、()き……同胞(はらから)にも、な。……お主らに出会えて良かったよ」


掠れ、言いよどみながらも喋るワンダの言葉を、誰も遮らない。

ただ必死に涙を堪え、鼻を啜り、呻く声が漏れるだけだ。


「……特にフランチェスカ殿、お主には、儂がこの世界に来た時より、世話になった。この後も来る同胞達も、世話して……やってくれい」


「……えぇ」


フランチェスカが頷く。

それに満足気に、ワンダが笑う。

何時もの快活な笑みではなく、好々爺然とした柔和な笑みだ。


「……この人生、満足足りえるモノじゃった。……では朋輩(ほうばい)共よ。いずれかの人生で、また……会おうぞ」


最早最後は掠れ、声も小さくなり、聞き取るのも精一杯であったが、満足気な笑みで、ワンダは――死んだ。





暫くして、外に出た俺が横を見ると、先に外に出ていたフランチェスカと暁が二人して小屋の屋根の下で立っていた。

フランチェスカは煙管を銜えて怠そうに立っている。

暁は腕を組み、壁に寄りかかっていた。


「……姐さん、暁」


俺の声に、二人して此方を見る。


「……夜か」


「……何を話してた?」


そう聞くと、暁はフランチェスカの方を向いた。


「……少しね。ワンダがこっちに来たばかりの事を思い出してたの」


フランチェスカは煙管から口を離し、煙を吐いてからそう言った。

健康に悪いと言うかもしれないが、ハイエルフの女王となれば関係ない。


「何十年も前よ。……こっちに来た時点で二十代の外見だったけど、危なっかしかったわ。直ぐ魔物に突っ込んでくし、阿呆だし。……でも、善人だったわ」


そう言って再び煙管を銜える。


「……私がこの世界に来てから随分経つわ。何人もの人間を世話して、それと同じ数だけ死ぬのを見て来た。……多分これからもそうなのでしょうね。私は”真祖のエルフ(ハイエルフ)”。……それも女王。永遠の命を持つとも言われているものね」


悲観するような言葉だが、フランチェスカの表情はいたって普通だ。

多分、諦めの境地まで至っているからだろう。


「何百年……か。考えられんな」


「あら、半鬼の寿命って長いのよ? 驚く程に、ね。下手したらエルフ位は普通に生きるわよ? 多分、長生きする奴は千年、二千年は平気で生きるわ」


そう言う暁に、フランチェスカは指摘した。


「……ふむ。……まだまだ先は長そうだな」


そう肩を竦めた暁だが、さほど気にするほどの事でもない、といった様子だ。


「……私には、余り関係ない、かな」


そうボソッと呟いた言葉は、フランチェスカに聞こえたらしく、


「――あら、それは分からないわよ?」


そう言われた。

首を傾げ、続きを促す。


「だって貴女、”デミゴッテス”でしょ? 確か『神が己を模して生み出した種族』……って説明されてたわよね。そんなのが、って言うと悪いけど、”神に生み出された摸神(デミゴッテス)”が、人間と同じ寿命な訳無いじゃない」


……そうだった。

最近色々ありすぎて忘れてたけど、俺人間じゃないんだった。


「”神”なんてついてる位だもの、私以上……いえ、不老不死なんてこともあり得るんじゃない? ま、これからまだ長いわ。……ゆっくり、考えなさいな」


俺はフランチェスカに言われたその言葉が、暫く頭から離れなかった。




ブックマーク宜しくお願いします!


現在思いついた短編を書いてます。

次の投稿は遅くなるかもです。

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