三十四話 哀れなマモノ
「良い案が浮かばない」と考えてもう三十四話ですよ。
誰かこの正式タイトルを決めてくださいお願いします(泣)。
未だに(仮)なんですよ。
「……ォ。……ォォォォオオオ!!!」
「……だすげ……てぇ。たすげでょお……」
「……ゴロズゥ!! コロジてやるぅぅぉおおおおおお!!」
石で出来た地下牢に、唸り声が響く。
その声は一体二体どころではない。
何十といった数の声があちこちから聞こえてくる。
それと同時に、金属を揺らす音も聞こえて来た。
地下牢に怒りと、悲しみと、そして苦しみの混ざった声が、何時までも響いていた。
俺は再び、森の前にやって来ていた。
ロド派の本部や関係者達の調査は部下達に任せている。
さて、調査を始めるか。
先ずは先日、造魔がいた場所を目指す。
前回の時に、微量の魔力を散布する魔道具を地中にセットしておいてある。
それを目印にすれば、あの位置までは行けるはずだ。
勿論、俺達転生者(ゲームキャラになった連中)達並み魔力に機敏な連中じゃないと探知出来ない程に微量の魔力だ。
「……うん。出来てる」
そして、これの一番の特徴は、『近付いた人間の身体に散布された魔力が纏わりつく』事だ。
そしてその魔力は数日間は消えない。
なら、森奥へと続く魔力の痕跡を追えば良いのだ。
俺の眼には、魔力の小さな痕跡が煙の様な状態で森奥へと続いているのがはっきりと見えた。
俺が行きついたのは森奥の木で出来た小屋だった。
小屋の前には幾人か装備を整えた衛兵のような連中がいるが、気配を消し、茂みに隠れている俺には気付いていない。
魔力探知をすれば、地下に膨大な魔力を放つ存在がウジャウジャいる。
……何十体いんだよコレ。思ったよりも多いじゃねぇか。
先ずは潜入するところからだな。
暫くすると、衛兵の一人が隣の衛兵に話しかけた。
「すまん! ちょっと用足しにいってくる!」
「……まじかよ。……あ、近くでやんなよ? 小便臭いのは嫌だからな」
「わぁってるよ。じゃ、ちょっと頼んだ」
俺は、そう言って離れてった兵士を追いかける。
衛兵は少しばかり離れた場所で用を足し始めた。
「……あー。ったく。何で俺等がこんなことしなきゃなんねぇんだか。俺は教会の衛兵になりたかったってのに……っと」
……虚しい。
俺も前はこうだったんだよなぁ……。
女の身体になったばかりの頃は慣れなくて大変だったなぁ……。
……なんて、思い出すのはやめてっと。
「おー悪いな。待たせちまって」
帰って来た衛兵に、待っていたもう一人の男が文句を垂れる。
「遅ぇっての! 何してたんだよ?」
「出が悪かったんだっての。悪かったって」
素直に謝る男に毒気を抜かれたのか、男は小屋の方を顎で指す。
「お前其の儘地下の守衛だってよ。俺の代わりな。じゃ、俺の代わりに怖い目にあってくれ」
「えーマジかよ。……ったく、わかったよ」
帰って来た衛兵は肩を落とすが、素直に小屋の方へと歩いて行った。
ガチャン
と音を立てて扉を閉めた衛兵は、地下へと続く階段を見て肩の力を抜く……なーんてな。
……計画通り(ゲス顔)。
そう、わかってたと思うが、俺です。
ゲーム内におけるクラス、『暗殺者』や『ジェーン・ザ・リッパー』で会得出来る【変装スキル】はこの世界でも外見や声質すら変える事が出来る。
……改めて思ったけどゲームキャラを其の儘現実世界に置き換えるとチート過ぎだな。
さて、この階段を降りれば良いんだよな。
つーか魔力とか呻き声とかダダ漏れだし。
徐々に聞こえてくる呻き声、そして金属を揺さぶる音。
そこにあったのは幾つもの石で出来た頑丈な牢屋だった。
更に、弱体化の魔術が掛けられていた。
「……ォ。……ォォォォオオオ!!!」
「……だすげ……てぇ。たすげでょお……」
「……ゴロズゥ!! コロジてやるぅぅぉおおおおおお!!」
そして、牢屋の中には数多くの、一つとして同じ姿がない造魔がいた。
ただ呻くモノ、涙声で助けを呼ぶモノ、誰に向けてか怒りを叫ぶモノ。
虫や魚、爬虫類、ゴブリン等の魔物等々……。
融合し、醜悪な姿となったモノが、そこで蠢いていた。
思わず、俺は動きを止めてしまう。
「……おう。お前、ここは初めてだったか。驚いただろ?」
後ろから声を掛けられ、思わずびっくりしてしまう。
……普段はあの身体だから、表情に出ないだけだぞ?
俺に声を掛けたのはどうやらここの責任者らしい男だった。
「は、はい。……驚いちまいました。何なんですかコレ?」
「こいつらはな、とある方が命名したんだが、”哀れな信徒”。人が生み出した魔物だよ」
”哀れな信徒”……ねぇ。
どういうネーミングセンスしてんだか。
「牢屋の監視とはいえ、安心しな。身の危険はないからな」
「……はぁ」
「退魔の神聖魔法に弱体化の魔法、金属も他の宗派からくすねた聖遺物を使った特別製だ」
ナンデスト?
他の宗派から『くすねた』?
……ほんとロクでもねぇことしやがるなぁ。
「じゃ、頑張ってくれや」
そう言って階段を上がって行った男を一瞥し、俺は呻き声や叫び声の中、牢の中を見て回る。
そして――
「……まじ、かよ」
思わず、口から驚きの声が漏れ出した。
俺は、その一番奥、一番巨大な牢の中にいる『禁忌』を見た。
見て――しまった。
”哀れな信徒”は造語です。
響き的に良かっただけで、特に意味はありません。