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三十二話 造られた存在

「……ふぅ」


 目の前の造魔の亡骸を眺めて一息吐く。

 白目を剥いて倒れている女性の顔を月が照らす。

 それに近寄って――


「――っ!」


 下げた俺の頭の上を何かが音を立てて薙いだ。

 自身の身体能力と気配察知能力の高さに感謝だね。


「……ゥウウウゥウゥウゥヴォう……ぅヴ」


 現れたのは全身毛むくじゃらの大型の獣だ。

 身体は胴長で、手も膝まで届く程に長い。

 その姿はナマケモノに似ていた。

 顔は人間の()()で、恐らく造魔の内の一体だ。

 顔が人間のナマケモノが、ユラユラと動きながら笑っている姿は、不気味なだけだった。

 そして、その姿は一瞬で掻き消えた。

 ……厄介だな。

 気配を辿れば、消えたところから一切動いていない。

 だが、ただ()で見れば姿は見えない。

 カメレオンみたいな奴だな。


「――ぉヴ、ヴォおぉぉおおお!!」


 姿を隠し、声を発しながら、鋭い爪で襲い掛かってくる造魔だが……ゴメン、俺には丸見えなんだよね。


「――フッ!!」


 跳躍し、狙ったのは造魔の眼だ。

 両手にナイフを持ち、両眼に突き刺す。


「――ァがああああアアアアアアアア!!!」


 堪らず仰け反った造魔に素早く駆け寄り、全身の筋を断ち、動きを阻害していく。

 ……筋力のステータス上げとけば良かったかなぁ。

 だからこう言う生命力の高い連中は手が無いとは言わないけど苦手だ。

 暗殺者の役になりきりたいからって余り筋力を上げてなかったんだよなぁ……。

 筋力上げておけば暁みたいに敵を真っ二つとか出来るんだけど。


「あぁアアアア! ぉアアアアアア! ぉアアアアアアおおお!」


 どうやら先程の造魔よりは随分と知能が低いらしい。

 先程の造魔は言葉を喋っていたが、目の前のナマケモノの造魔は叫ぶだけだ。

 そこらへんも個体差があるのだろうか?

 ……まぁ、いいや。


「――っ!!」


「……マ゛ア゛アアアアアアぉオおおおあ!!」


 先程の敵と同じように、【ランベイズの毒殺魔(ポイズナーランベイズ)】で即死させる。

 この世界に来てまだ試した事のない恐らく竜ですら即死する程の強力な毒だ。

 先に死んでいた造魔に折り重なるように造魔が倒れる。

 周囲の気配を探り、何もいない事を確認して肩の力を抜く。

 さて、コイツ等を回収して調べたいんだけど……どうするかね。





 その後、”渡り鳥”を呼び、本部で”梟”達に調査させる為に運ばせた。

 速くて七日後には結果が出るだろう。

 その間にやるべきなのは、誰が、何故、どのくらいの規模でやっているのかを調べる事だ。

 造魔なんてものが自然発生したなんて事はありえないのだ。

 この森の奥で、恐らく造魔を造っているのだろう。

 あくまでも今回は偵察だ。

 戦ってみてわかったが、余り俺と相性は良くない。

 毒を生成すればそれで終わりなんだろうが、接近戦ばかりは流石に無理だ。

 それに生命力が高いし、融合した魔物や動物の種族によっては、俺の筋力じゃ刃が通らず、ダメージを与えられないだろう。

 造魔相手は暁達人外剣士共やハルキやフランチェスカ達魔術師連中に任せた方が良いな。

 ……別に今まで散々いろんな事任された仕返しって訳じゃあないぞ?





 七日後、エッフェンベラの首都トリコロの宿屋――勿論”魔女の夜”に所属している奴が経営している信頼出来る宿だ――で過ごしていた俺に”梟”からの報告を持ったカラスが到着した。

 隠蔽の術を使ってから、宿の部屋の窓を開け、カラスを入れる。

 カラスの胴に掛けられた筒を開き、その中に入っていた書類を取り出す。


「…………」


 書かれていたのは造魔の事。

 ”梟”達が二体の造魔をそれぞれ解剖したのだ。


 魔術での融合だと思ったが、人の手による縫合箇所もあった事。

 魔術と人手を使い、融合した人間は完全に魔物と融合しており、魔物の部分から切り取ると人間体も死んでしまう事。

 魔物だけではなく、造魔の内の一体がそうだったが、この世界に生きている動物とも融合されていた事。

 融合の際に使われている魔術が、エッフェンベラの信徒に伝わる治癒術の独特な術式であった事。


 つまり、造魔を生み出しているのはエッフェンベラの信徒だと言う事が確定したわけだ。

 で、次に必要なのは『誰がやっているのか』を調べる事だ。

 まぁおおよその予想は出来るんだけどね。





「お、フラン。来たか」


「……夜からの連絡が来たのでしょう?」


 暁が、気怠気そうに現れたフランチェスカに対して片手を上げて挨拶する。

 それに対して頷くだけで返したフランチェスカはソファに深く腰掛けた。

 腕組で、豊かな胸が更に存在感を増すが、同性である暁はそれを気にも留めない。

 一方、気不味そうに眼を逸らすのはコウリンやヴァイス、べリオス達男性陣だ。

 因みに、こういう時、夜は同性であると言う言い訳を使い、ガン見する。

 フランチェスカも、夜を気に入っている為、それを注意することもない。


「あぁ。……これが夜が殺した造魔の解剖の結果だ」


 そう言って暁が差し出したのは夜が受け取った書類と全く一緒のものだ。

 それをパラパラとめくり、フランチェスカは「はぁ……」と溜息を吐いた。


「……面倒なことになりそうね。精霊達もここのところ、エッフェンベラに寄り付かないから何かあるとは思ってたけれど」


「そうなのか?」


 暁の疑問に、「えぇ」と頷く。


「……精霊達は敏感だから、魔力の淀んだ場所や、穢れの多い場所なんかには近づかないのよ。本来ならエッフェンベラは宗教が独自とはいえ、信仰厚い国柄だし、神聖魔術を扱ってることもあって、何方かと言えば清い場所……のはずなのよ」


「そこに精霊が近寄らない……か」


「……ま、エッフェンベラの()()がやってるのでしょう。こんな事出来るのは地位の高い人間か『それなり』に魔術が扱える人間でしょうね」


「面倒くさい」と、心底面倒くさそうに、フランチェスカが溜息を吐くのを、メンバーは苦笑いして見ていた。




男主人公モノばかりを思いつく……。

まぁ今まで投稿してきたのは女主人公モノばかりでしたし、良いんだろうけども。


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