三十七話 VS造魔 戦闘開始
数日後、エッフェンベラへと『互助会』の先遣部隊のメンバーはやってきた。
「国境の検問も無し、か。……フランの姉御には感謝だな」
フランチェスカの知り合いだからと言う事で、一行は検問を素通り出来た。
その事に、コウリンはありがたいと本気で思っていた。
冒険者として大陸内を移動することが多いコウリンにとって、国境の検問は時間が取られることもあって、苦手なのだ。
「じゃ、先ずはお嬢に会いに行こうぜ」
コウリンの肩を叩いて、ゼイが言った。
「……今夜は何処にいるの?」
首を傾げて、ハルキが言う。
それに対し、ゼイが答えた。
「お嬢ならトリコロのウチが経営している宿屋にいるってさ」
「やれやれ、老骨には厳しい道のりよな」
その隣で、ローガンが腰を擦りながらぼやいた。
「はいはい。じゃ、とっとと行こうぜ。これ以上犠牲が増えるのは嫌だしな」
コウリンの発言に、全員が頷き、夜のいるトリコロへと急ぎ向かった。
「……お待たせ。……遅れて、ゴメン」
トリコロにある夜のいる宿屋にやって来たコウリン達だが、夜がいないと言う事で、一時間ほど待合室で待たされていた。
そこに急いでやって来た夜は、何時もと変わらぬ無表情で、汗一つ掻いていなかった。
先に座っていたコウリン達のテーブルに夜が座るのを待って、コウリンは答えた。
「別にいいさ。……仕事か?」
「……似た様なモノ」
そう端的に言った夜は、宿屋の主――と言っても部下だが――に度の強い酒を頼んだ。
「こんな夕方から酒かよ」
「……私にアルコールは効かない」
そうバッサリと言って、酒を受け取った夜は一気に飲み干す。
言葉通り、夜の顔色は何一つ変わらない。
それを見て、肩を竦めたコウリンは一行を代表して話し出す。
「……で、奴さん等の動きは?」
「……これ」
そう言って、夜は小型の録音機能と再生機能が付いた魔道具を取り出し、それを起動する。
そこからノイズ混じりに、二つの声が聞こえるが、一方の声は掠れ、聞き取れない。
『――次の満月の夜、決行する。……なに、”哀れな信徒”共には言う事を聞くように洗脳の術式を埋め込んである。術を使えば誰を襲うも自由自在。先ずはこの国を掌握したいものだが……うむ。そうだな。では、先ずは小手調べにこの先の村を襲うとしよ――』
そこで再生を止めた夜は、コウリンを見て言う。
「……満月は明日」
「なら、今日の内の方が良いのか?」
コウリンの問いに、夜は首を振って否定した。
「……やるなら、明日。そっちの方が確実。……それに、首謀者を逃したくない」
「……成程。なら決行は明日だな。……姐さん達はいつ来るって?」
コウリンは隣で聞いていたハルキに聞く。
「うーん……明日でしょ? 間に合わないかも……ううん、多分間に合わない、と思う」
少し考え込んだハルキだが、顔を上げてそう断言する。
コウリンは腕を組み、小さく呟いた。
「……わかってたことだけど、フランの姉御や暁が遅れるとなると戦力的に痛いな」
「ま、はなっから俺達の役目は先遣隊……時間稼ぎだ。それさえ頭に入れ解けば大丈夫だって!」
「その通り! 儂等はフランチェスカ殿や暁の嬢ちゃんが来るのを耐えれば良いのだ」
「そうだぜコウリン! 無茶しなきゃいいんだ」
「今回は『互助会』の全力だ。組織どころか、一国二国潰せる戦力だぜ!」
ゼイとワンダが、そしてそれ以外のメンバーも口を揃えて沈痛な面持ちのコウリンの肩をバシバシと叩き激励する。
それを苦笑いしながらも、コウリンは笑みを浮かべ、頷いたのだった。
翌日、日も暮れる頃、コウリン達は夜の使い魔の様なモノであるカラスに導かれ、森奥の施設に向かっていた。
全速力とはいかないまでも、体力を削らない程度の速度で駆けて行く。
その殆どが、転生者達の中でもコウリン達と同じくゲームキャラになったメンバーであり、その身体能力には種族差があるものの、身体能力が高いため、走る速度としてはかなり早い。
尚、ハルキのみ、風魔法を使い移動していたが、それに文句を言う人間は誰一人いない。
「決行するなら夜、か。確かに人目につかないから襲撃にはもってこい、だな」
「これから視界が悪くなる一方だ。油断してると不意打ちをくらうぜ? お嬢の報告じゃあ姿を透明にしたり周囲の景色に同化させる奴もいるだろうって話だしな」
「僕が索敵魔法を使ってるけど……隠密能力が高いと僕の術で察知できるかどうか……」
コウリンとゼイの会話に入りながらも、索敵魔法で周囲を探るハルキ。
その少し後ろに、ワンダを含めた数人が周囲を警戒している。
「見えてきたぞ!」
誰が叫んだのか分からないが、木々を抜けた先に小屋がある。
コウリンが強化魔法を使い、先行しようとした次の瞬間――
「コウリン、避けて!」
「――っ!」
ハルキの叫びで、死角から振るわれた爪をギリギリで避ける事が出来た。
大きく態勢を崩し、転びながらもすぐに受け身を取り立ち上がる。
爪を振るった影が夕日に照らされる。
人間の男の上半身に巨大な蜥蜴の下半身を持つ造魔だ。
上半身の人間の腕は鋭い蜥蜴の腕になっている。
「……ひっさしぶりに見るけど、やっぱ見た目キツイなぁ」
額に滲んだ汗と、転んだ拍子に付着した土を拭い、コウリンは目の前の敵を笑いながら睨み付けた。
「コウリン!」
「大丈夫かよおい!」
ハルキやゼイ達も、すぐに駆け付け、コウリンを助け起こし、戦闘態勢に入る。
コウリンも、背中に背負った愛用の剣を抜き、上段に構えた。
「さぁ、時間稼ぎだ。精一杯やってやる――行くぞ!!」
「――助げで、助けでヨ゛おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁあああぁぁああああハハハハハは!!」
赤く染まる夕日と、背の高い木々が影を落とした森の中、造魔の狂笑が響いた。
……この話だけ見ると、コウリンが主役に見えるなぁ。
まぁ、一番外見や性能面で普通ですからね。
誤字脱字、単語の使い方の誤り等、ありましたら指摘お願いします。