四十話 圧倒
「スキル発動……【火竜炎舞】!」
暁の大剣が再び炎を纏う。
そして、【身体強化】すら使わず、それ以上の速度で造魔に駆け寄ると、まるで踊るように次々と斬り始めた。
「フフフ――フハハハハハハハハハハ!!!」
その最中、暁は笑っていた。
心底嬉しそうに、愉しそうに、笑っていた。
それを、仕方がないな、と言う風に肩を竦めたフランチェスカは、杖を構え、詠唱を始める。
フランチェスカから流れ出る膨大な量の魔力がコウリン達の足元に、巨大な魔法陣を形成していく。
「古の聖なる城の城壁よ。あらゆる敵から我が愛すべき者達を護り給え。阻みなさい! ――【聖なる城を護る十字架】」
そして現れるのは神代にあったとされる聖なる城を囲む堅牢なる城壁だ。
中心に十字架、その周囲に様々な模様を模った純白の壁が、魔法陣より現れる。
それらはコウリン達を囲み、造魔達からのあらゆる攻撃を防ぐ。
「さて、そろそろ煩わしくなってきたわ。……暁!」
フランチェスカの声に、狂戦士の如く暴れまわっていた暁が、瞬時に身を引く。
大きく跳躍し、フランチェスカの隣に着地する。
そして、フランチェスカは己の右手に握られた杖を天に翳す。
「……集え、集え、我が杖に集え雷光。古の天災を、荒ぶる神の鉄槌を、ここに顕現せよ。――【王の雷霆】」
天高くに現れた魔法陣から眩い光と雷が造魔達へと降り注ぐ。
「――ぎゃあアアアアアアアアアアアアはハハハハハハハ!!」
「ぉぉぉぉぉオおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「助けっ! 助けてぇええええええええええええええはハハッはあ!!」
神の雷が、人が生み出した哀れな化物を焼き殺していく。
それが収束すると同時に、コウリン達を守っていた純白の壁が消失した。
コウリン達の表情には、安堵と驚きが浮かんでいた。
「……やっぱ姉御達スゲェわ」
思わず、コウリンがそう言うのも仕方のない事だろう。
剣を納めた暁が、未だ呆然としているコウリンに尋ねる。
「コウリン、相手のアジト。何処にあるかわかるか?」
「あ、あぁ、夜から教えて貰った。……あっちだ」
「そうか。では、ここから先は私一人で行くとしよう。フラン達は私が呼ぶまでここで待っていると良い」
「ちょ! 暁! 一人なんて危険だよ!」
その言葉に、ハルキが驚き、声を上げた。
だが、暁の意志は固かった。
「私にはギルドマスターとしての責任がある。それに、誰かがワンダ老を見ていなければならない。今襲われれば確実に死人が出るぞ。無傷で倒せるのは私とフランだけだ。なら、私とフランは別れるべきだろう。一番確実なのは、私が一人で行き、他の皆でここで待っている事だ」
そう淡々と言い切った暁は「では行って来る」と背を向け、歩き出す。
フランチェスカがその背中に「暁、待ちなさい」と声を掛けた。
「なんだ?」
剣呑な雰囲気の儘の暁に顔色一つ変えず、フランチェスカは暁のいる方向とは違う方向を指差し、
「そっちは帰り道。アジトがあるのはあっちよ」
そう言ったのだった。
魔道具により、”哀れな信徒”が滅された光景を見ていたグレゴは、慌てた。
途中までは良かったのだ。
数人の冒険者と思われる者達は、確かに冒険者の中ではずば抜けて高い実力を持っているのがわかったが、あれ程の数の”哀れな信徒”を相手にするのは無理なのだ。
現に、若い少年か少女か分からない魔術師を庇い、老人が重傷を負ったのを見た時は、ほくそ笑んだ。
それ程に、”哀れな信徒”は強いのだ。
冒険者達に、コレクターを装い、『魔物を集めて欲しい』と依頼を出した。
そうして集められた魔物達を組み合わせ、生み出された地上最強の生物である。
自らが生み出した実験動物、聖戦の為の兵器こそが、そうなのだと。
そうグレゴは自負していた。そして願っていた。
それを使い、自分が教皇となるのだと。
そして異教徒共を滅ぼし、真の信仰を復活させるのだと。
だが、そこに現れた新たな冒険者、その先頭にいた二人の女によって、あっという間に殲滅してしまったのだ。
「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ!」
法衣が地面に擦れ、枝に引っかかり切れるのも気にならない程、焦っていた。
グレゴは慌てて小屋の前まで駆けて来た。
そして扉を開けようとして――
「お前がグレゴ・リベレウスか」
後ろから、女の声が聞こえた。
暁とフランチェスカはゲーム内でもトップクラスの実力者でした。
おおよその力をレベルで表現すると、
この世界の最高:レベル40後半~50前後
コウリン達互助会一般メンバー:レベル50~60後半
造魔:レベル60~70まで
夜:レベル100
暁&フランチェスカ:レベル120位
暁とフランチェスカが作品内トップです。
二人は主人公である夜よりも実力はともかく強いのです。
だからといって夜が負けるかどうかと言えば分からないところですが……。