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三十八話 ピンチ!

夜の出番はしっかりありますので安心してくださいませ。

「【身体強化(ボーディブースト)】! 【自動回復(オートヒーリング)】!」


 ハルキが、身体能力を上昇させる術と自動回復の術を仲間全体に掛ける。

 それが戦闘開始の合図だった。

 素早く動き、一体の造魔を全員で囲む。


「行くぞ! ――ぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!」


 コウリンが気合の声を上げて造魔へと肉薄する。

 素早く駆け寄っての横一閃。

 スキルも何も使用していないただの一撃だが、それに匹敵する程に洗練された一撃だった――が、


「――なっ!?」


 ガキン、と音を立てて造魔の身体を斬りつけたはずの刃は、蜥蜴の硬い鱗に弾かれた。


「ならスキルでどうだ! ――【裂閃斧(れっせんふ)】!」


 ゼイが得物である片手斧(ハンドアックス)を叩きつける。

 風を纏った刃が蜥蜴の鱗を切り裂き、肉に到達する。


「―—ぁぁぁあああああぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」


 痛みで暴れ、のたうつ造魔。

 スキルならば通る事を理解し、コウリン達はスキル中心の戦い方に変えた。

 スキルは魔力を使うが、だからと言って長期戦になること等考える程の余裕はない。

 造魔はそれ程に強いのだ。

 ゲーム内でも、百レベル以上の連中だろうが、やられてしまうのだ。

 それに、この世界は現実だ。

 難易度としては更に高くなる。


「聖なる光よ。我等を照らし、我等を護る盾となれ! 【光の防壁(ライト・シールド)】! お願い皆を守って!」


 ハルキの守りの術が、メンバーを覆う膜となる。

 一生懸命なハルキだが、術を掛けられた側は全く違う事を考えていた。


「サンキュ!」(なんてヒロイン力!)


「助かるぜ!」(性別女なら結婚するのに!)


「あんがとよ!」(なんか男でも良いような気がしてきた)


「よっし! 頑張るぜ!」(あの腰、尻! 誘ってるとしか思えない!)


「ありがとね! ハルキちゃん!」(あー、もう食べちゃいたい……)


