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三十五話 見えてきた

「……まじかよ」


 男に変装しているからこそ、俺の反応は素だった。

 俺の目の前に映ったのは――


「「「ォア……オギャアアアアアアアアア!!」」」


 毛むくじゃらの身体、足を二本生やした魔物がいた。

 その顔は赤子だった。

 まだ、おそらくは乳幼児だったのだろう。

 無垢な顔はひたすらに穏やかだ。

 だが、その姿は醜悪の一言だった。

 その後ろにも、顔が三つあるモノや、蜘蛛の身体を持つモノがいる。

 どれ程の子供を使()()()のだろうか。

 だが、今のところ子供が攫われたなんて話は聞いていない。

 俺はそいつ等から無理矢理意識を外し、他の牢を見ることにした。






「おう。お疲れ。もう帰っていいってさ」


「おう。りょうかーい」


 地下牢の見張りを終え、俺がその場を離れたのは夜になってからだった。

 俺は一人で森の中を町に向けて歩いていく。

 施設から遠く離れ、太い樹の枝に飛び乗ったところで俺は【変装スキル】を解いた。


「……ふぅ」


 牢の中にいたのは総勢四十体にも上る魔物……”哀れな信徒(アングーシャ)”だった。

 ……面倒だから造魔で良いか。

 そいつ等は融合された魔物にもよるが、俺以上の腕力、俺の刃が通らない程の硬い皮膚を持つ。

 対人間に特化した俺には非常に相性が悪い相手だ。

 なるべくなら戦いたくない。


「……おいで」


 俺はカラス(部下の”鴉”じゃなくて動物の方)を呼ぶと、音を立てて数羽のカラスが俺のいる枝に止まった。

 カラス達は真っ黒な眼で俺を見上げる。


「……ロド派が経営している孤児院や医療施設を重点的に調べて。数日後に報告を聞く。……そう”鴉”に伝えて」


「「「……カァ!」」」


 カラス達はそう鳴くと、一斉に飛び立っていった。

 勿論、エッフェンベラの各地に散らばっている”鴉”、情報部である”梟”に加え、『互助会』のリーダーであるフランチェスカや副リーダーであるべリオス達への協力を呼びかける為である。

 調査は”魔女の夜”の得意とするところであるが、国への配慮もしなければならないだろう。

 他国であるが故に、『貴方の国で今こんな事が起きていますよ。なので我々が解決しますよ』と伝えておく必要があるのだ。

 それには裏の人間よりは表で生きる立場の高い人間が相応しい。

 今回は三方向からだ。


 エルフ族の族長であるフランチェスカ。

 そしてこの大陸において最も力を持つと言われている国マグニフィカの次期国王であるべリオス。

 ハンターや冒険者達の一大拠点であるマグニフィカにあるギルドのギルドマスターである暁。


 特に、エッフェンベラ教国において、エルフ族は神の子孫と言われている。

 故に、その長であり、”真祖エルフ(ハイエルフ)”と言う精霊に近いともされているフランチェスカの言葉は強い意味を持つ。

 教皇が()()であるならば、フランチェスカの言葉を聞いてくれるはずだ。


「……帰る」


 俺は取り敢えず、拠点に戻ることにしたのだった。






 数日後、俺は再び部下達を集めた。


「……どうだった?」


 俺の端的な質問にも、部下達は正確に意味を汲み取り、応えてくれる。


「はっ! 我々が調べましたところによると、確かに夜様の仰る通り、ロド派は孤児院や病人……それも末期患者を収容する施設を幾つか所持しておりました」


 ……やっぱりか。


「……人の出入りは」


「はい。孤児院の方は『養子として引き取られた』子供がここ数ヵ月だけでも十名程、医療施設の方は死に欠けた人間が布を被されて、どちらも人目につかないように連れ出されるのを見ました。行先はご想像通りです。首謀者は間違いなくロド派のトップでしょうね」


「……下種」


 ……俺も部下に奴隷商人がいるから人の事は言えないが。

 今回の場合はそれはそれ。


「……詳細を纏めました書類は此方に。既に渡す方々の分も用意してあります」


「……ありがと」


 俺が受け取った書類の最初のページには首謀者の名前が書かれていた。


 聖教ロド派グレゴ・リベレウス大司教、そう書かれていた。






 夜が報告書を送った翌日、『互助会』の本部に、報告書を受け取ったフランチェスカ、暁、べリオスの三人が集まっていた。

 夜からの要請を、どのように行うかの話し合いの為である。


「……お前等も読んだか? 夜からの報告書」


「……あぁ、ロド派の連中……特にトップのグレゴと言う男は間違いなく外道だな」


 来た途端聞いてきたべリオスに、暁は頷いた。

 べリオスは普段着、姿勢良く座っている暁は何時もの重厚な鎧姿だ。


「……これ、私に教皇に会いに行けって事よね?」


 その暁の隣で、苦虫を噛み潰したような表情のフランチェスカ。

 相も変わらず、抜群のスタイルを隠そうともせず、スリットの入った薄いローブ姿で、気怠そうに腕を組んでいた。


「……私、出歩きたくないのだけれど」


 人間嫌いでマイペースなフランチェスカにとっては、面倒な事この上無かった。




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