三話 黒のルドビレ
……ルドビレをルビドレと書いてました(汗)
訂正しておきます。
俺が過去の事を思い出していると、不意にコンコンと扉をノックする音と、
「夜様ー!!」
と言う明るい声。
「……入って、いい」
と俺が返事をするとバン! と音を立てて勢い良く扉が開かれ、俺よりも背の低い少女が機嫌良さそうに入って来た。
喋り方には何も言わないでくれ、俺が自分で言おうとしても口から出るのはこんな風な不器用と淡白を絵にかいた様な言葉なんだ。
見辛くても我慢してくれるとありがたい。
「お早う御座います夜様!」
敬礼をしながらぴょんと飛び上がって挨拶をする俺より年下の少女――スイだ。
俺の部下の一人であり、最初に出会ったのは半年程前だ。
まぁ詳しい事は話さないが、俺が拾ったのである。
その後、行くところが無いと言うから部下の一人として育てており、本人の才能もあって、めきめきと実力を上げている。
特に腕力は無茶苦茶で、おそらくはオーガかオークとのハーフだろう。
得意なのは破壊活動、そして護衛だ。
性格は素直で、まるで犬の様だ。
尻尾がもの凄い速度で振られているのが俺には見える。
まぁ、慕われている事は素直に嬉しいし満更でもないんだが……。
で、今は身の回りの世話……と言うよりは護衛、ボディーガードみたいなものとして――まぁ俺自身それなりに強いので実際には護衛は必要ないのだが――近くに置いていた。
「……どうした「――朝食食べに行きましょう!!」、の?」
おぉう。
俺が言い終わる前に元気良く返事をしたスイ。
うん、ポーカーフェイスで良かった。
暗殺者やら何やら束ねている頭がこの程度で驚いてちゃ面目が立たない。
俺は普段服に着替えて、スイを連れて食堂へと向かった。
さて、俺が今いる場所――寝起きをしている場所は俺が長である”魔女の夜”の本部である。
場所は、この世界に似た俺が前世でやっていたゲーム『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』の幾つかある大陸の中でも、最も巨大な”オートロン大陸”にある、一番の大国である”マグニフィカ王国”の王都”シュトルテン”、その大通りに面した”魔女の夜”が表向きに経営している商会の敷地内、その宿舎である。
”魔女の夜”が経営している食堂には”魔女の夜の本部”に努めている人間と”商会に勤めている人間”が来る為に非常に広く造られている。
大衆食堂にも負けない程の広さがある食堂で、俺はトーストのセット、スイは俺と同じものに加えて
ご飯を主食としたセットを頼んで席に座る。
長である俺が歩いているが、昨日の様に挨拶されたりはしない。
本部ならいざ知らず、商会の方に所属している奴の中には商会が”魔女の夜”の表向きの顔の一つであると知らない奴もいるからだ。
「……いただき、ます」
手を合わせて食べ始める。
うん、美味い。
俺の食べているトーストのセットは貴族御用達の商人――俺の知人でもある――から取り寄せたパンに、様々なジャム、ベーコンエッグに新鮮な野菜で作ったサラダ、そして日替わりのスープの付いたセットである。
この身体になってからというもの、男だった時より一口の大きさや食べる量が減った。
「ガツガツガツ……ふぉいひいふぇふふぇ!」
目の前でスイがもの凄い勢いで食べているご飯のセットは、主食の米に焼き魚、漬物に味噌汁と完全な和食だ。
因みにであるが、米やら味噌は中世ヨーロッパをモデルとしたオートロン大陸にはないため、日本とよく似た国のある大陸から取り寄せてもらっているのだ。
世界中に拠点と人脈を持つ”魔女の夜”だからこそ出来る事である。
”魔女”の夜がここまで大きくなったのはここ一年半ほどでの事だ。
まぁいつかその時の事は話すだろう。
取り敢えずは”魔女の夜”の規模を知っておいてくれればそれで良い。
さて、”魔女の夜”の長である俺だが、基本的には暇である。
やることと言えば様子見に、”魔女の夜”の表向きとして経営している店に行ったり、傭兵団に行ったりする程度だ。実際には幹部や、それに近い部下、協力者達が動いている為、長である俺の仕事はそれ程多くない。
今日の日程はその内の一つ、傭兵団への視察である。
まぁ視察なんて程のモノではないのだが。
早速、普段着から外出用の服へ着替える。
深緑の膝丈のスカートの下に、更に黒の七分丈のズボン、足には茶色のブーツを穿く。
上着は冒険者にありがちな動きやすさを重視し、腰にはナイフを付け、俺のトレードマークである黒いベラドンナの装飾のブローチを付ける。
このブローチはゲーム『ザ・ワールド・オブ・エタニティー』にある最上級難度のクエストのランダム報酬で手に入るレア装備品の一つだ。
正式名称は『魔性のルドビレ』。
ルドビレとは、ブルガリア語でベラドンナを表す。
因みに、ベラドンナは文字通り『美しい女性』を意味するナス科の植物だ。
花言葉は『沈黙』、『人を騙す魅力』等。
ブルーベリーにも似た実を付けるベラドンナだが、強い毒性を持つ為、決して食べたり触ってはいけない。
魔女が毒薬作りに使用したことから”悪魔の草”、”魔女の草”なんて呼ばれてもいる。
葉に触れるだけでもかぶれてしまうし、その実や根を食べてしまうと嘔吐や下痢、呼吸困難、脈拍数の増加、更には麻薬を使用したかのように幻覚を視たり、周囲を走り回ったりしてしまい、最悪死んでしまうというヤバい植物なのだ。
加えて、この実を食べた動物を人間が食べても死んでしまう。
しかし、時には薬にもなり、市販の鼻炎薬にも含まれていたりするのだ。
……なんで俺は植物の説明なんてしているんだ。
えーっと……そうだ。
『魔性のルドビレ』の装備説明には『古の国の魔性と謳われた、とある傾国の美女が付けていたとされるブローチ。付けた持ち主は呪われると言う』と書かれていたはずだ。……俺は呪われたことないけど。
クエストの内容は『毒の沼地にある廃城で歩く屍となった過去の人々を全て倒す』。
敵の数は総勢二百五十体だったかな? 数多いし、フィールドが常に毒に覆われているので【毒無効】が当たり前、しかも敵が高レベルっつー面倒なクエストだったことは覚えている。
『魔性のルドビレ』の効果は【魅惑】と【毒無効】。
俺の持つスキルと重複しているのだが、外見が気に入って付けている。
まぁクエストの難易度と効果が見合わないので、付けているプレイヤーは俺くらいだったが。
……さて、そんなこんなでブローチも付けて準備も出来たし、スイを連れて傭兵団の処へ行くとしますかね。
お仕事お仕事。
自分がなりたくてなった地位なんだ。
これ位はしないとな。
夜(悠夜)「……なんでタイトル(仮)がルドビレなの?」
???「夜は毒のスキルを最高にしていたのと、『魔性のルドビレ』を付けていた事からゲーム内では『黒のルドビレ』やら『夜のルドビレ』なんて呼ばれていたんだ」
夜「……誰?」
???「……後で出てくるさ」
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