 ……全く以って救いの無い阿呆な連中である。

 だが誰も、そんな思いを顔に出すことなく、必死な形相をしていたのだった。






 そして、どれ程経っただろうか。暫くして造魔の身体が地面に倒れる。

 既に全員が肩で息をするほどに疲労していた。


「……っは! やべぇ……ゲームん時より強くなってねぇかおい」


 大きく息を吐いたコウリンはそう愚痴を零した。


「……全くじゃの。老骨には厳しいもんじゃて」


 ワンダもやれやれと腰を叩く。


「愚痴ってもしょうがないでしょ。 ほら、集中しなさい!」


 そんな二人に、細剣と盾を構えた女性メンバーが苦情を言う。

 そんな彼等は既に、多くの造魔に囲まれていた。

 その数、凡そ二十。

 聞いていた数よりは少ないが、それでも脅威なのは間違いない。

 今はまだ誰も致命的な傷を負っていないが、それがいつまで続くか……。

 そんな、糸がピンと張りつめたような状況であった。


「……まだまだぁ!」


 そんな中で、ゼイが得物を振り回し、近くの造魔を斬りつける。

 だが、どうやら浅かったらしく、造魔は仰け反っただけだった。


「……チッ! ――ォラアァァッ!!」


 舌打ちをし、もう一度気合と共に得物を振り下ろす。

 その隣でハルキも、攻撃魔法へと切り替え、唱える。


「数多の凍てつく槍よ。我が敵を()ち……貫け! 【氷結の連槍(アイスランス)】!」


 ハルキの周囲に、拳より少し大きい程の氷の槍が現れ、造魔達に降り注ぐ。


「……駄目! 倒せない!」


 氷の槍はその穂先で造魔達を貫くが、倒すにまで至らない。


「そりゃそうだ。此奴等を軽く倒せるのなんざ本気になった暁や姉御達位だろうぜ! ――っと!」


「『互助会』の最大戦力クラスかよ。面倒だ……な!」


 他のメンバー達も、愚痴りながらも応戦していく。

 ある者は剣で斬り、ある者は槍で貫き、ある者は鎚で潰し、ある者は魔術を放つ。

 魔力残量など最早気にする余裕などなく、一撃一撃が必殺と言っても良い。


「竜をも殺す、炎を纏いし我が(つるぎ)よ! 我が敵を切り裂け! 【火炎竜斬(かえんりゅうざん)】!」


「――ッァアアあああアアああアアアアあ!!」


 コウリンの一撃が、弱っていた造魔を切り裂き、その身体を燃やし尽くす。

 造魔は言葉にならないような悲鳴を上げ、その身体を横たえた。

 だが、未だに造魔は減っていない。

 寧ろ、その数は多くなっていっている様に思えた。

 彼等を弄ぶかのように、造魔達は――笑っていた。





「……まさか待ち伏せされているとは思わなかったが、丁度良い」


 ロド派トップであるグレゴ・リベレウスは、そうほくそ笑んだ。

 そして、檻の中を見る。


「……ォ。……ォォォォオオオ!!!」


「……だすげ……てぇ。たすげでょお……」


「……ゴロズゥ!! コロジてやるぅぅぉおおおおおお!!」


「「「ォア……オギャアアアアアアアアア!!」」」


 幾つもの聞くに堪えない声が響き渡る。

 未だ、造魔のその数は多いのだ。


「さぁ、我が玩具(がんぐ)達よ。我が願いの為に、殺せ! 殺し尽くすのだ!」


 地上の様子を見る為に、グレゴは階段を上がって行った。






 何時間経ったのだろうか。

 最早時間の感覚など忘れる程、コウリン達は疲弊していた。

 ゲーム内ならデスペナルティがあるだけだが、これは現実である。

 それが更に彼等の精神を疲弊させる事となっていた。

 メンバーの身体のあちこちに自分の血や返り血が付着しており、髪は乱れ、鎧には傷がつき、服は破れ、最早倒れる寸前と言っても過言ではない。


「……はぁ、はぁ、はぁ」


 その中で特に疲労していたのはハルキだった。

 元々体力もなく、絶えず治癒術や補助魔術を唱えており、魔力の消費も他のメンバーより激しかったのだ。

 思わず倒れそうになるハルキ。


「やれやれ……老骨にはキツイものじゃ……っ!? ハルキ坊!」


「――うっ!」


 ワンダがハルキを突き飛ばし、ハルキの華奢な身体が地面を転がる。

 ハルキが顔を上げると、ワンダの脇腹に鋭く、太い針が貫いていた。

 この前夜が倒した造魔と同じ、蠍型の造魔であった。


「ぐっ! ――ぉぉぉぉおおぉぉぉおおおおお!!!!」


 痛みを堪え、振るわれたワンダの一撃が、蠍の尾を断ち切った。

 そして針を無理矢理引き抜くと、脇腹を押さえて(うずくま)った。


「ワンダ!」


「ワンダさん!」


「爺さん!」


 メンバー全員が駆け寄り、治癒魔法が使えるメンバーで治癒をする。

 その傷はみるみる塞がるが、その顔は未だ苦痛に染まっていた。

 兎に角、ワンダを横たわらせ、その周囲を守るように囲む。


「おいおい! 完全にピンチじゃねぇか!」


「アタッカーの連中は前に出ろ! 盾持ちや魔術師連中はワンダを守れ!」


「どうするよコウリン(リーダー)!?」


 この部隊のリーダーを任されたコウリンは額に汗を浮かべ、必死に考える。

 しかし、囲まれている状態ではどうすることも出来ない。

 ただ誰も死なないように頑張るのみだ。

 だが、コウリンは信じていた。

 そして、彼女達はその信頼を裏切る事は無い。


「――ふむ。これはまた随分と多いな」


「――そうね、まるで獲物に群がる蟻みたいね」


 恐らくはこの世界の最強格にして、『互助会』三大戦力の内の二人。

 ”神殺しの女騎士”と”妖精女王”が来ることを。




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